オンライン教育がついにアメリカの名門大学でも導入され始めた、ということでその是非をめぐる議論もまた活発になっているようだ。オンライン教育とはインターネットを活用して行う教育のことである。
7月17日にニューヨークタイムズに掲載された ’Top Universities Test the Online Appeal of Free’と題する記事は今、米教育界で何が起きているかが書かれている。Courseraという教育ベンチャー企業が名門大学と提携して、無料の大学講座を今次々と立ち上げているというのだ。 その講座は’Massive open online courses’( MOOCs)と名付けられている。今まで2万ドルから6万ドルまで高額の学費を払っていた学生や父兄は無料か、あるいは相当の低額で大学講座を受けられるようになるだろうし、その講座の受講を学位として認めることを検討する大学も出てきているようである。たとえ無料でも一般にオンライン教育では企業の宣伝を掲載したり、受講者の情報を人材を求める企業に売ったりといったことでビジネスとなりうるらしい。
また大学側にとっても〜記事ではメリーランド大学の経営者が語っているのだが〜オンライン教育を取り入れることで経費が25%は削減できると見ているそうだ。
http://www.nytimes.com/2012/07/18/education/top-universities-test-the-online-appeal-of-free.html 一方、オンライン教育に対する危惧もまたジャーナリズムに登場している。同じニューヨークタイムズにだが、上の記事を受けて、オンライン教育を導入することになったヴァージニア大学の教授が寄稿したのだ。 http://www.nytimes.com/2012/07/20/opinion/the-trouble-with-online-education.html?src=me&ref=general この大学教授(英文学)はオンライン教育は一方的に教えるばかりで、学生から学ぶプロセスがない。このことがオンライン教育の欠陥だという。ソクラテスの時代から、教師は学生の顔を見ながら、あるいは対話をしながら教えてきたし、教育とはそのようなものではないか、と言うのだ。
今、不況の最中、学生は大学を卒業してもなかなか就職の機会が得られなくなっている。学費をローンで借りて勉強しても、卒業して就職できなければローンの返済が滞ってしまう。そんな時、このオンライン教育は低所得者にとってはぎりぎりの教育を受ける場になるかもしれない。さらに、先進国の大学の講座を大学の数の少ない途上国の学生が聴講することも可能となる。こうしたメリットは否定できないだろう。
しかし、オンライン教育が盛んになると学費が高い割にレベルが低い大学は淘汰されていく可能性がある。その結果として、大学の教員枠の絶対数は減っていくだろう。また、一握りのカリスマのある教授がオンライン教育の枠を独占してしまうかもしれない。そして、バージニア大学教授が指摘したように、オンライン教育には限界がある。オンライン教育の流れは始まったばかりだが、様々な問題を提起している。
■スタンフォード大学の人工知能AIのオンライン講座
ニューヨークタイムズによると、スタンフォード大学で試験的に人工知能のオンライン講座を無料で一般に開放したところ、世界175か国から58000人の受講者が集まったという。年齢も高校生から年金生活者まで、幅広い。二人の講師はその世界のトップランナーだという。この試みを始めたきっかけはマサチューセッツ工科大学(M.I.T)がユーチューブを使った無料講座を始めたことだという。
http://www.nytimes.com/2011/08/16/science/16stanford.html ■オンライン教育ベンチャーCoursera
https://www.coursera.org/ 大学は数千人を教える機関ではなく、数百万人を教える機関であるべきだとし、スタンフォード大学、ジョンズホプキンス大学、プリンストン大学、デューク大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、バージニア大学、カリフォルニア工科大学、ワシントン大学、ミシガン大学など16大学と提携している。学費は無料。Courseraの設立者にはスタンフォード大学教授(コンピューターサイエンス)らが含まれている。
オンライン教育には様々な問題が付随するだろう。しかし、いつの時代にも優れた教師から学びたいという欲望を人間は持つものだ。インターネットが盛んになるよりはるか前から、大きな書店に行くとノーベル賞受賞者、リチャード・ファインマンの物理学の講義を記録したビデオが販売されていた。オンライン教育はまさにそうした講義がリアルタイムで受けられるスキームである。こうしたオンライン教育と、今まで通りの講座を組み合わせていく方式が今後現実的になっていくようである。
■ファインマンのレクチャー
http://www.vega.org.uk/video/subseries/8
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