英国で始まった、ホームレスの人が販売する雑誌「ビッグイシュー」。その日本版「ビッグイシュー日本」が、創刊9周年を迎えた。ホームレスの人たちを助けるために設立された「ビッグイシュー基金」も設立から5年をむかえ、このほど、NPOとして認定されるに至った。3日、NPO取得を記念するパーティーがあり、早速、会場となった東京・四谷にある聖イグナチオ教会に足を運んでみた。(小林恭子)
会場入り口では、ビッグイシューの販売者の人たちや雑誌、基金で働くスタッフ、その支援者たちが参加者を迎えてくれた。
「パーティー」と言っても、せっかくの集まりであるので、参加した方やビッグイシュー関係者らがホームレスについて考える機会、「場」にもなっていた。この日、みんなで考えたテーマは「いま、ホームレス問題を問い直す −誰もが包摂(ほうせつ)される社会へ」である。
最初のあいさつはビッグイシュー日本の共同代表の水越洋子さん。
10年近くビッグイシューを発行してきたわけだが、「常に不安を抱えながら」の作業であったという。もうベテランだろうと見るのは正しくなく、「今でもアマチュアである」と思いながら発行しているという。
この数年のホームレスの状況を振り返ると、いわゆるリーマンショック以降、ホームレスの人の「年齢が10歳若くなった」と感じているという。昨今はネットカフェなどで夜を過ごす若い人が増えたために、厚労省の数には入らないホームレスが増えている、ホームレスの人が見えなくなっている事態が生じているという。
昨年の3.11の大震災後には、家を失った人が多く出た。「ホームレスと何か?という定義が変わっていると思う」。
水越さんは、ホームレス問題とは「住宅問題である」とも指摘した。
その後は、「ルポ若者ホームレス」を書いた飯島裕子さん、自立生活サポートセンター・もやい代表理事の稲葉剛さん、ビッグイシュー協同代表の1人でビッグイシュー基金の理事長佐野章二さんのお話が続いた。
飯島さんによると、調査を行った2008年から今年の間で、20代前半から30代後半のホームレスの人が増加しているという。10代―20代前半の若いホームレスの人の場合、仕事の経験がほとんどない場合が多い。「両親がいて、子供が2人」という近代的な家族のモデルが崩壊している、と飯島さんは指摘した。
稲葉さんは、自立を目指す人がアパートを見つけるのに苦労する、と話す。「誰もが権利を主張できる社会」をめざすべき、と。
最後に、佐野さんが「誰もが包摂される社会」の意味を説明する。これは、「誰にでも居場所があり、出番がある社会」ではないか、と。「包摂」の意味がピンと来ていなかった私にも、これでイメージがはっきりした。
その後、参加者は、いくつかのテーブルの周りに座って、互いに自由に意見を述べた。テーブルには、それぞれのテーマが設定されている。例えば、「自立とは何か?」「誰もが包摂される社会」、「住まいとホームレス問題」、「若者をホームレスにしないためには?」「女性とホームレス」、「震災とホームレス」など。雑誌ビッグイシューの将来について話すテーブルもあった。
この議論の方式を、ビッグイシューでは「ワールドカフェ」と呼んでいた。これは、「知識や知恵は機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される」という考えに基づいた話し合いの手法だそうだ。
私が最初に行ったテーブルは住宅問題について話しあう場で、次のテーブルは女性とホームレスがテーマだった。
一人ひとりが自分の体験を話す中で、いかに多くの人が住居や福祉制度に不安を抱いているかをひしひしと感じた。
いくつかを紹介してみるとー。
ある男性は、「注目しているのは『0円ハウス』の存在」と話し出した。
「0円ハウス」とは、建築家坂口恭平さんのプロジェクトだ。http://www.0yenhouse.com/house.html
熊本にある築80年の日本家屋を、坂本さんは弟子2人とともに作り変え、被災者避難相談所にすることにした。「色んなことをゼロから、根本から考え、これからの人生を生き延びていこうという願いを込めて、ゼロセンター」と名付けたのだという。「ただ避難するのではなく、徹底的に考え直し、新しい生活を作り出す。ゼロセンターはそんな行動の拠点になればと思っています」とブログには書かれていた。
一方、最初の男性の隣に座った人がこう語った。「東京で家賃が月4万円のところに住んでいるが、独身者が住める住居がドンドン減っている。都市には潤いが減っていると思う。周囲には高層建築物が立ち並ぶけれども」。
私も自分の思うところを話した。「日本国内で、あるところでは住む場所がたくさんあるのに、住む人がいない。その一方で、住居がなくて困っている人がいる。マッチングが機能していない」。
私の隣に座っていた男性は、「六本木ヒルズを見ていると、怒りを覚える。普通の人が住める場所が欲しい」。
ホームレスの人の自立支援を行っているという別の男性は、「月に年金15万円をもらっても、満足な家に住めない人もいる。年金のほとんどをギャンブルに使ってしまうから。救いたいが、こうした人を収容する住居を設置したいと思っても、地域からの反発、偏見がある」。また、「生活保護の申請を、故意に受け付けない自治体が多い」。
女性とホームレスのテーブルでは、
「女性でホームレスって本当にいるのだろうか?」
「実際にいるし、見たことがある」
「女性は職場でも、年金受給額でも差別を受けている」−などの意見が出た。
このテーブルで心に残ったのが、2人の女性のコメントだった。1人は「40代で、独身。自分もホームレスになるかもと思って、ここのテーブルに来ました」という。もう1人は、20代後半から30代ぐらいの女性。「私も独身なので、ホームレスになったらどうしようとう思いがある」。
日本で、普通に働いていている独身女性たちが、将来、ホームレスになるかもしれないと思ってしまうなんて、一体、どういうことなのだろう。
毎日、仕事に出かけて、賃金を得るという行為が、何らかの形で停止したとき、社会に居場所がなくなってしまう・・・そんな国なのだろうか、日本は?いやそんなはずではー。しかし?
日本で、貧困問題がクローズアップされたのは数年前からになる。貧困とはお金がない状態だけでなく、住居問題だったり、家族の問題だったり、心のトラウマの問題だったりするのだろう。
もっともっと、ホームレス、貧困、社会福祉の問題に光があたってもいいのではないか、もっと税金が使われてもいいのではないかーそんな思いを持った。テクノロジーの開発でも、「こんなアプリを使うと、安いものが買える」という、消費行動につながる発案よりも、社会福祉に関連したアプリ、開発、努力がもっとあってもいいのではないかー。そんな感じがした。そして、自分には何ができるかな、と考える日でもあった。
ビッグイシュー日本版は月2回発売。最新号の特集は「人々をホームレスにしない方法」だ。
ウェブサイトには、特集についての以下の記載があった。
(引用) 今、日本には100万人をこえるホームレスやホームレス予備軍の人が存在する?!
ここ20年ほどで、生活保護受給者は2.4倍(95年88万人から12 年210万人)、非正規雇用者の比率は2.2倍(85年16パーセントから11年35パーセント)となった。このようななか、08年リーマン・ショックでは多くの若者が雇い止めされ、路上では見えない若者ホームレスが増えた。この背後には、若年無業者60万人、ひきこもり70万人、フリーターなどの人々が控えている。さらに、震災や原発事故によって、数十万人がホームレス状態になり、いまだ避難所で暮らす人もいる。
彼らを路上に出さないためには?安定した暮らしへの希望を持ってもらうためには?その鍵は住宅問題にあるのではないか。
そこで、住宅政策を研究する平山洋介さん(神戸大学大学院教授)と、路上生活者を支援する稲葉剛さん(NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長)に「人々をホームレスにしない住宅政策」について対談をお願いした。また、「もやい」のスタッフに「若者ホームレスの今」について、作家の雨宮処凛さんに「ホームレス状態の若い女性」について聞いた。さらに、今も県外の避難所に残る福島県双葉町の方々に取材した。
ホームレスとはいったい誰なのか?人々をホームレスにしない方法は?今、ホームレス問題を問い直したい。(引用終)
ビッグイシュー日本版の過去記事はこちらへ
http://bigissue-online.jp/ ビッグイシュー日本のウェブサイト
http://www.bigissue.jp/
(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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