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2011年05月16日22時25分掲載
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英ガーディアン副編集長にウィキリークスとのメガ・リーク作業について聞く
昨年夏から年末にかけて、ウィキリークスと共同で一連のメガリーク報道を行った、英ガーディアン紙のイアン・カッツ副編集長に、作業の一部始終と編集方針を聞いた。(ロンドン=小林恭子)(朝日「Journalism」4月号などで一部紹介。)
***
―どうやってウィキリークスとの共同作業を始めたのか
イアン・カッツ:これまでにもいろいろな事件で協力体制をとってきた。2−3年前にはケニア政府の汚職の話を一緒にやった。これは大成功のケースで、ウィキリークスが情報を取得してガーディアンでもすぐに公開した。英極右派政党BNPの党員名簿公開でも協力した。ガーディアンの調査報道記者デービッド・リーがウィキリークスの代表ジュリアン・アサンジとずっと連絡を維持してきた。
今回のメガリークに関しては、ニック・デービス記者が話を持ってきた。メガリークの話を聞いてアサンジに連絡し、捕まえた。このくだりはもうデービスが記事に書いているけれどね。デービスはアサンジにブリュッセルで会って、一緒にやろうと呼びかけたんだ。ニューヨーク・タイムズとシュピーゲルもこれに参加してね。
―情報はどうやって受け取ったのか?
カッツ:3つの段階があった。最初に受け取ったのは戦闘記録で、データベースにアクセスするパスワードをもらった。米外交公電の場合は、リーがメモリースティックをもらった。この経緯に関してももう書いているけれど。そして、リーはこのメモリースティックを持ってスコットランドに行ったんだ。3ヶ月ぐらい、自分で吟味していた。すべてを1つのコンピューターに入れていた。
掲載の約一ヶ月前になって、社内にデータベースを作って、みんなで共有できるようにした。この過程で、外国特派員が3−4人関わって、その後に8−9人ぐらいが関わった。仕事場からリモートアクセスでデータベースを使えるようにした。その後は、一人か二人の特派員にロンドンに帰ってもらって、作業した。駐在先の国ではデータベースへのアクセスが自由にできなかったから。
こうして、最初のころは、デービッド・リー、それともう一人の調査報道部記者のロブ・エバンスも入れて、20人から40人ぐらいが作業に関わった。それからどんどんまた人を入れていって、専門記者も入れたな。経済記者、環境問題の記者とか・・。
―ITエンジニアも?
カッツ:そうだ。でもそのほとんどがジャーナリストだった。経済や金融記者、環境、エネルギー、医療、司法、スポーツ、メディアの記者も。全体では30−40人ぐらい。
―戦闘記録の分析には、軍事関係の人を入れたのか?
カッツ:そういう意味の専門家は入れなかった。ニューヨーク・タイムズやシュピーゲルと共同作業でよかったのは、三つの媒体が協力すれば、戦闘記録が何を意味するのかが分かって、すべての略語を読解できるようになっていた。
原稿を書く段階になってから、よく専門家に聞きに行った。そのとき、ウィキリークスが出したこういう戦闘日記があるんだけどーという聞き方はしないで、「こういうことが起きた」ということなんだけど、ちょっとつながりを見つけるのに協力してくれないか?と聞いた。その後は、自分たちで文脈を探り当てることができた。
―英国の政府当局とは連絡を取ったのか?
カッツ:米外交公電の件で?
―そう。ニューヨーク・タイムズは官邸と連絡を取ったようだけれど。
カッツ:米外交公電に関しては、ガーディアンは確かに米政府に連絡した。しかし、私たちがやったこととニューヨーク・タイムズがやったことには違いがある。ニューヨーク・タイムズはどの公電を扱うかという情報を米政府と共有したが、私たちは共有しなかった。
ガーディアンは、ロンドンの米国大使館やワシントンの米国務省と何度も議論の機会を持った。米政府側は特定の事柄に関して懸念を表明したよ。そこでこっちは「懸念の件は考慮する。しかし、どの公電を使うかは言えない」と言ったよ。
―英政府は?連絡をつけたのか?
カッツ:お伺いをたてる、ということはなかったな。特定の事柄に関して連絡を取ることはあったけど、つまり、アフガン戦闘記録について、英軍が関わったアフガン民間人の犠牲に関する事柄について聞いたことはあったけれど。
―特定の事柄に関して、政府に連絡を取るのは一つのルーティンかどうか?ウィキリークスの場合が特別というよりも?
カッツ:そうだ。それと、どこの国の政府とも、どれを使うかあるいは使わないかという点に関して、どの段階でも一切交渉をしなかった。
―ガーディアンとウィキリークスの関係だが、メガリークに関しては新聞が主導したことになったが。
カッツ:そうだが、協力関係は昨年末までだ。12月23日頃に解消した。年を越してもいくつかのウィキリークスがらみの記事は時折出しているけれど。 記事を出して、当事者に危険が及ばないように既に一部を消した公電情報をウィキリークスに送り、ウィキリークスが掲載する、というパターンだった。
こうして、少なくとも昨年末までは、ウィキリークスが出したほぼすべての米外交公電は、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、シュピーゲルが責任を持って、消すべきところは消したものだ。
―ロンドン市立大学に拠点を多く調査報道センター(CIJ)のギャビン・マクフェイデン所長は、アフガン戦闘日記の情報公開で、「間違いがあった」と言っていたが。これに気づいていたか?
カッツ:特にどの情報の事を指しているのか、分からない。一回か2回、掲載した後で、「待てよ、消すはずの名前が出てるぞ」と誰かが言って、すぐに修正したことは覚えているが。
興味深いのは、米国防総省も国務省も、イラクやアフガンの戦闘記録や米外交公電の報道で、誰かが危険な状態になったことを示す証拠がひとつもないと言っていることだ。
―ニューヨーク・タイムズは生の外交公電情報をウィキリークススからは直接受け取らなかった。私の知人の一人が、「ニューヨーク・タイムズは直接情報を受け取りたくなかったので、ガーディアンからもらった」とガーディアンの編集者が言っていた、と話してくれた。 そういう話を私はガディアンのサイトでは読まなかった。
カッツ:私もだ。初耳だ。
私たちはアサンジと最初に情報の取り扱いに関して約束をした。これは戦闘日記も外交公電も、すべての情報だと私たちは思った。アサンジはこれに同意しない。アサンジが同意したのは外交公電のみであって、戦闘日記のそれぞれにはまた別の合意約束が必要だ、と言ったんだよ。
夏が過ぎて、アサンジはニューヨーク・タイムズと仲が悪くなった。それでデータをニューヨーク・タイムズにあげたくないと言い出した。デービッド・リーは、これは道のくぼみみたいなもんで、今後も、3つの媒体で仕事を進めるべきだ、といった。そこで、ニューヨーク・タイムズと情報を共有することにしたんだ。プロジェクト全体のために共闘して来た。これはほんの短期のことなんだ、アサンジが気難しくなっているだけなんだ、と。それで、状況を修復させて、作業を継続した
―どんどん、他の媒体も参加しているようだ。一体何が起きているのか?
カッツ:ウィキリークスは、地域ごとにパッケージとして情報を共有しようと考えている。例えば、オーストラリアやブラジルにはその地方のパートナーがいる。ただ、ノルウェーの新聞アフテンポステンはウィキリークスが出したのではない情報を使っていると言っている。
ウィキリークス自体にリークが起きたんじゃないかな。ウィキリークスの端っこでリークして、アフテンポステンにあげたんだ。アフテンポステンはデンマークのポリティケン紙にあげたのかもしれない。どうやって情報を得たのかは、分からない。ただ、今じゃ複数のコピーがあるということだ。
―英民放チャンネル4とは共同作業をしているのか?メガリークのデータはチャンネル4にも行ったようだから。
カッツ:情報が渡っていたね。でも、ガーディアンがチャンネル4に情報を出したんじゃないんだよ。チャンネル4が持っていると聞いた時、強い怒りを感じた。アサンジが戦闘記録をチャンネル4にあげてしまったんだよ。チャンネル4とガーディアンは前に一緒に仕事をしたことがあるけど、この件に関しては共同作業はしてない。
―ガーディアンや他の媒体が時間をかけて修正をしたデータが他の媒体にすっと渡ってしまうのでは、ずいぶんと悔しい思いをしたのではないか?
カッツ:まあ、すごく心配になったね。こっちは何時間も、何時間も、何時間もの努力と頭を使って、情報を安全に、責任を持って出そうとしたんだ。誰かが修正なしに出してしまったら、全てが水の泡になりそうだった。アサンジにとっても問題になるよ。生の情報がそのまま出てしまったらね。私たちがやってきたこと全てが無駄になった気がした。
―編集方針について聞きたい。国益は公益よりも重要だろうか?これは二者択一の問題か?ガーディアンの方針は何か?
カッツ:いつもバランスをどうするかの話になる。一般的にいうと、今回は英国というよりも米国の国益だったが。
ペンタゴン文書の裁判で非常に興味深い判定が出た。米最高裁の判事が、 文書の公開は公益ではなかったと言ったが、それでも、直接的なかつ回復不可能な損害を与えないと言ったんだよー細かい表現は忘れたけれど。つまり、判事が言っているのは、一般的に、法律は公開をして間違える側に味方するということだ、明確な損害が起きる場合を除いては。
健全な社会では、出版して間違うほうが、情報を出さないで間違えるよりもいい。何かを知っていたら、これを出すというところから始まる。ガーディアンが何かを知っていたら、読者も知る、と。 そうは言っても、外交公電報道の原稿を作っているときに、自問自答したことが何度もあったよ。「さて、この情報は米国務省が主張する損害を無視して余りあるほどの公益があるだろうか?」と。
欧州では、一般的に、出版して間違いを犯すほうを選ぶと思う。
しかし、ニューヨーク・タイムズとガーディアンを比較して(どちらが報道の勇気があったかを)論じるのは公正ではない。ニューヨーク・タイムズの場合は米国の国益が問題にされたわけだから。
ニューヨーク・タイムズは本当に勇敢な新聞だと思う。ウィキリークスは、ニューヨーク・タイムズが批判の矛先を緩めた報道をしたという。しかし、優れた報道を行ったと思う。量的にはガーディアンほど多くはなかったけれど。私は、それには別の理由があったと思う。米国では少ない本数の記事をでかくやる。こっちはたくさんの記事を出す。
ーもし同様のことが起きたら、英国の新聞は政府に挑戦して報道を行えるか?
カッツ:同様の判断をするだろうと思いたいが、しかし、英国の司法状況は米国とはずいぶん違う。司法の縛りがはるかにきつい。公務守秘法があるし、名誉毀損法もある。事前差止め令があるし。例えば米国などと比べ、こっちでは差止め令がよく出る。
米国では、政府が報道の差し止めをしようとしたら、大きな話になる。こちらでは日常茶飯事だ。もし英国の外交公電が出たら?出版を止めるよう、政府は差止め令を出そうとしただろうね。
―ガーディアンは差し止めが出されても、出版しようとしただろうか?
カッツ:そうだ。ニューヨーク・タイムズやシュピーゲルと協力しようと思った理由の1つは、世界中で掲載されているのだから、差し止めはできないと思ったことだ。
―これが共同作業の利点だった?
カッツ:そうだ。
―ウィキリークスはジャーナリズムか?
カッツ:ジャーナリズムだと思う。かつて、私たちが理解するところのジャーナリズムとは編集過程の全てを指していた。情報を得て、これを検証し、コンテクスト化し、分析し、読者に届ける、と。
ウィキリークスは、この過程のすべてには関わらない。最初のところだけをやる。あるいは最後のところだけ。真ん中をやらないのだ。しかし、時には、私たちも真ん中だけ、あるいは最後だけやる。だからといって、ジャーナリズムではないとはいえない。すべての過程をやる必要は、もはやない。ウィキリークスはジャーナリズム・プロセスを満たしていると思う。
―ジャーナリズムを変えただろうか?
カッツ:それはいうのは早すぎる。本当の問題は、情報を持つ人がどんどんとウィキリークスのようなところへ行くことだ。大きなブランドだし、匿名を守る。リーク者はウィキリークスに行くのか、それとも、ジャーナリストのところへ行って、なんらかの関係を持ち、情報の処理の仕方や公開に色をつけることを助けるのかどうかーまだ答えはわからない。
私たちのような伝統的なメディアでは、多くのエリアで、メディアのランドスケープが分断化している状況に慣れる必要があると思っている。
例えばブログがある。政治に興味を持っている人であれば、ガーディアンは政治ブログと競争している。私たちが書く記事と同じぐらい良くて、権威があるブログがある。これまでは新聞が得意だとされていきた解説や分析だってネット上のどこかにあるだろう。
メディアの生態圏が多様になっている。ガーディアンはブログと並列状態に存在していることに慣れつつある。機密情報を出すことができる人にも慣れないといけなくなった。ほかのニュース媒体の担い手にどうやって対抗していくのか。
このメディアの生態圏は私たちのようなメディアがないと機能しないと思うけれど、私たちの役割は、いつも最初から最後までではない。他のメディアが取り扱わない、一部を担当するだけかもしれない。例えば事件を分析するブログがあれば、私たちの役割はニュースを出すこと。その後で、このブログがそのニュースに関して分析を出して、議論が始まる。ウィキリークスの場合はその反対で、ウイキリークスが情報を出し、私たちが文脈を配信する、と。
―ガーディアンは柔軟でないとやっていけなくなった。
カッツ:私たちみんながそうなる必要がある。
―他のリークサイトとも協力するか?
カッツ:私たちは様々なアイデアに対し、完全にオープンだ。ウィキリークス元NO2のダニエル・ドムシャイク=ベルクとも話している。情報を出す人が望むような秘蔵性と匿名性を提供できるところであれば、誰とでも組みたい。(終)
***補足***
4月26日、英テレグラフや米ワシントン・ポスト、米新聞グループのマクラッチー、フランスのルモンド紙、ドイツのシュピーゲルに加え、イタリアやスウェーデンの新聞などがウィキリークスからの情報を元にキューバの米グアンタナモ基地に関する機密を大々的に報じた。内容は、グアンタナモの収容者700人以上に関する調査をしたファイル。
今回、ウィキリークスはガーディアンやニューヨーク・タイムズと共同作業を行わなかった。しかし、この2紙も同日、大々的に報じた。ウィキリークスは情報を横取りされた格好になった。ウィキリークスは2紙に故意に情報を渡さなかった模様だ(暴露本などで、関係が冷えたと見られているー「新聞協会報」5月10日号、共同電)。
・・・という経過を聞いての私の感想ー。この情報がもともと、いわゆるマニング上等兵からウィキリークスに渡った情報の一部であったとも考えられるが(そういう意味では、すでにガーディアンもニューヨーク・タイムズも生情報を持っていた)、別の意味では、元ウィキリークスNO2のダニエル・ドムシャイト=ベルクが本に書いたように、ウィキリークスが大手メディアと共闘した、あるいはウィキリークスあるいはアサンジが大手メディアをいいように扱った・・・のではなく、「大手メディアに食い物にされるアサンジ(あるいはウィキリークス)」という構図が見える。おそろしや、大手メディア!弱肉強食。(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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ガーディアンの副編集長イアン・カッツ氏





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