先日のギリシアの総選挙で、財政緊縮派が勝利を占め、かろうじてユーロ残留の道を残したとされる。多くの新聞が緊縮派の路線をよろこばしいこととして一定の評価をしている。そんな中、異論をはさんでいるのがニューヨーク・タイムズに寄稿している経済学者のポール・クルーグマン氏だ。
クルーグマン氏は6月17日付のニューヨークタイムズに「犠牲者としてのギリシア(Greece as Victime)」と題するコラムを寄稿した。ユーロ加盟国の重鎮たちは経済危機の責任を<だらしなくて怠惰な南欧諸国>の責任ということにしているが、真の責任はドイツや欧州中央銀行などユーロ体制を進めたビッグプレイヤーたちにあるとクルーグマン氏は指摘している。
http://www.nytimes.com/2012/06/18/opinion/krugman-greece-as-victim.html?_r=1&ref=paulkrugman クルーグマン氏の趣旨は単一通貨を導入するのであれば単一政府を作る必要があったということにつきる。その例として米国がバブル崩壊しても欧州危機ほどの危機にまで至っていないのは中央政府が財政・金融政策を強力に行うことができるからだという。フロリダの不動産バブルの救済にもフロリダ州以外の州に暮らす米市民の税金が多額に投じられた。今、欧州が行き詰っているのはギリシア危機を他の欧州国が資金投入をして救うことができないユーロの仕組みにあるという。
’The only way the euro might - might - be saved is if the Germans and the European Central Bank realize that they’re the ones who need to change their behavior, spending more and, yes, accepting higher inflation. ’
ユーロ危機の解決はドイツと欧州中央銀行が自分達自身の考え方を変えない限り解決できないとクルーグマン氏は指摘している。もっと救済資金を負担し、インフレを受け入れる必要があると言うのだ。
■フランスからの手紙5 ギリシアと欧州連合〜その異常さと冷笑主義〜 パスカル・バレジカ
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201005290216516 パリ在住のジャーナリスト、パスカル・バレジカ氏は欧州連合によって欧州が大きな国家として統一されることを夢見たという。ところが、それは欧州各国の思惑と利権によって寸断されてしまったとする。また、そこにフロント・ナショナル(FN)のような右翼政党が台頭してきているということがある。以下は2010年5月29日にバレジカ氏が寄稿した原稿の一部である。
「IMFと欧州委員会はギリシアの軍事費に関しては軽い削減幅に留めた。軽さの理由こそフランス、イタリア、ドイツが潜水艦、戦闘機、ヘリコプター、フリゲート艦などをギリシアに売る契約を結んでいたことにある。これら3国はギリシアの救済に関して、冷笑主義で臨んでいるのである。ギリシア人の生活水準を守る手助けをするどころか、これらの国々がこれからギリシアに貸し付ける資金は自分たちの国の銀行を救い、ギリシアに売却した兵器代の支払いを受けるためのものなのだ...
時間をかけ、しぶしぶギリシア救済計画を採択した後、欧州の政治経済の指導者達はグローバルな枠組みで問題を分析したり、解決を考えたりすることができていない。ギリシアの次には恐らく、ポルトガル、スペイン、アイルランド、英国へと財政危機が広がっていくだろう。アナリスト達によれば、統一通貨ユーロが廃止となり、それぞれ独自の通貨に戻る可能性がある。さらに欧州連合が単なる自由交易圏以上のものではなくなる可能性も高い。
もしギリシアの危機に積極介入を行い、大胆な手を打つなら、その延長線上に欧州連合の政治的統合も夢ではなかろう。しかし、現在の欧州にはその選択をする準備がない。というのも欧州では今、ナショナリズムや過激主義者たちが台頭しているからだ。たとえばハンガリーでは親ナチスの極右政党が国会に議席を確保したばかりだ。」
ギリシアに端を発するユーロ危機は単なる経済問題を超えて、欧州史という視点で見る必要があるという。
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