シリアの政府軍と反政府勢力との闘争は隣国レバノンに転移し、誘拐事件を頻発させているようだ。ニューヨークタイムズの「Assad suspected of stoking fire in Lebanon(アサドがレバノンに戦火を拡大させようとしている可能性がある」)とする見出し記事では、シリア国内で政府軍に近いシーア派と、反政府軍に近いスンニ派が抗争をしていることが描かれている。
そんな中、シリアで反政府軍に同朋が誘拐された仕返しに、レバノンでスンニ派市民がシーア派から報復のため誘拐されているようだ。先週だけで誘拐されたのは50人に上ると書かれている。
レバノンで活動している武装勢力「ヒズボラ」はシーア派であり、イランやシリア政府軍と手を結んでいる。一方、シリアの反政府勢力であるスンニ派の背後には西欧諸国とサウジアラビアが潜んでいるとされる。ニュースでは独裁者対民主主義の戦いという構図で描かれがちだが、宗教や西欧諸国の思惑も絡み単純ではないのかもしれない。
ニューヨークタイムズの同記事の下には「U.S. options shaped by fear that intervention could backfire」なる分析記事が掲載されていた。記事によると、シリアの情勢は1985年のアフガニスタンよりもはるかに複雑化しているとされる。そう分析しているのは当時、CIAのアフガニスタンのムジャヒディンへのテコ入れをサポートしていたMilton A.Beardenなる人物である。
彼によれば今、シリアの反政府勢力は個人で携帯できる地対空ミサイルを支援国に要求している。Manpadsというものだそうだ。アフガニスタンの時はスティンガーというミサイルだった。これをビン・ラディンらが使ってソ連と闘ったが、やがてこれらの武器がアメリカに向けられることになった。シリアの反政府勢力にテコ入れされる兵器もその後、どこに流れ、どのような使い方をされるのかまったく見えないというのである。そもそもシリアの反政府勢力はどんな政治姿勢を持つ勢力なのかも見えない。自由シリア軍は自由という言葉を掲げているが、彼らの自由とはどのような意味合いなのか?
実際、昨年リビア政府が崩壊した後、多数の武器が中東やサハラ地域に流れ、その地域で戦争が起きている。あの時も反政府勢力の政治思想は不明のままだった。その後、周辺地域には武器があふれ、政治的にはイスラム原理主義勢力が勢力を拡大している。欧米諸国はアフガニスタンやイラクに介入したが、そのため何人の人間が殺され、最初のお題目だった「民主化」がどのくらい進んだのか、それらは検証が必要である。
■ニューヨークタイムズ「Syria Seen as Trying to Roil Lebanon」
http://www.nytimes.com/2012/08/22/world/middleeast/fears-rise-that-assad-is-trying-to-stoke-sectarian-war-in-lebanon.html?_r=1&ref=hezbollah ■ニューズウィーク誌
自由シリア軍を支持してきたアメリカ。ところが、アメリカのニューズウィークは最近、自由シリア軍に対する懐疑的な見方の記事を出し始めた。自由シリア軍は「自由」とは裏腹に、イスラム原理主義組織が背後を固めており、イスラム国家の樹立を目指している可能性がある、という記事である。http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2012/08/post-2654.php
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