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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2012年01月20日19時21分掲載
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検証・メディア
英ニュース週刊誌「エコノミスト」好調の理由とは その1
国際政治、経済、社会動向の最新情報を分析・解説する、英国のニュース週刊誌「エコノミスト」が、好調の波に乗っている。売れている理由は何か?月刊メディア誌「Journalism」12月号に書いた記事に補足しました。(ロンドン=小林恭子)
エコノミスト・グループの2011年3月決算期の営業利益は前年度10%増の6300万ポンド(約78億円、2011年11月7日計算)、収入は9%増(3億4700万ポンド)、税引き後の利益は16%増(4420万ポンド)に上る。発行部数は4%増(2010年7月―12月期)の約147万部。広告収入は15%増で、デジタル広告の伸びに注目すれば、23%増の好成績だ。
広告主や読者の「紙離れ」が恒常的経営不振の大きな原因となっている米英の新聞雑誌業界からすれば、「エコノミスト」の好調はうらやましい限りだ。
一方、負債が膨らんでいた米ニュース週刊誌「ニューズウィーク」は、米版「エコノミスト」を目指して2008年に変身を図ったものの、思うような結果を出せないままに終わっている。
「ライバル誌には絶対に真似できない」と「エコノミスト」の編集者の1人は、筆者に自信たっぷりに語る。一体、「エコノミスト」にできて、ほかのニュース雑誌にできないこととは何なのか?
本稿では、改めて「エコノミスト」とは何かに注目し、成功のための戦略を紹介する。また、米ニュース雑誌業界の盛衰をたどりながら、「エコノミスト」の成功理由を別の側面から見てみたい。
―1843年創刊の穀物法反対運動の落し子
週刊誌「エコノミスト」の創刊は1843年である。帽子製造を営んでいたスコットランド人、ジェームズ・ウィルソンが38歳で立ち上げた。
ウィルソンは経済における自由放任主義「レッセフェール」を信奉し、1830年代後半、大きな政治問題になっていた「穀物法」廃止運動の主要論客の1人となった。
穀物法とは、国内の穀物価格がかなり高くなるまで、外国からの穀物輸入を禁止するもので、価格の高値維持を狙う法律だ。1815年、ナポレオン戦争が終了し、欧州大陸から安い穀物が流入することをおそれて導入された。
当時、国会議員の大部分は地主貴族で、生産する穀物の値段が高止まりするのは自分たちにとっては都合が良かった。しかし、穀物価格が上がれば賃金が上がると見た産業資本家層がこれに反対し、パンが安値で買えなくなると懸念した労働者層も反対に動いた。穀物法問題は階級間の争いという様相を呈し、議論が百出した。
ウィルソンはこのとき、統計や史実をふんだんに使って、何故穀物法が廃止されるべきかを論理的に説明した長文パンフレットを発行した。自分が所属する階級の利益にとらわれた主張をする人がほとんどの中で、事実を元にして書かかれたウィルソンのパンフレットは高い評価を受けた。
穀物法について一躍論客となったウィルソンは、その後、新聞各紙に論説記事を寄稿するようなるが、編集者の手によって記事が縮小されたり、掲載が延期されるという憂き目にあった。
そこで、自分の手で新聞を発行しようと思い立ったウィルソンは、1843年8月、「ザ・エコノミスト、または政治、商業、自由貿易のジャーナル」を1部6ペンスで創刊した。
当時、ウィルソンは「エコノミスト」という言葉に、「全ての議論、原理を事実に照らし合わせることによって問題を立ち向かう人」という意味を込めていたという(” The Pursuit of Reason: The Economist 1843−1993” by Ruth Dudley Edwards)。なお、穀物法の廃止されたのは、創刊から約3年後の1846年である。
「エコノミスト」の当初の平均部数は2000部弱であった(「エコノミスト」のウェブサイトより)であった。1870年代頃まで、発行部数は4000部から3000部を維持し、少数のエリート層による購読の時代が続いた。1万部に達したのは1938年である。このとき、購読者の半分は英国外にいた。
10万部の達成は1970年。『陽はまた上る』など、日本に関する数々の著作でも知られているビル・エモットが編集長となった90年代前半、部数は50万部に伸び、収入の80%が海外での販売によるものとなった。
2011年上半期、全世界で発行されている部数は約148万部。そのうち、英国内の購読者は約14%(21万318部)。購読者の比率は北米が最も高く(約56%、84万4387部)、次が英国を含む欧州(約30%、45万1213部。英国を除くと、約16%、24万895部)となる。発行総数の前年比は3・03%増だが、特に伸びが大きいのが母国英国(前年比7・7%増)である。
―匿名記事で違いを出す
「エコノミスト」のウェブサイトから、自己定義や統治体系を見てみた。「エコノミスト」とは「国際的なニュース、政治、ビジネス、金融、科学、テクノロジー」などについての、「信頼できる洞察や論説を提供する」出版物とある。
週に一回発行の雑誌だが、「ニューズペーパー」(新聞)と呼んでいる。それはその週の主なニュースを掲載し、毎週木曜日、世界の複数の場所で印刷され、翌日あるいは翌々日には読者の手元に届く発行物という点で、刊行頻度は日刊紙とは異なるものの、その役割や内容は新聞と同様の媒体と考えているからである。
記名記事が原則の英国にあって、「エコノミスト」はその記事が全て匿名であることも特色の1つだ。これは「書いている内容のほうが、誰が書いたかよりも重要」という考えによるもの。活発な議論が交わされる編集会議には記者全員が出席でき、個々の記事の執筆には記者がお互いに協力し合い、「1つの声」として発信している。
記者の数は約90人で、30余人が特派員として世界各地に駐在している。普段は表に出ない記者陣のプロフィールはウェブサイトの「メディア・ディレクトリー」に詳細が記されている。
「エコノミスト」の株式は創刊以来、ウィルソン家が保有してきたが、1928年からは全株の半分を、英メディア複合大手ピアソン社の子会社「フィナンシャル・タイムズ」が所有している。株式は上場しておらず、残りの株は従業員や投資家(キャドベリー、ロスチャイルド、シュローダーなど)が持つ。一部の株は4人の評議員(トラスティー)たちが保有し、特定の投資家や企業が株の過半数を所有しないよう工夫がされている。
編集権の独立を保障するのは評議員たちだ。エコノミスト・グループの会長職や「エコノミスト」の編集長を決める権利を持ち、株の譲渡も評議委員会の承認なしには決定できない仕組みとなっている。
―急進的保守派の論調 読者は年収1300万、平均47歳
「エコノミスト」の創始者ウィルソンは、自由貿易、国際主義、政府の干渉を極力避ける、市場の力を信奉など、19世紀の典型的な自由主義的考えの持ち主だった。
現在の「エコノミスト」もこの流れを汲んでいる。政治的には「急進的保守派」(1950年代のある編集長の表現)で、過去を振り返ると、レーガン前米大統領(共和党)やサッチャー前英首相(保守党)を支持した。ベトナム戦争では米国を支持。その一方で、ウィルソン前英首相(労働党)やクリントン前米大統領(民主党)の政権取得を支持した。古くは刑法改正、非植民地化を提唱し、銃規制や同性愛者同士の結婚など、様々な自由化政策を支持した。
文章は「平易であること」をモットーとしている。名物編集長の1人ウオルター・バジョット(編集長在職1861-1877年)は、「日常的に人と会話をしているように」書くことを記者に勧めたという。しかし、ユーモアやウィットを随所に利かせた癖のある文章は、ストレートなニュース報道とは異なり、必ずしもわかりやすいわけではない。
こんな「エコノミスト」の読者は世界平均で87%が男性だ。平均年間所得は17万5000ドル(約1300万円)、年齢の中心は47歳という。
「エコノミスト」の読者といえば、エリート層、しかもやや高齢(例えば政治家や企業の経営陣など)というイメージがあるが、こうしたイメージをほぼ踏襲する結果となっている。
ネット版「エコノミスト」の読者層(全員が購読者とは限らない)はどうだろうか。
所得、年齢をみると、幅が広くなる。利用者の3割は日本円に換算すれば年収約370万円以下で、年収約800万円までの人を入れると、70%近くにもなる。また、34歳以下の若者層が6割を占め、45歳以上は2割ほど。つまり、ネットで同誌の記事を読んでいる人は、いわば「普通の人」だ。
将来の購読者を獲得し、言論の広がりを加速させるには、広範囲な読者が生息する場所、すなわちウェブサイト、あるいは携帯電話やそのほかの電子端末で提供するコンテンツの拡充が重要な鍵を握ることになる。(つづく)(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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