27日夜、いよいよ五輪の開会式が行われた。待ちに待ったという感じである。4年前の北京オリンピック開会式は、その派手さ、豪華さで人々をあっと言わせた。いったい、ロンドンはどうするのか?規模の大きさで勝てないなら(そんなお金はない)、何で勝負するのだろうか?(ロンドン=小林恭子)
そこで起用されたのが映画監督のダニー・ボイル(「スラムドッグ$ミリオネア」など)であった。
その前にまず、開会式の冒頭の紹介だ。この間ツール・ド・フランスで優勝したばかりの英ブラッドリー・ウィギンス選手(スカイチーム所属)が出てきたのだ。開会の合図となる「オリンピック・ベル」を鳴らしたそうだが、この部分、見逃してしまったので、以下は時事通信の記事の引用である。
ロンドン五輪の開会式は、荘厳な鐘の響きで幕を開けた。先の世界最高峰自転車ロードレース、ツール・ド・フランスで英国勢初優勝の快挙を果たしたブラッドリー・ウィギンズが、万雷の拍手で迎えられ、巨大な鐘をゴンと鳴らした。
ウィギンズは今回が4大会連続の五輪。過去に金3個を含む6個のメダルを獲得している。ツール・ド・フランス優勝で地元英国の新たな英雄となった旬のスポーツマンが、開会に花を添えた。
この「オリンピック・ベル」は世界最大。英国会議事堂時計塔の大時計ビッグベンの鐘、米ペンシルベニア州にある自由の鐘を鋳造した由緒ある会社が手掛けた。今後200年間、五輪公園に残される予定で、スタジアムで繰り広げられるさまざまなスポーツシーンを見届けることになる。(引用終わり)
さて、ボイル演出の開会式のテーマは「驚きの島」(Isles of wonder)、つまりは英国である(英国はいくつかの島が集まって形成されている)。
そこで、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、イングランドの各地方で子供たちが歌う様子を集め、「英国=驚きの島」という様子を表現して見せた。
その後は、スタジアムの中央部に用意されたのが、広がる田園風景。いかにも、「イングランド地方の田園」という感じで、緑がいっぱいだ。そこで生活する人々もたくさんいる。
・・と思ったら、今度は、俳優ケネス・ブラナーが演じる、グレート・ウェスタン鉄道の施設や車両を設計した技術者イザムバード・キングダム・ブルネル(ブラナーはシェイクスピア作「テンペスト」から一節を読んだ)や産業資本家たちが現れて、世界に先駆けて産業革命を起こした英国の姿を描いてみせた。工場の大きな煙突に相当するオブジェが立ってゆく。
「そうか、英国は『歴史』でやることにしたのか」−と私は見ていて思った。
開会式の内容は直前まで秘密だったので、世界で見ている人にいったいどれだけアピールがあるのだろうなあとも、ふと思った。
この煙突が次第に熱い炎の輪になって、最後には五輪を作ってゆくーこうなるともう、歴史も何も分からなくても、「すごい!」と感動してしまう。
この後、戦後の福祉体制の要となった、健康保健サービス(NHS)をテーマにした場面があり、看護婦さんと子供がいっぱい出てくる。この看護婦さんのエピソードやNHSの意味(原資は税金だが、貧富の差に限らず国民全員が無料で医療を受けられる)がどれだけユニバーサルに伝わるのかなあとやや思ったことは確かだが、英国内ではこの点も含め、支持を得たようだ。
途中、見世物=ショーとして面白いことは面白いのだけれども、ちょっと長くないかなあと思いながらも見ていたが(1時間半ぐらいだったそうである)、とても分かりやすく、かつ非常に面白かった場面が2つ。
1つは、BBCが作った短編映画で、ジェームズ・ボンド役を演じた俳優がバッキンガム宮殿を訪れ、エリザベス女王を迎えに行くところ。部屋に入ると、本物の女王がいて、「こんばんは、ボンドさん」などという(女王がドラマに出て『演技』するとは、最初で最後かも??)。二人でヘリに乗って(ただし、実際には女王は同乗はしていないと思うが)、スタジアムまで飛ぶ。そして、実際に、女王が会場から出てくる場面につながる。とてもうまくできていた。
もうひとつは、「ミスター・ビーン」などで知られる俳優ローワン・アトキンソンがビーンらしき男性として登場。楽器を操り、映画「炎のランナー」をパロディー化したものに「出演」する。会場が笑いに包まれた。
このいわば「前半」ともいう部分の終わりに、コンピューターを操る一人の男が出た。ティモシー・ジョン・バーナーズ=リーだ。WWW,つまりはワルドワイドウェブを考案した人物だ。世界に先駆けたアイデアを出した人物が英国人であったというのが、英国のイメージをアピールするには最高に格好いい感じであった。
順番が前後になったが、途中には、メアリー・ポピンズに扮した女性たちや、ハリーポッターシリーズのJKローリングが出る場面もあった。映画「エクソシスト」で使われていた、チューブラーベルズという曲も、作曲したマイク・オールドフィールド自身が演奏した。以上、主として記憶を元にして書いてみた(気づいたことがあったら、更新します)。
もろもろあったショーが終わり、次に、選手入場となったが、ここまでが結構長かった。3人のニュースキャスターが番組の声を担当していたのだが、「ここが一番見たかったんですよね」という声が続いた。やっぱりなあ、と。何時ごろ日本が出るのかなあ(日本についての説明はあまり長くなかった)と思いながら、どきどきしながら見た。
最後の英国で、旗を持った選手はずっと涙目のようであった。感動と興奮でそうなっているのだろう。バックに流れていた曲は、デビッド・ボウイの「ヒーローズ」であった。
ここで感動したと思っていたら、さらなる、もっと大きな見せ場が待っていた。
その1つは、国際オリンピック委員会会長ジャック・ロゲ氏のスピーチである。ロゲ氏は、どこの都市で開催されても、喜んでもらえるようなことを言っているのだろうと思うけれども、今回も、やはりうれしいことを言ってくれた。
まず、「参加してくれた何千人ものボランティアたちに感謝します」と言うと、会場内のボランティアたちを中心に、大きな歓声と拍手が沸き起こった。会長はしばしスピーチを中断せざるを得なくなった。
また、「どのチームにも女性が入った。これは初めてである」というくだりにも大きな拍手。
「ある意味では、オリンピックは(ロンドンに来て)ふるさとに戻ったという感じもあります。英国は近代スポーツを生み出した国だからです。スポーツマンシップとフェアプレイが、明確なルールの形で決定された国です。学校の教育課程にスポーツを入れた国でもあります」
「英国のスポーツに対するアプローチは、クーベルタン卿が19世紀末、近代オリンピック運動を開始するために大きな影響を与えました」――ここまで言われたら、英国に住む人は誰しもが感動してしまう。
「フェアプレイとフレンドシップを忘れずに戦ってください」「メダルよりも品性のほうが重要ですよ」「ドーピングは拒否しなさい。対抗相手を尊敬しなさい。自分たちがロールモデルであることを忘れないでください」−一つ一つの言葉が響いてきた。
しかし、最大の感動はまだ最後に残されていた。最後、全国を回ってきた、聖火がスタジアムに届けられた。その聖火を10代の少年少女数人が地上に置かれた銅製の「花びら」のようなものに、それぞれ点火した。
最初は、丸い輪状態だったのだが,火が円周を一回りすると、次第に「火の花」状態になり、さらに見ていると、なんと、これが筒状に立ち上がってゆく。最後は、これまでに私たちがよく目にしたように、アイスクリームのコーンのような形になって、アイスクリームがのる部分が炎になって聖火台に変身したのである。その後は大花火大会。発想がユニークな上に、見た目もよい。英国のクリエイティビティの表出でもあった。
(英国でしか見れないかもしれないが、とりあえず、アドレスをあげておく。) http://www.bbc.co.uk/news/uk-19024254
最後の締めは、ポール・マッカートニーの「ヘイジュード」であった。
翌日の新聞はどこも絶賛であった。 http://www.bbc.co.uk/news/uk-19025686
タイムズ「傑作」
テレグラフ「すばらしい、息を呑むような、羽目をはずした、完全に英国的な」開会式
アンドリュー・ギリガン(テレグラフ):「一部はすばらしかった、あまりよくないところもあったし、大部分は外国の視聴者には意味が不明だったのではないか」
サン「マジックのようだった」
(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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