昨年末から、スペインの破滅的な空気を伝えるのがエル・パイス(El Pais)紙の漫画家、エル・ロト(El Roto)である。
http://www.elpais.com/vineta/?d_date=20120105&autor=El%20Roto&anchor=elpporopivin&xref=20120105elpepivin_3&type=Tes&k=Roto 子供が赤いミニカーを前に、つぶやいている。「おもちゃなんか、いらないよ。僕が欲しいのは債権と株券と手形なんだ」子供の爛々と輝く見開いた目が狂気を感じさせる。
エル・ロトには独自のタッチがある。それは黒インクの使い方だろう。水墨画に連なるタッチを感じる。ウィキペディアによれば、エル・ロトはペンネームで、本名はアンドレ・ラバゴ・ガルシア(Andres Rabago Garcia)のようである。
ウィキペディアによると、彼は1947年にマドリードに生まれた。独学で漫画の描き方を身につけ、1968年から漫画家として活動を始めた。初期に漫画を掲載した媒体のひとつに「Hermano Lobo(狼兄弟)」という雑誌があるそうだ。これはフランスの風刺誌「Charlie Hebdo」に影響された雑誌だとされる。後ろについているHebdoは「週刊」の意味である。
その後、エル・ロトは活躍の場を広げ、現在はスペインを代表する新聞、エル・パイスの常連漫画家となった。ちなみに、バルセロナのスペイン人と話をすると、エル・パイスでは通じず、「エル・パイース」と伸ばして発音していた。エル・パイスが創刊されたのは1976年で、フランコ総統が亡くなった翌年である。そう見ると、まだ日が浅い新聞である。ウィキぺディアによると、発行部数はおよそ47万部(2010年)と書かれている。
エル・ロトの過去の作品を思い出すと、たとえば足元の地面に穴を掘っている中年男たちを描いた「頑張れば頑張るほど沈んでいく。掘るのをやめろ」がある。これは不条理劇のような作品だが、リストラブームの中で自分たちの基盤をつぶしていく現状を批判しているものとみた。これはスペインだけのことだろうか。 また、「鳩にエサをやるな」という漫画があった。鳩にエサを与える人間を非難するとともに、「働かない」鳩をも非難して重複するイメージを作りだしている。これは先日のフォルヘスの漫画「去年4回笑ったのはなぜだ?」にも通じる。笑ったというだけで取り調べられてしまう。経済危機が悪化するに従い、失業者に対する世間の視線が厳しいものになっていることを感じさせる。 先日、日本の喫茶店でこんな世間話を耳にした。「生活保護をもらっている連中はみんな半月間トイレ掃除をさせたらいい。」スペインでも日本でも空気は似ている。今後貿易とサービスの自由化で失業者が増えたら、空気はさらに厳しくなるだろう。そのうち、途上国に出稼ぎ・・・ということも増えるかもしれない。
エル・ロトが追いかけているものはその世相を生きる庶民の気分である。読者はそこに自画像を見るはずである。
■雑誌「Hermano Lobo(狼兄弟)」
http://www.hermanolobodigital.com/# ■雑誌Charlie Hebdo(フランス)
http://www.charliehebdo.fr/ フランスの風刺・ユーモア週刊誌。1969年から1981年まで続いたのち、1992年に再刊された。最初はハラキリと名付けられた月刊誌だったが、のちに週刊版も発刊され、名前も「チャーリー(Charie Hebdo)」に改められた。参加アーチストにはカナール・アンシェネで活躍中のカビュ(Cabu)もいる。2011年にはイスラム教のシャリアにひっかけた特別版'Charia Hebdo'を出版したため、事務所を攻撃されたとされる。 新年早々のウェブサイトの漫画には「サルコジ、今年は(エリゼ宮の)鍵を返せ」という声にサルコジ大統領が「いやだ!」と鍵を呑み込んでいる一枚がある。サルコジを風刺した漫画集「サルコサーカス」を描いた漫画家カビュの絵である。
■スペインの危うい空気
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201201012207460 ■「高齢らしい男が柔道と空手の格闘技のジムをくぐろうとしているようだ。これがスペインの世相とどうつながっているのか想像するのみである(・・・なんだか恐ろしい気がする)。」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201112041259160 ■スペインの漫画から 「頑張れば頑張るほど、沈んでいく。掘るのをやめろ」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111270247050 ■「鳩にエサをやるな」 スペイン1コマ漫画
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111071504101 ■一目散に駆けるウサギが語る。「勢子たちが僕たちをどこに追い詰めようとしているのか、ちょっと立ち止まって確認すべきじゃないか?」
http://www.elpais.com/vineta/?d_date=20111110&autor=El%20Roto&anchor=elpporopivin&xref=20111110elpepivin_3&type=Tes&k=Roto
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