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2012年01月29日11時37分掲載
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TPP/脱グローバリゼーション
グローバリゼーションと日本の再軍備化 その1 池住義憲
グローバリゼーションは、そのほとんどが経済の側面で捉えられてきた。しかし、「戦争」「軍事」の視点から捉えてみると、どうなるか。グローバリゼーションは、「戦争」「軍事」と密接に関係し、必然的に生成・発展してきたことが見えてくる。
1.グローバリゼーション、大まかな流れ
1800年代初頭から、世界は資源と領土拡大を目指した争い、闘いの連続だった。当初は英国を中心とした経済体制(金・ポンド為替体制)で、英国の絶対的覇権のもとで西欧各国の勢力はなんとか保たれていた(Balance of Power)。
同年代後半になると、西欧各国に大不況時代(1873〜1896年)が訪れる。勢力均衡は崩れはじめ、各国間に対立と葛藤が生じる。それが大きな要因の一つとなって、第一次世界大戦(1914〜1917年)が起こる。
1920年頃から英国の力が衰え、代わって米国が台頭する。「金・ポンド為替体制」から「金・ドル為替体制」へと変わり、以後、米国を中心とした世界経済体制に移行する。しかし、やがて1929年の世界大恐慌とそれに続く1930年代の大不況時代を迎える。
各国は一斉に自国経済を守るため、関税引き上げや規制強化など「保護貿易」(Protection Trade)政策をとる。日本やドイツなど資源の乏しい国は、他国侵略を目論んで軍拡化、全体主義化していく。米国・英国・フランスも同様に国内生産の保護貿易政策をとる。列強諸国は、当時の植民地を抱え込んだ「ブロック経済体制」(Bloc Economy)を敷く。こうした動きが第二次世界大戦を引き起こす大きな要因となっていく。
大戦終結1年前の1944年7月、米国ニューハンプシャー州ブレントンウッズにおいて連合国通貨金融会議が開催される。会議では、戦争を引き起こす大きな要因となった保護貿易から「自由貿易」(Free Trade)へと世界の経済体制を変えるための話し合いが行われる。そして、IMF・WBという二つの国際機関を軸にした国際貿易の自由化と経済成長を目指す国際通貨・金融・貿易システム(ブレトンウッズ体制)を、戦後、確立することとした。
ブレトンウッズ体制は、その後1971年のニクソン・ショックを機に崩壊する。ヴェトナム戦争などで米国経済は財政赤字拡大となり、大幅な貿易赤字が膨らんだためだ。米国は、それまでの金とドルとの交換を前提とした固定為替相場制(ブレントンウッズ通貨体制)から、変動為替相場制に移行することを決める。自国通貨のドルを防衛するために。そして1973年以降世界経済は、市場にすべてを委ねる「自由市場経済」(Free Market Economy)へと突き進んでいく。
世界的規模の自由市場経済化の動きは、1995年、GATTを引き継ぐ形で誕生した「世界貿易機関」(WTO)によって促進される。GATTは工業製品や農産物等が対象だったが、WTOではそれに加えてサービス分野や金融・通信・知的所有権・安全基準など、ほぼあらゆる分野を対象とした。ねらいは、世界貿易を完全自由化すること。そのためにあらゆる分野に競争原理を適用するとした。
当初はWTO加盟国すべてによる多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が進められたが、2008年に交渉決裂。各国は、それに代わって二国間交渉で進める自由貿易協定(FTA)および経済連携協定(EPA)、さらには環太平洋経済連携協定(TPP)など域内自由貿易圏構想へと舵を切り、競って協定締結、構想参加に奔走する。これが今日に至るグローバリゼーションの大まかな流れだ。
2.グローバリゼーションと戦争
経済のグローバリゼーションにおける特徴の一つに、生産拠点を海外に移転するということがある。アウトソーシングまたは外部委託と言う。国際競争が激しくなる中で、企業は生産拠点(工場)をコストの安い国外に移す。同時に、企業およびその関連金融機関は、工場移転先国の製造会社株や資産を所有する。IT技術をつかった様々な金融派生商品(デリバティブ)も使う。このようにして工場移転先国の製造業に支配力を及ぼし、売上をみずからの利益にすることを目論む。その結果、国際的な所有関係、従属関係が構築されていくことになる。
こうしたグローバリゼーションの現象・特徴は、経済分野だけにとどまらない。政治・軍事分野でも起きている。一例を挙げれば、“911事件”(2001年9月)をきっかけにして、ブッシュ米大統領が世界に発信した“対テロ戦争”がそれだ。戦争は、石油産業、軍需産業、IT産業、武器産業など多産業が複合的に絡み合い、組み合わさっている。戦争は、最大の消費、最大の経済需要を産み出す。米国にとって軍事産業は最大の公共事業だと言われる所以である。
戦争の目的は、資源、市場、支配、この三つを確保し拡大すること。そのため、軍事基地の設定、武器の研究と生産、軍事共同作戦とそのための訓練・演習などは国境を越えて自由に行き来できるようにする。このように戦争は、グローバリゼーションと密接に連動し、“進展”している。戦争こそグローバリゼーションを最大限利用し、その恩恵を受けている。
近年さらに顕著になったのは、軍事拠点をアウトソーシングし、可能な限り戦争の「民営化」をすすめること。傭兵派遣専門である米国のブラックウォーター社は、約25,000〜48,000人の民間軍事会社関係者をイラクに派遣・駐在させていた。ほかにも、ハリバートン社、べクテル社、カーライル・グループなどがある。これらはいずれもブッシュ政権と強い繋がりを持つ米国の巨大企業だ。
傭兵らは、本来、米軍自身がやっていた戦地での兵舎建設、兵士への食事供給などを委託されて行っている。米大使館職員やイラク政府高官を警護するだけでなく、米軍の軍事作戦にも参加する。正規の軍人ではないので戦死者数には数えられていない。イラク戦争は、歴史上、最も「民営化」された戦争だと言える。
グローバリゼーションの柱である自由市場主義政策は、イラク戦争(2003年3月〜)でイラクに大々的に導入された。2003年5月〜2004年6月の間、米軍主導のイラク暫定行政当局(CPA)が次々に発した命令を見ればよくわかる。そこには、関税・輸入税・ライセンス料などの撤廃、外国企業のイラク国内法の適用除外、イラク国有企業200社を民営化、外資のイラク企業100%所有承認、外国企業の得た利潤を100%国外送金可、銀行に外資50%参入可、外国企業に40年間の営業権を与えるなど、枚挙にいとまがない。
(つづく)
*本稿は、2012年1月21〜22日、熊本県水俣市で開催された「第18回WTO/FTA NGOフォーラム」での講演を基に書きまとめたもの。2回に分けて送信。
【次回通信内容】 3.日米関係に見る二つのグローバリゼーション 4.日米安保の変質・変遷とグローバリゼーション 5.グローバル化した戦争と日本の再軍備化
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