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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2012年12月26日00時50分掲載
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文化
【核を詠う】(81)福島の歌人たちが原発災の日々を詠った作品を読む(11) 『平成23年版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<6> 山崎芳彦
衆院選で「大勝」した自民党の原発政策の、予想はされたが、まことに危険な内容が明らかになりつつある。選挙中には、いささかの化粧を施していたが、政権の座につくことがなってむき出しの原発維持・新設容認の方針があからさまだ。いよいよ、脱原発への逆流が強まることになる。
各地の原発で行われている原発敷地内、周辺の、専門家による地層検査によって、活断層が確認され、また地震予測では深刻な規模の地震予測が次々と発表されていることには見向きもせず、「安全が確認された原発から順々に再稼働」、「新設については新しい政府与党で検討」、「原発なしでは日本の経済がもたないし、石油・ガス輸入によって国富が流れ出していて国が衰退する」・・・さまざまな言辞が連日の如く、安倍総裁や石波幹事長をはじめ経済界に寄食する有力議員からいとまなく発せられている。
原子力規制委員会の存在など無視同様である。原子力ムラの公然たる復活、新安全神話の創作が進む。一方で、原発立地自治体の中に財政問題、「地域経済」、雇用問題などを梃子に、住民と自治体の首長との引き裂き、住民の中への対立画策などがすすむ。福島の復興を口にしながら、それをも原発維持に利用しようとしているし、「福島の事故は起きてしまったが、女川など東北の他の原発はびくともしなかったではないか。」などという、まったく事実と反する大嘘をつき、最新の、国際基準に沿った安全対策を講ずれば事故は防げる、などという虚言が平然と語られる。
考えてみれば、原子力発電を国策として取り入れ、育成し、さまざまに起きていた原発事故の隠蔽に手を貸してきたのは、かつての自民党政権であり、財界とアメリカとの原発提携を行い、「原子力村」の跳梁跋扈を容認するどころか、自らその構成員であったのだから、このような事態を招くことは必然であったとも言える。さまざまな政治の状況のなかで、有権者全体からすれば決して「勝利者」ではない、まして具体的な政策に即して、特に原発政策についていえば少数派である原発維持勢力が政権を握ってしまうということが起きてしまったと言える。 これを奇貨として、原子力推進政策や改憲への野望を逞しくしている新政権が思いのままに振る舞うことを許しては、この国の人々の現在と未来に益することは何もないどころか、苦難を増幅させることになろう。
いま、筆者は岩波ジュニア文庫の『原発事故と放射能』(山口幸夫著、2012年11月刊)を読みながら、改めて福島原発事故について考えている。この原発事故が起きたまさにその日の同時刻に、2007年の新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8)の際、原子炉はすべて緊急停止したが、原発は数千ヶ所にわたる被害をうけ、火災も起きた事態を深刻に受け止めた新潟県が設けた技術小委員会の一つである「地震、地質・地盤に関する小委員会」が開かれていて、東京電力の柏崎刈羽原発の健全性についての検討を「原子力ムラ」に属していない専門家を複数人まじえて行なっていて、東電が一年前から津波に関する検討を深めていない怠慢が指摘されて、津波の評価が小さすぎることが問題になっていた、ということをこの本で知った。
著者の山口氏は、この会議に出席している最中に、地震に見舞われ、宮城県沖を震源とするマグニチュード8.8(後に同9に訂正された)の地震の情報を知った。上越新幹線が停まって帰郷できないでホテルに宿泊中に、テレビ画面に釘付けになりながら、 「つぎつぎに押し寄せる巨大津波がすべてを流し去っていきます。すぐに、女川の原発、福島の原発がどうなったか、ひょっとして大事故になってはいないか、柏崎刈羽はほんとうに大丈夫だったか、底知れない恐怖がおそってきました。」と書いている。さらに
「この大地震で原発の制御棒は機能しただろうか。原発は緊急停止に成功したのかどうか。停止したとしても、縦横無尽に走っている大小の配管は破れなかったか。110万キロワット級の原発では、配管の総延長は80キロメートルにもおよぶ。・・・とくに原子炉に直結している配管のどれかが破断し、水が吹き出し、原子炉の中の水位が下がり、注水に失敗し、燃料棒が水面上に顔を出すようになれば、燃料のメルトダウンが・・・おこるだろう。津波がポンプなどの原発に付属する機器を洗い流し去ったら、電源がなくなったら・・・。マグニチュード9.0の巨大地震が原発を直撃したら、原発はとうてい耐えられないだろう。つぎつぎに、不安が私の心の中に渦巻きました。」と書いている。そして、同書には、その二週間後に判明した事故の推移を記録され、原発事故と放射能について書かれているが、筆者は改めて、原発事故について多くのことを教えられている。
結局は、原発が存在するかぎり、どのような安全規制を作っても、それは「安全神話」の改訂版に過ぎないということだと思った。 自民党の安倍総裁はじめ推進論者が何を言おうと、原発を置き、まして稼働するならば、必ず「想定外」の原因による事故は、避けられないだろう。その危険は、地震、津波に限らず、もっと多様な、思いもかけない原因により、あり続けるだろうと考える。いま行なわれなければならないのは、脱原発、廃炉と使用済み核燃料などの処理について、あらゆる方法で安全に進めることに全力をかたむけること以外にないはずだ。
原発再稼働、新設などを許してはならない。人間の知恵と力は、原子力文明から抜け出るためにこそ向けられなければならない。それが、福島の教訓ではないのか、つくづくそう考えながら、福島の歌人の短歌作品を読み続けている。これまでに続いて『福島県短歌選集』を読む。
▼建設に抗ひし人をも巻き込みて原発今や放射能噴く
髪切りて帰る道みち項(うなじ)吹く原発放射能含む春風
原発の事故逃れ来しふるさとの無人駅発つ朝の警笛
後(うしろ)めたき思ひ抱きて暮らしをり震災の地を逃れ来(きた)り て
彼岸への水際(みぎは)を歩む感覚の常に身に在り3・11の後 5首 杉原素子
▼東電の謝罪は如何に作業員の放射能におののく姿を見れば
道問うに自信なげなり指差せる君も原発の避難の人か
高線量のふる里に戻る術あらずチェルノブイリと化せしフクシマ
降る雪を受けつつ数多の柿の実よ汝も風評の被害者ならんか 4首 杉本征男
▼外に出るな放射能から身を守れ摘みし野菜をよくよく洗へと 1首 鈴木栄子
▼年毎買ひしふるさと米を母はすすめずセシウム汚染をただにおそれて 1首 鈴木恵美子
▼山桜山吹咲けるのどかなるこの山里にも降る放射能
原発の収束つかず避難指示出さるもあてなき人らの苦悩
天災に人災追い打ちかけられしこの福島の空のかなしみ
原発という字除けば何もかも変りなき日々この年の暮れ
行きたくはなけれど心ふる里に残して出でて早八ヶ月 5首 鈴木和子
▼未曾有の地震津波の原発に負けちゃならぬ瑞穂の國は
原発のセシウム揺らぐ風評に守りぬかんと一心不乱
命日に祈る願いは原発の仮設住宅の家族を想う 3首 鈴木クニイ
▼放射能に家族が須賀川深谷市とガソリン僅かに朝に着きをり
原発の事故が移動と叫び来ぬ強制はなく決断出来ず
原発禍の次男の家に小学生三人がゐて車にて通ふ
肉用牛三十頭程飼ふ甥が出荷停止の不安つのらす
原発の二十キロの地点には警察自衛隊の機動車ありき 5首 鈴木 進
▼セシウムも原稿の締切も関係ないところに君は行ってしまった
わが命在る間に原発処理できぬこと知りつつ生きる他なし 2首 鈴木 武
▼深ぶかと帽子かぶりてマスクつけ登校の子ら黙黙とゆく
「直ちには人体に影響なし」と報道の放射線孫らの行末案ず
放射線憂ふるわれを癒やすがに庭の真紅の牡丹咲き初む
さまざまに思ひ迷へどよぎりくる放射線払ふすべのあらなく
心なき人の語れる風評にふるさと福島の厳しさ思ふ 5首 鈴木貞子
▼震災より一月過ぎても余震の続く大揺れに思う原発の事故 1首 鈴木トシ子
▼原発の事故よりわれ住む福島が「フクシマ」となり世界をめぐる
原発の事故より二月過ぎ去りぬ水張(みずはり)し田にさざ波の立つ
線量計首より下げて幼らは外の遊びもいまだ叶わず
放射能汚染の土を除きたり新しき砂に庭の明るむ 4首 鈴木文子
▼原子炉の爆発放射能飛ぶか建屋鉄骨曲がりむき出す 1首 鈴木結志
考えて悩みて虚しさの増すばかり原発事故後息つきて吐く
フクシマの川俣町をふるさとに子等より届く朝夕の声
新米の試食会の招き届きたりセシウムの検査に不安あらずと 3首 関 秀子
▼放射線を気にかけ乍ら友の植えし馬鈴薯二畝の白花ゆれる
汚染され摘むもならざる野のよもぎ草色の餅かおりなつかし
原発の事故に田植えの遅れしが故里(さと)は青田となりて波打つ
室内に退避の続くうらら日にうぐいすの初音遠くよりきく
放射能を避けて遠くへ移りしか夏休みの子等の声は絶えたり 5首 泰楽ハツヨ
▼文明を嘲笑いいるか原発は化物のような姿さらして
夏野菜ことしは作付あきらめる向日葵畑も又楽しかろう
食せぬとわかりてもなお土寄せすじゃが薯の花盛り哀れで 3首 高木征子
▼げんぱつとわが言ふときに汚れたる土地のはつかに震へたるなり 1首 高木佳子
▼故郷を失せし思ひにとらはるる店に並ばぬ福島の桃
道の辺に並べて植ゑし向日葵は吾が意叶へず背をむけて咲く 2首 高田優子
▼原発の思はぬ事故に排気ガス出ぬとふCMこつそりと消ゆ
東電のОBの友県外に避難し居ると三(み)月経て言ふ
「メルトダウンして居りました」坦々とただならぬ事故過去形にする
シーベルト・メルトダウンと恐ろしき用語を日々に聞きて馴れくる 4首 高橋成子
▼放射線はいづくを飛ぶや空気澄み中学校の入学式日和なり
娘の家は市内の放射線汚染地にて避難すると言ふ夏休み中 2首 高橋粛子
▼津波二日目水素爆発の原発よりことごとく散らす放射性物質
大方の県民が懸念せしが吾が郷に放射能散らす原子力発電
震災に原発事故見舞ふ電話全国各地より歌の友十三名 3首 高橋文男
▼謝りてすむ範囲にはあらざりき制御不能の福島原発
放射能汚染恐れて祈りたる 実りの秋も不穏が続く 2首 高橋正義
▼神の火とふ原子の力不測の事故に目には見えざる線量の恐怖
安全と安心安価といはれ来し原発事故の落差埋まらず
神の火を盗りし人間(ひと)への報ひならむ里を追はるる関りなき民
原発の事故の避難に放たれし牛ら汚染の道草を食む
どうみても悪夢にあらずこの現実(うつつ) 地震 津波と原発の事故 5首 高村照雄
▼原子炉の危機に息子の意に添って雪降る峠越後へと越す
馴れ住みし屋敷を後に原子炉の危機に立ち去る裡なる無念
放射線の危機におののく住民を知る由もなく空晴れ渡る
夢にさえ思わぬ危機に襲われて見知らぬ土地への侘びしき逃避 4首 田中チヨ
▼未曾有なる巨大地震は大津波原発事故へと被害の及ぶ
東電の原発事故に先見の明ある人ゐて避難決まれり
避難所に残して来たるわが歌は絆の冊子となりて届きぬ 3首 塚原希代子
▼ふるさとをいかりとともに避難する何もわりごとしてもねえのに
いつ戻れるその日の来るのも分からずに飯舘の子ら母校を離る
村人の避難の後に残されし里山の木木泣いているがに
心から笑えるその日は来るだろかあの大地震(なゐ)の日から百十二日
目に見えぬ放射線とう化け物といつまで続く果てなき戦(いくさ)
胸深く美味し空気を吸いたしと思えど線量まだ減らず
次回も、引き続いて『福島県短歌選集』の作品を読み続ける。
(つづく)
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