「日経新聞」2012年9月14日、朝刊一面。働けない若者の危機 第2部 既得権の壁 過保護に慣れた正社員。「若者の就職難の裏側には正社員ら既得権を持つ年長者がいる。若い層にだけ重荷を負わせる仕組みは持続しない。痛みを分け合う工夫が要る。」(稲垣豊)
「痛みを分け合う」? べつに従来の正規雇用の労働者が、若者の職を奪ったわけじゃないだろう。痛みを労働者の間で分け合うのではなく、「収奪者が収奪される社会」(資本論)にすればいいのに、と直感的に思ったのですが、その後がさらにひどい。
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派遣社員として3年間勤めた食品会社から5月に契約を打ち切られた安永美佐子(仮名、26)。派遣先の上司が送別会でささやいた言葉が忘れられない。「正社員は切れないんだ。申し訳ない」
社員食堂が使えず、自分だけロッカーもなかったが、正社員以上に働いた。「頑張っても真っ先にきられることがよく分かった」とつぶやく。
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安永美佐子さんがどこかでこの記事を読んでたら、知っておいてほしいのですが、この上司、ひどい。本当は「3年以上派遣を雇うと正社員にしないといけない法的義務が発生する。だからその前にあなたを切るんだ。申し訳ない」ということ。
それに社員食堂が使えないとかロッカーがないとかは、正社員と関係ない。派遣社員は食堂やロッカーを使えないと決めているのは、会社、つまり上司なんだから。
だけどこの会社の労働組合は何をしてるんだろう。3年も派遣で働いている人はちゃんと正規雇用にしろとか、社員食堂やロッカーを派遣社員も使えるようにしろ、とかいう要求は労働組合の要求そのものだろうに。
さらにひどいと言うか笑ってしまうのは、銀行のマネーゲームが引き起こしたバブル崩壊をきっかけに拡大した経済危機に対応するために、解雇規制を大幅に緩和して青年労働者をさらに苦しめているスペインを引き合いに出していること。
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若者の苦境が行き着く先。それは25歳未満の失業率が50%を超えるスペインかもしれない。 マドリード在住で医学資格を持つマルチン・モレノ(27)は国内での職探しを断念し、英国に渡ることを決めた。高学歴・高技能の若者が職を求めて流出し、経済の活力は低下している。 原因の一端は解雇規制にあった。「人員整理のコストが膨大で、企業は採用に消極的」(スペイン経団連幹部)。今年、改革に踏み切るまで、解雇する社員への補償金は欧州連合(EU)より3〜4割高かった。
(略)
日本が正社員への過保護を続ければ、若者のチャンスはさらに減り、中高年は衰退産業にたまっていく。人材の目詰まりを防ぎ、スペイン化を避けるために、正社員の既得権をどこまで守るべきか検証し直すときにきている。
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「経済の活力は低下している。原因の一端は解雇規制にあった。」なんていう記述は、もうめちゃくちゃですね。先日来日したattacスペインのトーレスさんも、経済の混乱の原因は、フランコ独裁から続く一部の権力者と結託した金融資本主義の横行が引き起こしたもので、そのツケを若者をはじめとする労働者が負担させられている、とハッキリと言っていました。
「スペイン化を避ける」どころか、スペインの20年も前に同じ土地不動産バブルの崩壊で銀行危機から経済危機と停滞の20年を経験してきた日本経済は、バブル崩壊後、公的資金による銀行救済、非正規雇用の全面導入、日銀による国債買い入れなど金融緩和、社会保障の切り下げ、農林水産業補助の引き下げ等など、いま危機にあえいでいる欧米資本主義の何周も先を奈落に向けて走り続けているという状態なのに。
とか思いながら、ぱらぱらと国際面をめくると「日本製品不買を容認 商務次官 全国労組も揺さぶり」という記事。中国の労働組合は、日本をはじめ帝国主義の侵略戦争に反対した伝統を持っており、9月18日は1931年に中国東北部の中心都市の奉天(現在の瀋陽)で関東軍の謀略による柳条湖事件(いわゆる満州事変)の記念日。
記事の最後にこんな風に紹介している。
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「日経新聞」2012年9月14日 朝刊 六面
日本製品不買を容認 商務次官 全国労組も揺さぶり
(略)
総工会は声明で「中国の全労働者は日本の行動に断固反対だ。中国政府による主権保護のための一切の措置を支持する」とした。総工会の組合員数は全国で約2億6千万人で日系企業にも多い。今後、総工会主導で官製のストライキを起こし、日系企業に圧力をかけることも考えられる。
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中国では労働組合は総工会の傘下でしか組織化できないんだから「官製ストライキ」もクソもないじゃない、と思うんだけど、官製でも何でもそれで待遇改善が勝ち取れたらいいじゃない?と思います。組合民主主義の問題はあるでしょうが。
ちなみに総工会の「声明」はすごく短いもので、翻訳しようかと思ったのですが、最後が「いかなる国家であろうと中国の神聖な領土を侵犯することを許さず、わが国政府による国家の領土主権を防衛する一切の必要な措置を断固擁護する。」とかだったのでやめた。
総工会の声明
http://www.acftu.net/template/10001/file.jsp?cid=222&aid=86047
とまれ、指導部が交代する党大会を控えた中国政府にとっていまはとても敏感な時期だということはわかっているのに挑発的行為をとり続ける日本政府は批判されてしかるべきだと思う。官製ストでもなんでも、日本の労働運動は応援すべきだとも思う。
非正規労働者の権利の問題と領土問題について、日本の労働運動は、雇用形態や国境を越えて、収奪者が収奪される社会の実現のために団結してほしい。
あと日経新聞には貴重な時間を返してほしい。
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