1月29日(日)24:50〜日本テレビ系NNNドキュメント’12で、「放射線を浴びたX年後 ビキニ水爆実験、そして・・・」(制作:南海放送)が放送された。このドキュメンタリーは何十年もの歳月が積み重なって生まれた重みが感じられた。それは高知県で高校教師をつとめていた山下正寿さんが被曝の実態を突き止めようとする足取りからくるものだった。
放送によれば1954年、米軍は南太平洋のマーシャル諸島で水爆実験を繰り返した。第五福竜丸が被曝したのは最初の「ブラボー」(3月1日)である。続いて「ロメオ」(3月27日)も爆発した。ところが、考えてみれば当たり前のことだが、この頃、ほかにも南太平洋にマグロ漁に出かけていた日本の漁船は数多くあった。これらの漁船の乗組員たちは日本政府から補償がないまま、健康被害を受けて40代〜50代で若くして亡くなった人々が多いらしいのである。
なぜ彼らは補償の対象から外れてしまったかと言えば、水爆実験から7か月後に日米間で協定が結ばれ、日本側は200万ドルを米国から得て幕を引いてしまったからである。第五福竜丸以外の漁船員の健康被害に対する補償がなかったのはこの時幕引きとなったからだと番組で伝えられた。調査が打ち切られたため、被曝した漁師たちが病院で放射線障害と認定されても被曝手帳の交付が受けられなかったのである。この時を境に水揚げされたマグロの放射能検査も打ち切りにされていた。実はそれまでに漁船ののべ992隻が被ばくした魚を廃棄させられている。
筆者の過去の取材によれば、この時のマーシャル諸島における水爆実験は様々な謎をはらんでいた。1954年の一連の水爆実験はキャッスル作戦と呼ばれているが、最初のブラボーの爆発規模が計算よりも膨大に大きかったことである。これについては科学者の「計算ミス」という説がまことしやかに流れていたがその真相は不明である。いずれにしても、この時の水爆実験では当たり前のことだが、地元のマーシャル諸島の島民たちがまず犠牲になっている。実験当時、島はあたり一面死の灰で覆われてしまったというのである。しかも、近年、被曝の実態が明らかになるにつれ、当初補償を受けた島民以外にも多数の島民たちが甲状腺障害を受けたり、癌や白血病で亡くなっていたことが明らかになってきたことだ。つまり、日本の場合と同じで当初補償の対象になった人々・地域以外にも多数の人々が被曝し、健康被害を受けていたことである。http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201109060120292 さらに驚くべきことがNNNドキュメント’12の番組で語られていた。それはキャッスル作戦が単なる水爆実験と異なり、アメリカの首都ワシントンDCが水爆攻撃を受けた場合の被害試算の実験だったらしいことである。この指摘を行ったのは広島市立大学の高橋博子氏だ。もしワシントンDCが核攻撃を受けた場合に、首都からどのあたりまでがどの程度の被曝をすることになるか。そうした仮想実験だったのではないか、というのである。その場合、第五福竜丸が当時操業していた位置はフィラデルフィアと重なるという。核攻撃の対象になるであろう首都から、政府首脳や関係者がどこまで逃げればいいのか、そうした計算をしていた可能性があるのではないか、と推定される。
先ほどのマーシャル諸島の核実験に関して再び筆者の余談だが、米軍は1946年7月から58年8月までにのべ67回核実験を行なっている。1946年7月と言えば第二次大戦終結の翌年である。過去の資料を読んで、もっとも筆者が違和感を受けたことは第二次大戦で使用済みとなった戦艦を多数、核実験を行う島の周囲に配置していたことである。これは戦艦が核攻撃を受けた場合にどの程度の破壊を被るかを廃船を使って実験したとされる。しかし、「放射線を浴びてX年後」を見た今、その戦艦が漁船に重なって見えてしまう。これはそう思えた、というだけで、確たる証拠はない。ちなみに、この米軍の核実験では実験に携わった米国人も多数被曝していることも忘れがたいことである。
1954年の水爆実験からすでに58年になる。しかし、昨年原子力発電所の事故は再び被曝した人々を多数生み出してしまった。漁船乗組員たちの妻たちは、いつの時代にも弱いものが犠牲になると語るのである。
*ディレクターは伊東英朗氏(南海放送;愛媛)である。
NNNドキュメント’12のウェブサイトによると、 再放送は以下
2月5日(日) 11:00〜 BS日テレ 2月5日(日) 18:00〜 CS「日テレNEWS24」
http://www.ntv.co.jp/document/
■水爆と深海の怪物 〜「それは海の底からやって来た」〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201109060120292 ■敵からぶん捕ったフィルムについて
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201112280913123
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