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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2012年04月07日12時38分掲載
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文化
【核を詠う】(37)3・11後の原発短歌を読む 三原由起子「3・11後の私」(福島・浪江町出身の歌人が詠う) 山崎芳彦
福島原発の地・浪江町出身の歌人、三原由起子さん(東京在住)とお目にかかる機会があった。前回の稿で触れた「福島に寄せる短歌と写真展」の会場で、同展に作品を展示していた三原さんとお会いしたのだった。三原さんは、角川書店発行の月刊歌誌「短歌」3月号の特集座談会「3・11後、歌人は何を考えてきたか」(被災地在住歌人を交えた二世代座談会)の30代以下世代の座談会に出席し、積極的に福島原発の被災地であるふるさとに寄せる思い、原発にかかわる歌を詠うことの大切さ詠い続ける決意について語っていたことを読んでいたので、ぜひ作品を送っていただけるようお願いしたところ、3・11以後に短歌総合誌その他に発表した作品をまとめて「20011年3月11日後のわたし」と題して、送って下さった。
その全てを読ませていただいて、ふるさと喪失、家族をはじめ知友の人々に寄せる思い、原発の地ならではの複雑な現実などを、まっすぐに詠った作品に感銘をうけた。
座談会のなかで三原さんは「実家が浪江町で、原発から十キロ圏内・・・この十一か月は現実を生きるのが精一杯・・・自分が死ぬまで、死んでからもずっと福島を背負っていかないといけない。福島だけでなく、日本中、世界中の問題だと思う。今までは短歌を細々と続けていければいいという気持だったが、いまはふるさとを失ってしまう者として、とにかく訴えていかないと、それで社会につながっていかないと・・・という使命感を持って、文学や歌壇の中だけでなく訴えたい気持」「(原発について)はっきり立場を打ち出すことが本当に原発をなくすほうに向かっていくと思う。歌人全員にこれからどういう立場で詠んでいくかを聞きたいくらいです。これは人間性として、すごい大事なところではないですか。」「私は文学は社会につながるべきだと思っている。自分の生き方や考え方を、短歌を通じて社会と結びつけていきたい。」・・・などと、語っている。
筆者なりの雑駁な要約で、真意を伝え切れていないことはお許し願いたいが、共感するところが多い。
三原さんの作品のなかから抽かせていただく。全ての作品を記したいのだが、筆者の一存で抄録させていただく。
福島原発の地出身の歌人・三原由起子さんの「3・11後のわたし」(抄)
「人のさまざま」より5首 放射能漏れを聞いた日 旧友と涙を流して覚悟を決めぬ
阿武隈の山並み、青田が灰色に霞む妄想 爆発ののち
満開の桜、青空変わらずにある変りしは人のさまざま
浜通り/双葉郡/浪江町/避難民/ 憎しみ合って分かれてゆきしか
いま声を上げねばならん ふるさとを失うわれの生きがいとして
「ふるさとは赤」より6首 ipad片手に震度を探る人の肩越しに見るふるさとは 赤
原発に何か起こりし予感して実家に電話をかけ続けるのみ
ガソリンの途絶えし山の避難所に町民は爆発音を聞きをり
常磐線に乗るたび想う人のいてもう眺めることのできない景色
脱原発デモに行ったと「ミクシィ」に書けば誰かを傷つけたようだ
原発の話はタブーと注意する先輩はまだムラに生きおり
「それでも生きる」より5首 「十年後も生きる」と誓いし同窓会の二ヶ月ののち、ふるさとは無し
百年の商いつないでいく矢先 見えない敵は空から降りぬ
常磐道工事中のまま時が止まりし浪江町民の夢
ふるさとの散りゆくさまを語るとき言葉も心も宙に浮かびぬ
福島のほんとうの空に集う日はわれの肉体のなきあとのこと
「蛍を追って」より7首 うつくしまふくしま唱えて震災の前に戻れる呪文があれば
風向きを知らされぬままに人びとは風とひとつに山目指しけり
脱原発の署名の人を過ぎけば再び戻りて名前を記す
声上げる大規模デモにおおかたのニュースは声を伝えぬままに
国民を難民にして今もなお稼働させたきひとは小愚民(こぐみん)
ふるさとを遠く離れて父母と闇を歩みぬ 蛍を追って
被災者が被災者のために調理するなみえ焼きそばに心やすらぐ
「青田、浜風」より2首 扇風機の前に坐って目を閉じている盆の入り 青田、浜風
盆正月迎えるたびに受け入れてしまうのだろうかふるさとの死を
「われらの世代」より6首 果てしない除染作業に人生を捧げたくはない若者われら
ふるさとにみんなで帰ろう 帰らない人は針千本の中傷
帰りたいけれど帰れない自らに言い聞かせつつ祖母は電話す
出産をあきらめなければ浪江町に一時帰宅もできないわれは
「ご活躍なにより」というメールきて活躍のための作歌ではない
ふるさとを失いつつあるわれが今歌わなければ誰歌うのか
「同心円の日常」より6首 休止中と地図に書かれし常磐線浪江駅より実家をなぞる
三重(さんじゅう)の同心円の中にある町にいくつも日常ありき
お土産に「なみえ焼そば」携えて車窓より見ゆ手を振る母を
めずらしく雪が積もってめずらしく母と出かけて最後のふるさと
避難先のお祭りで会うふるさとの人と話せば心は戻る
除染という職業として福島の人を集めて二度傷つける
「一生をかけて」より4首 あぶくまの山なみ太平洋の海近くにありき生まれしところ
帰宅する夢の中では目に見えぬものを恐れず生きていきたし
しんしんと心の底にたまりゆく浪江の人の声を掬いつ
廃炉まで四十年の知らせにてわれら長生きせむと誓いぬ
「社会と文学をつなげていきたい」という三原さんの作歌姿勢に筆者は深い共感を持つ。数多い作品の一部のみを記すにとどまってしまったが、さらに機会を見つけて、三原さんの短歌に接していきたいし、いっそうの健詠に期待し、豊かな実りを読ませて欲しいと願う。筆者も、つたないけれども詠う者の一人として励みたい。
前述の雑誌「短歌」の座談会の中で、司会を務めた歌人・小高賢氏は「『原発事故歌集』ができるべきだと思う」と述べ、「今回の震災は短歌表現史の中で画期にしなければいけないと思う」とも語っている。また、渡英子氏は「ある意味、原発詠に私たちは試されていて、それが、私たちの生き方、考え方、今までのあり様を変えるチャンスにもなるのではないかと考えています。」と問題提起をしていることにも、共感させられた。
次回も原発にかかわる作品を読み続けていきたい。 (つづく)
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