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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2012年11月05日08時00分掲載
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検証・メディア
おそらく、誰かが辞任するだろう ―BBCとサビルの不祥事
BBCの元司会者・タレント、故ジミー・サビル氏による性的暴行疑惑は、日に混迷を深めている。「犠牲にあった」と警察やメディアに連絡を取る人が増え、警察の捜査件数も増加中だ。前回にも書いたが、先月23日には、下院の文化メディアスポーツ委員会にBBC会長ジョージ・エントウィッスル氏が呼ばれ、質問を受けた。内容は、「なぜBBCがサビル氏の性暴力疑惑に関して、いったんは調査番組を作りながら、放映中止としたか」である。(ロンドン=小林恭子)
慈善事業者としても知られたサビル氏は昨年秋亡くなったが、BBCのいくつかの人気番組のおかげで広く名前が知られていた。
しかし、40年の長いキャリアの中で、一度のみならず、「未成年(主に少女たち)に性的暴行をしている」という噂がでていた。
英メディアの報道によると、性的暴行の発生場所は、BBC内のサビル氏の控え室や、慈善目的で参加したマラソンで休む際に使ったトレーラーの中、またBBC以外にも、自分が募金行為を主導していたいくつかの病院の中だ。
こうした一連の疑惑が公にされないままで時が過ぎた。いくつかの理由があるが、有名であったことが大きな隠れ蓑になっていたのは間違いないようだ。
有名人であるために「何をしても許される」という雰囲気があったことに加え、複数のテレビ関係者は「男性の有名タレントが若い女性や少女と性的関係を持つことに対し、当時(1970年代、80年代)はあまり目くじらを立てなかった」という。
確かに、現在、子供とかかわる仕事に就く大人への要求は高くなった。例えば、教育機関を含め児童を扱う仕事に就くには、犯罪者、特に性犯罪者のリストに載っていないかどうかを警察に確認することが、雇用側の必須事項になっている。
慈善事業に熱心だったことも、サビル氏に特別の地位を与えた。慈善事業への貢献を評価され、1996年には、エリザベス女王から「サー」の称号まで授与されているのだ。
巨額の募金の受け取り先となっていた病院の1つには、サビル氏の部屋まであった。この病院では障害を持つ子供たちが治療を受けていたが、サビル氏は、病棟に入る鍵も与えられていた。この子供たちの何人かが、最近になって、サビル氏に暴行を受けたと声を上げている。
BBCの混迷が始まるのは、昨年10月のサビル氏の死後である。
BBCは、人気者サビル氏の功績をたたえる番組を同年のクリスマス時の目玉として制作しようと計画した。同じ頃、BBCの時事解説番組「ニューズナイト」が、サビル氏の性的暴行疑惑を検証する報道への準備を進めていた。犠牲者の何人かに取材をし、そのうちの一人は、カメラが撮影を続ける中でのインタビューに応じてくれた。この調査報道は、「ニューズナイト」の一部として、放映する予定だった。
しかし、調査がある程度進み、「ニューズナイト」のエディター(番組内容を統括する人)ピーター・リッポン氏と調査報道担当のプロデューサーが「もうすぐ放送だ」という会話を交わしてまもなく、リッポン氏は「編集上の理由から」、今後の調査停止を指示した。サビル氏の番組は報道されないことになった。
放映中止を知る人は少なかったが、今年10月3日、BBCのライバル局の1つ、民放ITVが、独自の調査によりサビル氏の性的暴行疑惑を番組化した。犠牲者のインタビューを入れながらの放映で、サビル氏問題がクローズアップされた。
BBCが直面する問題は2つある。1つは、「サビル氏が長年にわたり、性的暴行を働いていたなら、BBCにはこうした行為を阻止する義務があったのではないか?」という点で、もう1つは、「なぜ、ニューズナイトは先の調査報道を放送しなかったのか?」である。
BBCの編集幹部や経営陣トップの対応は、後手に回った。
まず、経営陣トップ、BBC会長のジョージ・エントウイッスル氏が取材陣の前に出てこなかった。「警察の調査が終わるまで、BBCは調査しない」の一点ばり。民放のリポーターが追いかけるのを、逃げるようにして、途切れ途切れに言葉を発した。
一転して、エントウイッスル氏が「独立調査委員会を立ち上げます」と記者会見で述べたのは10月12日である。3日のITV放送から9日も後だ。書かれた紙を読みながらの答弁だった。9月に会長職に就いたばかりだが、その前は「BBCビジョン」、つまりBBCのテレビ部門のトップだった。元テレビマンとは思えない、パフォーマンス振りであった。
「編集上の理由」で番組の放送を中止した、「ニューズナイト」のエディター、リッポン氏はことの経緯を10月2日、BBCのブログに書いたが、BBCは22日になって、その内容の3箇所に間違いがあったことを指摘する長い声明文を発表している。
エントウイッスル会長が設置させた、独立調査委員会は2つあって、1つはBBC内でのサビル氏の性的暴行疑惑の解明と、もう1つは、「ニューズナイト」で放映されるはずだった調査報道の放映中止の真相の解明だ。調査の続く間、エディターのリッポン氏は、一時的に職から離れることになった。
23日、エントウイッスル会長は下院の文化メディアスポーツ委員会の公聴会に呼ばれた。番組放送中止にかかわる経緯の説明のためだ。ITVの放送に端を発した性的暴行疑惑の発生から、20日以上が過ぎていた。調査委員会を設置する、しないでごたごたしたBBCの「これまでの対応は間違いだったとは思わないか」と委員長に聞かれた会長は、最後まで「間違いだった」とは認めなかった。
質疑が続くにつれて、会長自身がなぜ番組が放送中止になったのかを十分には知らず、番組のエディターやリポーターと直接は話をしていないことが分かった。その理由は、一つには、BBCの組織が「階層的になっているから」だという。会長が直接、現場のエディターやリポーターにコンタクトを取る仕組みになっていないという。聞きたいことがあったら、自分の一つ下の部下に聞く。その部下がその下の部下に聞く・・・という仕組みになっているからだと。
あまりにも、「知らない」「分からない」という答えが続くので、質問をする議員らが失笑する場面が何度かあった。痺れを切らした議員の一人が、「『おい、どうなっているんだ』と担当者に直接電話を入れるだけで、答えが分かるはずなのでは」、と会長に進言するほどだった。
結局、エントウイッスル会長の言葉をまとめると、「自分はことの経緯を十分には知らない。真相を解明するために、2つの調査委員会を立ち上げたので、調査結果を待ちたい」ということになる。
夕方の民放チャンネル4のニュース番組に出たベン・ブラッドショー議員(文化メディアスポーツ委員会の委員の一人)は、「エントウイッスル会長には、事態の把握を急いで欲しい。事実をつかんで欲しい」と繰り返した。
ITVの放送から約3週間。この長い間に、ニューズナイトの調査報道の放映中止をめぐって、BBCのニュース幹部の中でどのような話し合いがあったのかさえ解明できていないーこれだけでも、エントウイッスル会長下のBBC経営陣の機動力の遅さが如実になった。
22日、BBCは調査報道の専門番組「パノラマ」で、「ニューズナイト」でのサビル報道の放送中止を、関係者への取材を通して制作し、放映した。
自己批判の番組を作ることができるのはBBCジャーナリズムの優れた点ではあるのだが、浮かび上がってきたのはエントウイッスル会長やエディターのリッポン氏の機能不全ぶり。特にリッポン氏は、どちらかというと「悪役」のような描き方をされていた。
現在、24時間報道体制の世界になって久しい。ある番組の放送中止を説明するのに3週間以上かかっていては、遅すぎる。経営陣トップが、疑惑が大きく注目された後に正式なコメントを出すまでに10日近くかかったのも遅すぎるぐらいなのだから。
リッポン氏、あるいはエントウイッスル氏、あるいはその直属の経営陣の誰かの首が飛ぶのは避けられない事態ではないかと思う。
おそらく、現在の経営陣は、サビル氏の暴行疑惑には直接的に間接的にも、関係していない面々ばかりだろう。
それでも、暴行疑惑を解明するための調査報道番組があったことを知りながら、「もし」サビル氏の業績を大々的にたたえる番組を優先して放送し、調査報道のほうは意図的に切ってしまったとしたら、厳しい目で見ると、BBCの報道機関としての矜持はどうなったのか、と思われても仕方ないだろう。疑惑がある人物サビル氏の伝説作りにBBCが加担してしまったことにもなる。
エントウイッスル会長は、ニューズナイトの調査報道の存在について、少しは知っていたが、詳しくは知らなかったと23日の委員会で返答した。昨年末、サビル氏の番組が準備されていた頃、エントウイッスル氏はBBCのテレビ番組の責任者だった。「少ししか知らなかった」なら仕事を十分に把握していなかったことになるし、「知っていて、中止させた」なら、編集過程への介入となってしまう。
「混迷」−という言葉しか、BBCの現況を示す言葉が出てこない。事実をつかむーこの唯一のこと、しかも、自分の局の放送にかかわる決定についての事実関係すら、経営トップは十分に掌握していないのだ。
ちなみに、BBCはこれまでにも危機状態に陥り、そのたびに何とかこれをくぐり抜けてきた。
例えば、2003年のイラク戦争開戦をめぐる、首相官邸とBBCとの「戦争」だ。開戦に向けて政府が用意した、イラクの脅威にかかわる文書に「誇張があった」とするBBCラジオ4の報道がきっかけだった。
2004年、当時の会長とBBC経営委員会(現在のBBCトラスト)の委員長がほぼ同時に辞任するという前代未聞の事態が発生したものの、新経営陣の下で、息を吹き返した。今夏の五輪報道は英国内外で高い評価を受けたのだがー。(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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