イブラヒム・ディアロは使命感を持ち、先の見通せる男だ。彼の眼は、というか実際には体全体が、彼が話を始めると光を放ち始める。そしてまた沈黙した時もそうなのである。ずっと以前、イブラヒムは教師をしていた。多くのことを目撃し、さらに多くのことを耳にした。トゥアレグ族の反乱があり、IMFが訪れ、世界銀行が続き、ニジェールの経済活性化をめぐって様々な方策が行われた。
イブラヒムは強いストレスに耐え、莫大な個人的犠牲を払ってジャーナリストになった。彼はアガデスにおける最初の独立した月刊新聞エア・インフォを創刊した。その道のりでイブラヒムの家庭は崩壊の淵に陥ることもあった。それでもしぶとく活動を続けるただ一人の調査報道記者として、彼は為政者たちからしつこく目の敵にされた。
経済危機の折、支配層の家族らを支える国民の経済的負担はあまりにも肥大化していた。だからこそ為政者たちは神経質になり、時にはイブラヒムに暴力を働いた。しかし、為政者たちが嘘をつき、国民の金を横領しているのは明らかだった。イブラヒムはもう二度とこのような政治を作り出してはならないと言う。
しかしながらイブラヒム一人ではどうにもならない。彼は借金にまみれている。というのも人々には月刊新聞を買うよりももっと別な金の使い道があるし、月刊紙を携えてカフェでいっぱい飲む余力はさらにないのだ。なんといってもアガデスの住民の文盲率は85%に及ぶ。庶民がそれでも月刊紙エア・インフォを買うとしたら挿絵によってだとイブラヒムは笑う。
イブラヒムは一人で取材もやれば編集もやり、株主でも読者でも配達人でもある。経理、秘書、掃除人、夜間警備員でもある。そのためにだが、彼はとても頭がいい。
イブラヒムの月刊紙に「Musaはむやみにおびえた」という見出しが載ったのは3月号だ。Musaは悪名高い内務大臣。彼はTchirozerineの炭鉱を自分の目で視察したいと思っていた。Tchirozerineで掘り出された石炭で発電した電気がニジェール国民の大多数に供給されているのだ。しかし、Musaが視察に訪れたまさにその時、そこでダイナマイトの爆発が起きてしまった。倉庫の管理がろくになされていなかったからだ。
Musaと多数の取り巻き達は慌てて南にUターンした。その日の午後、アガデスのマノ・ダヤク空港にはパニックが広がったが、やがては元通りの倦怠した空気に戻っていった。から騒ぎが恥であるのは何もニジェールに限らず、世界共通である。それが警察組織の長の場合はなおさらである。イブラヒムはMusaを徹底的に揶揄する見出しをつけた。それでも政府高官がTchirozerineを訪ねたのは久々のことだ。しかし、その視察によっても住民に何のいいことももたらされることはなかった。すでに町は搾取されつくしている。未来もニジェールにとっては暗い、と彼は新聞に苦い言葉を書いた。
伝統的な社会構造は廃れてしまった。近代化はまるで機械のようだ。同質性の高いトゥアレグ族はおそらく最もそのことに気がついている。彼らはこれまで近代化に抗してきたが、すでに腕が取り込まれようとしている。やがてその機械は全身を飲み込んでしまうだろう。
■アガデスのフリープレス「Air INFO」
http://trenteseptbis.free.fr/agadez.org/air.htm ■アガデス ニジェール北部にある州。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Niger_departments_named.png ■ニジェールの経済(外務省による)
「ニジェール経済は伝統的な農牧業と1970年代半ばより急成長したウラン産業が外貨収益の柱となっている。産業の多角化が進んでおらず、経済状態は降雨状況や周辺国との関係などの外部要国に大きく左右される。2005年には、干ばつと砂漠バッタの発生による被害を受け、深刻な食糧不足に陥った。低迷していたウラン価格が2003年以降上昇を続けるなど明るい要因はあるも、タンジャ前大統領による新憲法制定に至る過程で米国等が新規援助の停止に踏み切るなど、なお同国経済をとりまく状況は厳しい。」
寄稿 アンドレイ・モロビッチ 翻訳 村上良太
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