3.11震災によって発生した広範で膨大な量の瓦礫の処理をめぐって、議論が起きている。国は福島原発事故の影響を考慮し、福島県の瓦礫は県内処理し、宮城・岩手で発生した瓦礫は広域処理という方針を打ち出し、全国の自治体に協力を要請し、東京都をはじめいくつかの自治体が受け入れを表明する一方、放射能汚染の懸念からその数はわずかにとどまり、受け入れ反対を主張する住民の声も高まってい る。この問題をめぐる議論は、二重三重に複雑な要素が絡み合っている。以下問題を整理する。
誤解を避けるため、あらかじめ立場を明確にしておきます。安全性が確認できない限り、単純に受け入れを進めるべきではないと思います。しかし、受け入れ反対「運動」の主張にも違和感があり、また、議論を深めるべき課題も多々あることを問題提起したいと思います。
1.受け入れ反対「運動」への違和感
瓦礫に含まれる放射能を危惧し、わずかでも持ち込んではダメだ、とする主張がある。脱原発運動の中でもこの主張は根強い。
しかし、非常に奇異なことに、「受け入れ反対論」の主張の中では、福島県の瓦礫が県内処理されることに言及されたものがほとんどない。あたかも震災瓦礫全てが放射能に汚染されており、福島県の汚染瓦礫も全国に拡散されるかのような主張、あるいは意図的にかどうか別にして、福島と他の県の瓦礫を区別せずいっ しょくたにして論じているような主張が繰り返されている。
言うまでもなく、震災(特に津波)の被害地域と放射能汚染地域は同一ではない。施策の善し悪しは別にして、国の方針では福島のものは留め置かれる。問題となっているのは、宮城や岩手のものであり、特に岩手県は福島原発からは相当の距離がある。風向きの関係で、確かにこれらの地域の処理施設から比較的高濃度の汚染が観測されたところはあるものの、原発事故と震災瓦礫をいっしょくたにして、その持ち込みに対する拒否の動きには、大きな違和感と疑問を感じざるを得ない。
さらに、僅かな量でもだめだとするならば、東北各地で留め置かれ、あるいは日々焼却されている瓦礫についてはどうなのか。震災瓦礫を自分のところに持って くることにきわめて激しい反発がある割には、「現地でも燃やすな!」という主張や運動が、なぜかくもか弱いのか、自分自身の活動の不十分さも自省しながら、疑問を感じるところだ。
また、放射能は瓦礫だけを特異的に狙って付着するわけではない。問題となっている宮城や岩手のすべての瓦礫が問題だとするならば、瓦礫以外の人やモノを含め、あらゆるものに、量の多少は別にして、汚染は広がっている可能性を考える必要が出てくる。
瓦礫の運搬中の飛散や持ち込み自体が問題だとするならば、たとえば汚染地域からの疎開受け入れはどうなるのか?現在の瓦礫受け入れ反対論の立場からすれば、彼らの衣服や身体に付着した塵埃にも、濃度はきわめてわずかでも、汚染がある可能性を考慮する必要性が生じる。その汚染の有無を確認するために、「全 量検査」のごとく、全てスクリーニングしたりホールボディカウンタ検査したりするのだろうか?彼らは、全く安全だと確認されるまで、福島や東北県内に留まるべきなのか?彼らに仮に微量でも「内部被曝」があれば、その一部は排泄物を通して環境中に放出され、下水処理され、その後汚泥処理される。それも問題となるのか?
福島のみならず、宮城や岩手の子どもたちが県外へ行って遊ぶときも、あるいはそれらの地域の大人の旅行や出張も、「出るな、留まれ!」と言うべきなのか?
多くの受入反対論のどれを見ても、こうした疑問に答えるものは皆無だ。
さらには、関東地域などにも同じような汚染があり、各地にも「ホットスポット」のように汚染の高い場所がある。東北のゴミを焼却してはいけない、とするならば、各地の地元で、廃棄物の焼却の停止も含めた議論がなされるべきだが、これも、「持ち込みへの反発」に比べて関心はきわめて低い。
反対論の主張や議論には、こうした点に対する考慮が不十分だと感じる。すべてではないにせよ、「自分のところに持って来られるのは嫌だ」とする単純な拒否感を基にしているものがあまりに多いと感じざるを得ない。しかも、大都市のエネルギー消費のために危険施設を押し付けた地域に、汚染をも引き続き負担させ ようとするかのような主張には、原発立地地域近くに住む者の一人としては、感覚的に強い違和感を感じる。
2.受け入れに問題はないのか
一方、膨大な量の瓦礫を処理する必要性と、「もし自分のところが同じ状況に遭ったら」という当事者意識、あるいは純粋に被災地への支援の意識から、善意の立場で受け入れようとする動きがある。
しかし、事はそう単純な問題ではなく、受け入れの結論を急ぐべきではない。
環境省が主張する「バグフィルターがセシウムを99.9%(実験結果では99.9-99.99)除去する」との根拠は、セシウム以外の化学物質からの推論 と、非常にわずかで不十分な実証実験結果しかない。また、環境中に放出される残りの「0.01-0.1%」が、総量として実際にどれくらいの放射能を持ち、その影響がどのようなものになるのか十分に考慮されているとは言えない。 特に環境への影響は、住宅街や農地に近接した処理施設で処理する場合の他の自治体においては、東京都などのように一般市域と隔離された場所に処理施設を有するような場合とは異なり、より冷静な議論が必要となる。
甚大な瓦礫の量の処理の必要性があるとしても、こうした疑問や未解決課題を抜きにして、急いで全国に拡散させる必要が本当にあるのかといった疑問にも、国は十分に答えていない。国の責任で東北各地の安全な場所に処理施設を建設することで、震災で傷ついた地域経済の立て直しのために雇用の問題を解決しようと いう主張にも一定の根拠がある。
さらに、問題は放射能ばかりではない。津波は一瞬のうちに様々な建造物を破壊している。瓦礫は現地で一部分別が進んでいるとはいえ、産業廃棄物や医療廃棄 物、未処理のアスベストや化学物質が混在している可能性もある。ダイオキシン問題やアスベスト問題などを経て、現在、各地の焼却施設の能力が強化されているとはいえ、瓦礫に混在したこうした廃棄物について、どれくらいまで処理能力があるのか、自治体や国は十分な検証を重ね、その情報を丁寧に公開していく必要もある。
そうした点において、瓦礫の広域処理についてはまだ検証すべき課題が山積している。
※バグフィルターの除去率の数字を一部修正。しかし実験結果によってばらつきがあり、ここで指摘している問題に本質的に変わりなし(2012/1/21)
3.中山の結論は
しばし待て、双方冷静な議論を、である(苦)。
<ナカヤマヒトシ通信>から
http://green.ap.teacup.com/nakayama/558.html
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