「市民と科学者の内部被爆問題研究会」が1月27日(金)に発足し、都内で記者会見が行われた。呼びかけ人は、広島・長崎の原爆被害を長年追求してきた医師や研究者、ジャーナリスト、市民など26人(2011年12月20日現在)。記者会見では、澤田庄司氏(素粒子物理学者・被爆者)、松井英介氏(医師・放射線医学・呼吸器病学)、矢ヶ崎克馬(物性物理学)、そして肥田舜太郎氏(被爆医師)など、3.11以降、市民の立場に立って内部被爆の危険性と身を守る方法を訴え続けてきた専門家らが登壇し、「年間1mSv以上の地域に在住する子どもを即刻集団疎開させる」など、内部被爆の拡大と健康被害を防ぐために政府がとるべき安全対策などを提言した。(和田秀子)
(提言の全文はこちら http://acsir.org/index.php )
なかでも、自ら被爆者であり、戦後60年以上にわたって被爆者を診つづけてきた医師の肥田舜太郎氏は、95歳とは思えない力強さで以下のように訴えた。全文を編集して紹介する。
■最後の被爆医師
自ら広島で被爆し、当時から被爆者を診つづけてきた医師は、現在日本で私一人になりました。つまり、実際に原爆を浴びた人間の外部被曝と内部被曝について、それをずっと診療し、事実を見てきた人間で生き残っているのは、私一人になったわけです。
66年間、ずっと被爆者と付き合い続けてきました。わたくしは日本被団協という団体のたったひとりの医師で、日本全国の被爆者の相談を一手に引き受けてきたのです。そんなわけで、私が現在まで、聴診器をあて、相談をした被爆者は、少なくとも6000人はいます。
その中には、外部被爆を受けながら、大変な思いをして今日まで生き延びてきた方もいますし、内部被曝を受けて、説明のできない非常に困難な症状を持ちながら、世間からは被爆者として認められなくて、そのために社会から差別を受け、一人前の人間として生きていけなくなった患者もたくさんいました。
■なぜ、日本は原爆から学ばなかったのか
最近、外国の方から、「広島と長崎で原爆を経験した日本が、なぜ地震の多い国にもかかわらず海岸に53基も原爆を作ったのか」と質問されることがよくあります。 また、日本でテレビに出演されている専門家の方々も、そういうお話をされます。しかし、「なぜそうなったのか」ということをお話される方は誰もおりません。
私は当時からずっと見てきて、この原因は、たったひとつだと思っています。それは、占領したアメリカ軍が、被爆者の病状すらも「アメリカの軍事機密だ」という声明を出したことたことにあると思っています。被爆者に対して、「一切被害についてしゃべってもいかん、書いてもいかんと言い、医師は職業柄、被爆者が来れば診療はしてもよいが、その結果を書き残したり、それを論文にして論議をしたりしてはいかん」と言いました。
このように、日本の医学界が、放射線について研究することを一切禁じ、「これに反するものは占領軍として重罪にかす」という声明を発表して以来、被爆者は沈黙を守り、医師は自分の診察した症状を記録しなくなったのです。ですから当時の被爆者が、ずっと経験してきた放射線の被害の実情は、どこにも正確に記録されていないのです。だから今の政府も今の医師も、あの当時のことを正確に学ぶ資料が全くありません。
私は世界30ヵ国ぐらい歩いて、海外の医師や学者に、内部被曝のことを話してきました。「そんな大事なことを、あなたという医師がなぜ個人でここに来て話すのか。政府が発表した資料はないのか」と聞かれます。私はこれに対して「全くありません」と答えました。 なぜなら、「アメリカの占領が7年間続き、そのあとを受けた日本の政府が安保条約を結んで、軍事条約の手前アメリカの核兵器のことを一切記録をしない、ということになっているためできないのです」と話してきました。
■被爆の影響はいつ起こるか
私が福島原発事故の話を聞いて最初に思ったのは、「これは大変なことになったな」ということです。放射線そのものが、広島や長崎で使われたウラニウムとプルトニウムを混ぜ合わせた放射線ですから、福島の人たちに広島・長崎の人々が経験したのと同じことが、そのまま起こってくると考えるほうが常識なのです。
これがいつ起こるのか――。広島と長崎の経験から言うと、内部被曝による原因不明の症状が出始めたのは、ちょうど一年ぐらい経ってからでした。最初に現れ始めたのは半年後です。ですからおそらく、この3月頃から彼らの中に、医師が診ても診断のつかない非常に不思議な症状で、いろいろと苦しむ人が出てくると思います。
残念ながら、今の日本の医療界には、こうした患者を診て親切に相手のできる医師は一人もおりません。おそらく、診ても「あなたは病気ではないよ」と言って、ほっぽり出すでしょう。ちょうど、広島や長崎の被爆患者が、どの医者にかかっても、大学の医学部を受診してさえも、「あなたは病気ではない」といって追い出されたのと同じです。しかし本人は働けないくらい体が辛く、結局は「ぶらぶら病」という名前で、社会から抹殺されました。それと同じことが起こるのではないかと、私は心配しています。
■マスコミは真実を伝えてほしい
日本は上から下まで、あの大きな被害を受けた原爆の放射線被害について、全くの無知です。なんにも知らない。広島と長崎の原爆で被害にあったことくらいは、なんとか知っているでしょうけれども、あのキノコ雲の下で人間がどのように殺され、また内部被曝によって身体の中に放射能を取り入れた人々が、その後66年間、どんな苦しい生活をしてきたか――。このことを誰も知りません。これは全部、私はアメリカの責任だと思っています。
私は、当時からアメリカの憲兵や日本の警察に追い回されながら、広島で寝ている被爆者を助けてきました。私は、別にアメリカの国民を憎いとは思っていません。しかしあの爆弾を作り、あの爆弾で最初に殺人を考えた、この連中は許すことができない。
日本は、福島の原発事故だけで終わるわけがはない。必ず次に事故が起こってきます。もう二つ、三つ事故が起これば、日本はおそらく滅亡するでしょう。そういう非常に危険な状態なのだということを、為政者は誰ひとり考えない。のんきにテレビに出てきて、「大丈夫です」などと言っている専門家などは、私は本当に軽蔑したくなります。
どうかマスコミのみなさんは、放射線の被害というものは、下手をすれば人類が生き延びることができない大変な代物だということを腹で知って、どんな小さな情報でも大事に扱っていっていただきたい、ということをお願いして私の話を終えます。
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今後、「市民と科学者の内部被爆問題研究会」では、海外の研究者たちとも連携をはかり、これまで公にされてこなかった内部被爆の実態を明らかにしていく予定だという。 政治都合で動く御用学者の発表を、うのみにする時代は終わった。私たち市民の立場から「真実」を探究し、被爆に苦しむ人々をひとりでも軽減できる会に成長してほしいと思う。
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