井上秀明さんはテレビ・ドキュメンタリーの編集者で、過去には賞を受けた番組を多数生み出してきた人です。以前、井上さんに編集の仕事についてインタビューにお伺いした時、井上さんの編集室のすぐ近くのファミリーレストランで夕食をともにさせていただきました。この時、井上さんは食事の写真をデジタルカメラで撮影されたのですが、その理由は糖尿病だからということでした。毎日、何を食べたかを写真に記録しているそうです。井上さんは肥満していませんから、そう言われなかったらまったく気づかなかったのですが。
僕自身、テレビディレクターの仕事をしていると、生活が不規則になったりと健康管理が難しいと思っています。最も不健康になるのは編集している時です。編集室に入ると、ほとんど運動をする時間もなく、長時間編集室にこもりっきりになりがちで、食事も丼物など高脂肪・高カロリー食をみんなで食べることが多いのです。このとき、自分一人だけ違ったものを食べるということはなかなかしにくいものです。井上さんの場合は編集者ですから、僕と違って編集が毎日なので、その食生活が健康に及ぼす影響は絶大であるはずです。
井上さんが血糖値が高く、糖尿病と診断されたのは5年前のこと。診断後即入院となった井上さん。煙草をやめてから、間食が増えたこともその一因だったそうです。しかし、軽度だったのが幸いでした。インシュリン注射を打つ必要がなく、経口薬も必要なかったのです。井上さんはさっそく食生活を見直すことにしました。井上さんの編集室はマンションの部屋を借りているため、厨房があります。なんといっても厨房があることが健康管理上の最大の強みです。
「すぐ隣にスーパーがありますから、そこで野菜を買ってきます。厨房があると、仕事仲間とシェアできますから便利ですよ」
最初に食べるのはキャベツ。そしてレタスやトマト、アスパラガスといった野菜も仲間とお金を出し合ってシェアすれば少ないお金で、バランスのいいサラダを毎日食べることができるそうです。野菜をまず食べて、腹をある程度満たしておくと、ご飯も比較的少量で足りるのだそうです。塩分の多いドレッシングは避けて、カロリーの少ない2分の1カロリーのマヨネーズを使っているそうです。まずは塩分と糖分をひかえることが大切でしたが、食品スーパーが隣にあることと、仕事場に厨房があることは救いだったのです。
「それと、キシリトールガムですね。砂糖の含まれたのは駄目なんですが、硬さのあるキシリトールガムを噛んでいると、編集中の集中力を維持できるほかに、満腹中枢も刺激されるそうです」
そうしたテクニックは別にして、「糖尿病であることをカミングアウトした方がいいですね」と井上さん。糖尿病であることを周囲に伝えると、それまで甘い物など差し入れしてくれた人も井上さんの状況を配慮してくれるようになりました。また、病気を理由にして、かつては不規則だった食事の時間をお昼の12時から午後1時までの間に、夕食は午後6時から7時までの間に・・・といった風に規則正しい食事時間を守ることができるようになったそうです。これは食生活の管理にとても大切なことです。
「それ以外にもよかったことは、食事の写真を撮影することです。一緒に食事をした人と写真を撮ることで、その時々の会話を思い出すことができるんです。<一緒に写真を撮っていいですか>とお断りしてから撮影しているんですけどね。その時、店の写真なども撮影したりします。食事の記録写真を写すことであまり話したことのなかった人とも話をするきっかけになりましたし、どこの店がオーガニックだといった情報もいただけるようになりました。」
食事の写真を撮影すると、かわいい女性も撮影させていただける機会も増えるとのこと。つまり、健康管理をする中で、思わぬ楽しい面もあるそうです。
食事の記録を写しておくと調子がいい時、どんなものを食べていたか、調子が悪い時、どんなものを食べていたか。その関係が如実にわかるそうです。人間は食べるもので作られていくとはよく言ったものです。一回一回の食事がこうすることで大切な一回限りの記念にもなります。
ストレスフルかつ不規則になりがちな業界人にとって貴重なのが日々活用できる厨房かもしれません。もう一つ、井上さんの編集室にはトイレの横に体重計を設置しており、ちょくちょく測っているということです。素晴らしい番組の陰にはこうした生活があったのです。
■【テレビ制作者シリーズ】(7) 面白く見せるヒント 井上秀明さん
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200910201109322 ■ザ・ノンフィクション「花嫁のれん物語3」 井上秀明(編集)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201204071825516 ■NHK・BS「シリーズ・ソ連崩壊から20年〜光なき孤児・東欧の小国の悲劇」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201112260944591 ■「おっぱいと東京タワー」がニューヨークフェスティバルで銀賞に輝く
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201103271707090 信友直子さんがディレクターをしたこのドキュメント、編集は井上秀明さんが担当している。
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