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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2011年06月09日14時29分掲載
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コラム
記憶と映画 村上良太
何日か、何週間か、あるいは何か月か前の話で、「言った」とか、「言わなかった」といった食い違いが生じることは誰にもあるだろう。そうした時のために、小型の録音機をスーツに仕込んでおけ、とか、きちんと書面でかわしておけ、とアドバイスする人もいる。互いに相手が故意に嘘をついている、と思い、怒りと不信感は増すばかりだ。しかし、ビジネスならいざしらず、日常生活でそんなことをしていたら、きりがない。いったいなぜそんなことになってしまうのか?
映画「キャタピラー」を編集した映画編集者の掛須秀一氏はこんな昔話をしてくれたことがある。映画の勉強をしていた青年時代、掛須氏は映画館で映画を見た後、家に帰って、映画を「採録」していた。記憶を頼りに、セリフやアクションをノートに書いて脚本を再構成する作業である。今のようにDVDやレンタルビデオ屋で映画が豊富に参照できる時代ではない。ノートと鉛筆だけで印象に残るセリフやアクションを書き出していくのである。そんな風に記憶で物語を再構成してみたものの、他人が採録したバージョンとはよほどかけ離れた映画になっていた。
人はそれぞれ自分が面白いと思ったところで映画を評価する。人によって映画が面白かったり、面白くなかったりするのは観客の人生や感性や考え方などが作用するためだ。だから、印象に残るセリフやシーンも人によってばらつきがある。観客が100人いれば100通りの映画があると言っても過言ではない。
DVDやビデオで録画が自由にできる時代になると、映画は何度でも見ることができる。エンドレスでかけっぱなしにして20回、30回見た映画もある。そのくらい繰り返し見ても、それまで気がつかなかったカットがある。気がつかなかったということは確かに映像を見ているのだが、意識に残らなかったということである。20回や30回でそれだから、1回や2回になると、そうしたカットの割合は数十%に上るだろう。
日常生活は映画ではないが、それでも、人それぞれ自分の好きな物語でそのシーンを編集しているのかもしれない。だから、もし確かにそのときその場で言っていたとしても、相手の物語の中ではカットされてしまっているのかもしれない。話しているときは相手と同じ映画を見ているつもりだったのだろうが・・・・。
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