東京・練馬に拠点を持つ東京演劇アンサンブルでは今年2月24日から3月4日まで韓国の現代戯曲「荷」を上演する。演出は坂手洋二氏。以下は同劇団のニュースレターから。
「2011年12月、公演地の中に舞鶴での公演がありました。舞鶴は、2月に公演する『荷』にも登場する浮島丸が爆沈した地です。タイトなスケジュールの中、「浮島丸事件殉難者追悼の会」現会長の余江勝彦さんのご案内で、爆沈現場を見ることができました。
余江さんは元中学校の美術教師で、「追悼の碑」の製作者のひとり。追悼の会は、当初この事件によって命を失った遭難者たちを追悼するということから始まり、その活動の中で日本の戦争責任に行きつき、「追悼の碑」の製作をし、毎年8月24日の追悼集会を行っています。爆沈そのものの問題よりも、なぜ彼ら朝鮮人が日本に連れてこられ、また、この船に乗せられたのか。そのことを追及することによって、この事件に巻き込まれ、失われた人々のことを思い、この事件そのものを風化させることなく、語り継ぐことを、「追悼の会」は続けてきました。僕たちも、その一端に触れることができ、貴重な機会を持つことができました。
東京演劇アンサンブル2012年のスタートは、韓国演劇界のベテラン女性作家・鄭福根さんが書いた『荷』を日本初上演します。彼女との出会いは、2009年3月。シアタートラムで行われた日韓演劇交流センターhttp://www.tckj.org/index.html による「韓国現代戯曲ドラマリーディング」でのことです。
その時にリーディング上演された『こんな歌』という作品は、とても乾いた厳しい目線で書かれていて、作家の強い信念のようなものを感じました。終演後の打ち上げの席で、彼女と直接話す機会があり、「あなたの作品を、僕の劇団で上演したい」と伝えると「昨年上演した『荷』という作品はどうか」という答えが返ってきました。僕はこの作品の話を聞くまで浮島丸事件というものを知りませんでした。
1945年8月24日、日本に強制徴用されていた朝鮮人労働者とその家族を乗せた船が、釜山に向かう途中、舞鶴港沖で爆沈しました。数千人の乗客が命を失ったというこの事件をモチーフに、現在の視点から描かれているのが、鄭福根さんの提案した『荷』という作品だったのです。劇団の韓国公演でも何度もお世話になっているソウル在住の石川樹里さんの協力も得ることができ、劇団でも討議を重ねて、公演にこぎつけることが出来ました。
演出にお迎えするのは坂手洋二さん。燐光群の主宰であり、日本劇作家協会の会長や、その他現在演劇界の要職を兼任している、まさに日本演劇界のオピニオンリーダーともいえる存在です。社会派演劇と評され、問題をジャーナリスティックに深く掘り下げる視点は、誠実で力強い。日韓の演劇交流にも思い入れが深く、韓国演劇界からの信頼も厚く、今回の演目にこれ以上ない方と創造できることになりました。劇団という創造主体に対する期待を持って、ブレヒトの芝居小屋に通っていただきます。
また周りを固めるスタッフも豪華な方々となりました。フリージャズや映画音楽のほか様々なスタンスで活躍されている大友良英さんをはじめ、衣裳には大ベテランの緒方規矩子さん、坂手作品ではおなじみの、美術の加藤ちかさん、照明の竹林功さん、音響の島猛さんと心強い布陣です。そして、国内外でも活躍されている振付の矢内原美邦さん、宣伝美術には沢野ひとしさんにも参加していただき、ブレヒトの芝居小屋での新たな出会いに期待が膨らんでいます。
もうひとつ、今回の公演で特筆すべきは、2人の俳優を韓国からお招きしてのまさに日韓の演劇交流による作品作りとなります。チョン・スンギルさんは、舞台だけでなく映画でも活躍しており、韓国版『だるまさんがころんだ』(作=坂手洋二 演出=キム・ガンボ)に出演し、演出の坂手さんとは旧知の中。もうお一方の、ウ・ミファさんも『たたかう女』(坂手洋二作、キム・スヒ演出)に出演しており、2011年のソウル演劇祭大賞を受賞した『桃の花が枯れれば松の花粉が飛び』(ソン・ギホ演出)で、女優演技賞を受賞している実力も折り紙つきです。
鄭福根さん自らが推薦してくれた『荷』。日本と韓国の間に残された重い“荷”を、共に考えたいという彼女の大胆な提案です。東京演劇アンサンブルでこそ、上演するべき作品だと思いました。日韓の演劇交流を牽引する人たちの力をお借りし、日本と韓国の間に残る重い“荷”を考えるとともに、新たな関係となりつつある両国のさらなる文化芸術の一助になればと思います。」
東京演劇アンサンブル 太田昭
★「荷」(チム) 鄭福根(チョン・ボックン)作 石川樹里訳
■東京演劇アンサンブルのホームページ
http://www.tee.co.jp/
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