■ECA (欧州と中央アジア) 5か国を食品価格の高騰が直撃
世界銀行によると、昨年以来の食料品価格と燃料価格の高騰でECAと呼ばれる欧州から中央アジアにまたがる地域で貧困層が拡大している。この傾向により、この地域で新たにおよそ530万人が貧困に陥る見通しだ。特に、所得の低いアルメニア、グルジア、キルギス、モルドバ、タジキスタンの5か国にその影響が著しい。同じ欧州でも欧州連合加盟国や加盟準備国への影響はこれらの国々よりはずっと少ない。
アルメニア、グルジア、キルギス、モルドバ、タジキスタンの5か国では昨年、食料品価格は平均で13%上昇し、燃料価格は平均で15%上昇した。特に著しかったキルギスでは食糧品価格が27%上昇、グルジアでは23%上昇している。この2か国では消費者物価指数(CPI)に占める食糧価格の割合は40%以上の高い割合だ。つまり食糧価格の高騰が物価の高騰を招く結果となっている。
これらのトレンドの背景には中国やブラジル、インドなど新興経済国群で賃金が上昇し、食料品とエネルギーを多量に消費するようになったことがある。その一方で、燃料不足による供給の停滞や、穀物の一定割合がバイオ燃料に使われていることも食糧価格の高騰を呼んでいる。短期的にはロシアにおける干ばつやオーストラリアの洪水などもあげられる。
■インターナショナルヘラルドトリビューン(6月29日 社説)
「農産物の価格は昨年3分の1以上の上昇を見せた。特に、穀類では70%の価格上昇である。これは暴動が起きた2008年をしのぐ勢いだ。世界銀行によると、食料品価格の高騰により2010年の後半に、4400万人が新たに飢餓に陥った。」
穀類(cereal)は本当に70%も価格が上がったのだろうか?その数値の根拠はFAO(国連食糧農業機関)にあった。「昨年2月と比べて、主要な穀類の輸出価格は少なくとも70%上昇し、穀類の国際価格が急上昇している」(今年3月11日のFAOの発表)
ここで70%値が上がったと言っているのは「国際価格」のことのようだ。国際価格と国内価格とは一応、分けて考える必要がある。
また世界銀行は2月15日に「推定4400万人が昨年6月以来新たに貧困に陥った」と発表した。世界銀行の食品価格指数では昨年10月と今年1月を比べると15%上昇している。また1年前の昨年1月と比べれば食品価格指数は29%上昇したことになる。指数というと何やら難しそうだが、つまりは食品価格が一般に3割近く値上がりしたということである。
http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/NEWS/0,,contentMDK:22833439~pagePK:34370~piPK:34424~theSitePK:4607,00.html 穀類の価格上昇が食料品全般の平均価格を押し上げたと解釈できそうだ。その背景には先述のような需要の増大、供給体制の不備、天候による不作などがあげられているが、その裏には投機筋もかんでいると見られている。そして、今、アラブ・中東で起きている「革命」も、その背景には食料品価格の高騰が指摘されている。
■FAO(国連食糧農業機関)の6月17日の声明
「OECD・FAO農業見通し2011−2020」によれば、今後数カ月で豊作となれば農産物価格は年初に見られた高値より下がるとみられている。しかし、今後十年の実質価格は2001年―2010年と比べ、穀物が平均20%、食肉が30%値上がりする可能性がある。」
食料品の高騰は消費者物価全体を押し上げる。特に貧困層を抱える開発途上国では栄養不良者を増やすことになる。開発途上国では生活費に占める食料品の割合が高いからだ。 ジャック・ディウフFAO事務局長は「低所得食料不足国の小規模生産者(*農業)に焦点をあてた対策を講じるべきだ」としている。これは国際NGOのオックスファム(Oxfam)がアフリカで進めている貧困対策事業の考え方と合致している。オックスファムでは2030年には米、小麦、トウモロコシなどの主要穀物価格は2倍以上に達するとの見通しを示している。
■「飢餓はジョークじゃない」歌手アンジェリック・キジョー
歌手でオックスファムの大使に任命されたアンジェリック・キジョー(Angelique Kidjo)さんがブログで訴えている。
「座ってチェップ・ボウ・ジャンを食べるくらいいいものはないわ。魚と米と野菜を使ったセネガルの料理よ。でも、それがないときのことも知っている。飢餓はジョークじゃない。お腹が火事になったような感覚よ。それを避けたいのは私ひとりじゃない。約10億人が、7人に1人が今飢えている。でも、それはおかしな話よ。なぜって世界の食料全体を見れば全員が飢えなくて済むのだから。問題は食料の生産と配給の仕組みにある・・・私たちは飢餓人口が過去数十年で初めて増加に転じた世界に生きているのです」
http://www.oxfam.org/ ■世界銀行 Food Price Watch 下のリンクでは世界の主要農作物価格の国別の価格変動(2010年6月から12月までの推移)がレポートされている。国際価格の上昇が国内価格にも影響を与えている。 小麦価格の国際価格は75%上昇した。国別ではキルギスタン国内で54%上昇、アフガニスタンでは19%上昇している。 米価の国際価格は17%上昇した。ベトナム国内では46%上昇した。インドネシアとバングラディッシュ、パキスタンでは19%上昇した。 トウモロコシの国際価格は73%上昇した。ブラジル国内では56%、アルゼンチンでは40%、ルワンダでは19%上昇している。 世界銀行の資料によると、米の価格上昇は小麦やトウモロコシよりも比較的に低い。しかも日本は米の輸入に依存しているわけでもない。そのため、日本では世界の穀物価格の高騰が実感できないのかもしれない。しかし発展途上国で小麦を主食にしている国々ではこの急激な価格上昇が社会に与えるインパクトはきわめて大きい。
http://www.worldbank.org/foodcrisis/food_price_watch_report_feb2011.html
|