人口は70億人を突破した。10年強で10億人ずつ増えている。私が小学生の頃は約40億人だった。2050年には93億人になると国連人口基金は予測している。だがその一方で農地の拡大はすでに頭打ちになりつつある。だから今安価でいつでも入手できると思っている海外からの輸入食糧もいずれは入手が困難になるだろう。オーストラリアの科学ジャーナリスト、ジュリアン・クリブ著’The Coming Famine'(飢饉がやってくる)は邦題「90億人の食糧問題」として出版されている。副題は「世界的飢饉を回避するために」。本書の中でクリブ氏は90億人時代を賢く生きのびるための「食事」を提案している。その鍵は野菜にある。
「野菜を生産すれば、同じ土地面積から豆類、穀類、肉よりも多く収穫できると、世界野菜センターは言う。同じ面積の土地を使って、豆類の12倍、穀類の5倍もの食糧を野菜から得られるのだ。肉の生産に必要な穀物の量を考慮すると、1ヘクタールの土地から鶏肉の29倍、豚肉の73倍、牛肉の78倍の食糧を野菜の形で生産できる。」
さらに野菜の生産は雇用を大幅に増やせるという。
「野菜は必要とする土地などの投入物が少ないものの、栽培が労働集約的なので、人口は多いが資源が不足しつつある世界にぴったりである。一般に野菜の栽培には、同じ面積の穀物を栽培するのに必要な人数の2〜5倍を雇用する。」
地方の野菜作りで人手がより求められれば都会に人口が集中する現象を緩和することにもつながる。現在世界各地で進んでいる貧困化と都市への過度の人口集中は密接に関係しており、世界的なトレンドになっている。冷戦終了に伴って生じたグローバル化と規制緩和で土地を奪われた農民がルンペン化して都会に集まってくる現象だからだ。一方、世界の大資本はより少ない人数でできる穀物の大規模生産を理想としている。そうなればますます農村に人が不要となる。しかし、農村から都心に出たからと言って必ずしも幸福が約束されているわけでもない。都市に大量の仕事、住居、インフラが必要となる。しかも都市に人が集中すれば労賃は下がる。将来、日本の狭い家屋が世界のスタンダードになると予想する人がいる。しかも、その狭い家屋にすら住めない人も増えている。だから、土地も自然も豊かな地方に人をつなぎとめる効果を持つ野菜作りは反貧困だとクリブ氏は言う。
さらに野菜を優先的に作れば今後不足が予想される水も少なくて済むという。
「野菜生産は水使用量も少なくて済む。1キログラムの牛肉を生産するのに必要な水で、例えば91キログラムのトマト、あるいは175キログラムのキャベツを生産できる。」
クリブ氏は現代の工業的な畜産方式には懐疑的である。穀物や水を多量に必要とするだけでなく、狭い檻に閉じ込めて動物の本性に逆らうようなストレスの高い飼育方式は病気を招くなどの弊害もあり、長く続かないだろうと考えているようだ。
「こうしたことから、世界的食糧危機を解決するために、対極にもう一歩踏み出すことが促されるだろう。それは、質の高い家畜の飼料を牧草地のサバンナに戻し、そしてウシ、ヒツジ、ヤギの伝統的な低投入牧畜生活に回帰することだ」
肉食がゼロになるのではないにしろ、肉を減らすことがより多くの人口を養うための条件となる。しかし、実際に肉を回避する時代が来たら人々は我慢できるだろうか。有史以前、飢えた人類は人肉食を行っていたと考えられている。今も、人類が人類を食う話はSFではしばしば見られる。映画では「ソイレントグリーン」や「デリカテッセン」などである。特に欧米人は肉への執着が強いだろう。バターがなくなったら革命が起きるという。肉が喰えなくなっても民主主義は存続できるだろうか。
■Jurian Cribb 'Sience Alert'
http://www.sciencealert.com.au/jca.html
■ジュリアン・クリブ氏の講演
http://vimeo.com/23244839 ■人肉食の時代
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111121807296 「記事によれば有史以前の人類は近縁のネアンデルタール人やアンテセッサー人らとともに人肉食を通常行っていたと考えられている。その根拠は遺跡から発掘された人骨に動物の肉を食する場合と同じ食べた跡が痕跡として残っていたことによる。研究対象となった遺跡は英国サマセットにある洞窟、Gough's Caveの人骨だった。」
■「飢餓人口が増加に転じた時代に生きている」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201107011028145 ■山羊を飼おう 「全国山羊ネットワーク」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201201102124042
http://www5.synapse.ne.jp/japangoat/ 「山羊の頭数が少なくなったのは1961年の農業基本法で農業の近代化が求められ、生産効率の高い牛や鶏、豚に資源を集中することがうたわれ、効率が悪い山羊は対象から外されてしまったからだという。全国山羊ネットワークによれば1957年に約67万頭飼育されていた山羊は1997年には28500頭しかいなくなっていた。地域別では山羊文化が色濃く残る九州・沖縄地域が8割を占め、残りは主に関東、東北で飼われている。
確かに肉やミルクの生産効率は牛や豚よりも落ちるかもしれないが、山羊は開発途上国などで貴重な食料源となっており、難民の貴重な食料源でもある。飼育も手間が少なくて済み、特に女性にとっては飼いやすいからだ。アフリカなどの難民キャンプでもしばしば山羊を見かける」
村上良太
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