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2012年01月26日19時53分掲載
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英ニュース週刊誌「エコノミスト」好調の理由とは その2 ―強みはブランド力、そしてパッケージ化
幾多あるニュース雑誌の中でも、ひとはなぜ英ニュース週刊誌「エコノミスト」に向かうのだろうか?ジョン・ミクルスウェイト現編集長は、エコノミスト・グループの編集上の哲学として、「私たちの世界観、様式、哲学全体がほかの出版物とは違う」とウェブサイトで語っている。具体的には、「国際的であること、政治とビジネスのつながりを強していること、不遜であること、独立していること」だという。(ロンドン=小林恭子)
2010年7月、「エコノミスト」のデジタル担当エディター、トム・スタンデージを取材したときに、例えば米ビジネス週刊誌「ビジネスウィーク」にはビジネス記事は掲載されているが、政治記事は少ない、と指摘していた。
「米国の経済誌の場合、政治記事が少ない。またニュース誌の国際面は必ずしも世界の全地域を常時カバーしているわけではない」。一方の「エコノミスト」では、全世界の各地域を扱うスペースが毎週用意されており、「世界の情勢を俯瞰できる」とスタンデージは説明した。
「エコノミスト」が創刊されたころといえば、大英帝国が「パックス・ブリタニカ」、最盛期に向かう助走の時代である。産業革命による経済力と軍事力を使って、世界各地に大英帝国の領地が拡大していった。
英国の目はたえず世界に向いていた。この時代に身につけた「英国から世界全体を俯瞰する」視線は、現在でも「エコノミスト」には受け継がれているということだろう。
しかし、この視線や言論が、例えば当事者から見て、時には「不遜」と受け取られることもある。しかし、それこそが「エコノミスト」である、とミクルスウェイト編集長は述べている。また、その言論は、特定の勢力におもねることなく、「独立している」とも。
さらに、「米国のメディアではない」ことも大きな力になっている。発行部数の半分強が北米の購読者だが、この地域の知識人は「米国発ではない、もう1つの視点」を求める。2003年、イラク戦争をめぐっては、米知識人たちが愛国主義に傾きがちの米国メディアにかわる「もう1つの視点」を求めて、英ガーディアン紙のウェブサイトに殺到したことがあったが、それと同様の動きが「エコノミスト」にも働いている。グローバルな視点を持ちつつ、かつ英国のメディアであるということが、はからずも「エコノミスト」に独自の立ち位置を与えている。
「エコノミスト」は紙媒体だけでなく、ウェブ版にも注目が集まっていると先に述べた。ネットと紙媒体の両立を、「エコノミスト」はどうやっているのだろうか?
ーこの一冊を読めば今週はこれで終わり
先のスタンデージによると、「エコノミスト」は雑誌に出た記事を、1週間かけてウェブサイトに少しずつ出していく。次号がそろそろ発売になる頃には、丸々1冊分の記事全て及びアーカイブ記事をサイト上で無料で読めるようになる。ということは、時間さえかければ「エコノミスト」を買わなくても、全部読むことができるということだ。それでも、紙媒体の「エコノミスト」の販売部数(店頭売りの比率が少ないので、発行部数はほぼそのまま有料購読数と見てよいという)には影響がないという。
その理由をスタンデージは「パッケージ化の強み」と説明する。ネットで記事を読んだ場合、次から次へと記事が出てくるので「際限がない」。ところが、1冊の雑誌、つまりパッケージとして「エコノミスト」を手にすれば、「全ての領域が網羅されており、これを1冊読めば、今週はもうこれで終わり」として、区切りをつけることができるというのだ。また、紙媒体は様々な場所に気軽に持ち込み、読むことができる。忙しい世界の指導者層やビジネスに携わる人々にとって、これが非常に便利なのだという。「ウェブサイトは、雑誌の代わりにはならない。紙の雑誌の不完全な代用品でしかない」。
ただし、iPadなどのタブレットやスマートフォンは、画面上で紙の誌面に酷似したものを出せるので、これは「1つのパッケージになっている」とみている。このためタブレット端末やスマートフォーン用には独自のアプリを用意し、有料購読制を取っている(ちなみに、タブレットやスマホ上で「エコノミスト」PC版のウェブサイトを開いた場合は、パソコン上でサイトにアクセスしたのと同じになり、無料で読めることになる)。
「パッケージ化」とは、週内の様々なニュースをフィルタリングし、カプセル化することを意味する。情報が増えれば増えるほど、読者のために情報をフィルタリングする媒体の重要性が増すことになる。
「雑誌の代替にはならない」とスタンデージが言うところのウェブサイトは、現編集長就任の2006年頃から力を入れている。
現在では、雑誌に入る記事だけではなく、記者が書くブログ(英国の政治について書く「バジョットのノートブック」、アジア事象については「バンヤン」、金融市場の「ボタンウッズのノートブック」、スポーツの「ゲーム・セオリー」、書籍・文化・アートの「プロスペー」など20を超える)が随時更新され、世界中の利用者からコメントが寄せられる。一つの議題を決めてこれを討論するコーナーや「ギリシャはユーロを去るべきか?」など、その時々のトピックに関して是非を投票させるなど、双方向性を取り込んだ、毎日、動きのあるサイトとなっている。
ところで、人にお金を払ってでも読みたいと思わせる質の高い記事を書く秘訣はあるのだろうか。
独自の視点、分析力を誇るには、編集スタッフの質の高さと広い取材網が必要だ。「エコノミスト」もその例に漏れない。常に世界の様々な情報をウオッチングし、解析する作業を行う記者たち、編集者たちは、学生時代からあるいは子供時代から長年に渡る、相当な量の読書(あるいは議論)にいそしみ、知識の積み重ねを行ってきた人材である。
「エコノミスト」中国特派員や東京支局長を務め、今はアジアに関するコラム「バンヤン」の書き手として知られるドミニク・ジーグラーは「記者の質が高い」ことに加え、「情報の質が高い」ことを理由として挙げた。「内部事情をよく知る人や政府や組織の上部にいる人」への取材に加え、「道行く、普通の人々」にも広く取材をしているという。独自の取材網で得た質の高い情報があるからこそ、「独自かつ質の高い情報を発信できる」とジーグラーは説明する。
ついでに、経営面から好調の理由を探ると、まず、購読料が全収入の5割から7割近く(残りは広告収入)を占め、景気の動向に左右されにくい仕組みになっている。昨今のように経済の先行きが不透明になればなるほど、情勢分析に優れた「エコノミスト」が強みを発揮するのはご承知の通り。また、株式を上場していないので、株価の上下に左右されることもない。さらに、マーケティングにも大きく投資している。先の3月期決算の数字では、収入総額の実に約42%にあたる約1.5億ポンドがマーケティング関連への投資だった。
―オックスフォード大卒の知ったかぶりとの批判も
しかし、「エコノミスト」を批判する人もいる。
1つの典型が米ジャーナリスト、ジェームズ・ファローズが米ワシントン・ポスト紙に書いた「『エコノミスト』誌についてー植民地支配的な従属姿勢の経済学」と題する記事だ(1991年10月6日付)。
英国滞在経験もあるファローズは、「エコノミスト」が「英国の階級制度に根ざした俗物根性、気取り、極度に単純化した議論」にとらわれており、「知ったかぶりのイングランド人の態度」を米国に提供している、と書いている。「自分たちはオックスフォード大学の卒業生だ、だから正しい」とでもいうような態度(編集スタッフには同大学の卒業生が多いという)を、ファローズは嫌う。
編集長を始めとして部員がオックスフォード大学のモードリン・カレッジの卒業生であることが多く、このあまりにも仲間内的な構成がグローバルな雑誌の編集には適さないのではないかという指摘は、英国内でも時折、耳にする。
批判は記事の匿名性にも及ぶ。カナダ人の作家で、国際ペンクラブ会長のジョン・ラルストン・ソウルは、「エコノミスト」が記者の名前を隠すのは、「意見よりも、公平無私な真実を販売しているという幻想を作り出すため」と著作の1つに書いている。
ファローズやソウルに限らず、「エコノミスト」の「上から目線」に、植民地を拡大していった時の大英帝国の姿を重ね合わせ、反発を感じる人は少なくない。しかし、それにもかかわらず、「エコノミスト」を手に取る人が増えている。それは、グローバル化が進む中で次々に起こる経済危機や政治の混迷を理解する一助になっているからだろう。
つまるところ、「エコノミスト」好調の最大の理由は、独自の視点という最大の売りもさることながら、大英帝国時代を彷彿とさせる俯瞰主義、そして不遜ともいえる大胆な分析力、この2つの力が醸し出す「頼れる一冊」というブランド・イメージかもしれない。(つづく。次回は最後で、米「ニューズウィーク」の話)
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月刊メディア誌「Journalism」12月号掲載記事に補足。 (ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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