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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2012年12月29日11時14分掲載
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木田元著 「わたしの哲学入門」
哲学者・木田元氏が書いた「わたしの哲学入門」は学生時代にその手の勉強を素通りしてきた私のような輩にはうれしい一冊だ。カント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガーの考えがわかりやすく説かれているからだ。
私が大学受験をしていた頃、共通一次試験の対象科目として「倫理社会」という科目があった。略称’リンシャ’は世界史などに比べると、知識量が格段に少なくてもそこそこ点が稼げる科目として重宝がられていた。そこに出てくる思想・哲学も、哲学的な思索とは無縁の、誰がどんなことを言ったか、名前とキーワードを結ぶようなレベルのものだった。だから、リンシャは試験の点数こそ稼げても、教科としては無意味と言ってよかった。だからこそ、こうした入門書は、社会人になった後に、その穴埋めをするために役に立つ。
木田氏はハイデガーの専門家として特に著名だが、「わたしの哲学入門」の中で、ハイデガーとの距離について語っている。そこがとても興味深いし、木田元という人間をよく物語っているように思われる。
ハイデガーは「存在と時間」を主著とする。存在の概念を時間という視点から分析したハイデガーは西洋近代哲学の常識を揺さぶった。存在とはすでに作り終えられた何かが横たわっている状態ではなく、「生成」という、存在自体が現在作られつつあるような、つまり、存在概念自体に時間性を含むというとらえ方が古代ギリシアには存在した。世界には既存のゆるぎない存在=秩序があるのではなく、存在自体が生成の過程にあるとする存在概念の再提起である。これは西洋近代哲学の源流にあるプラトンやキリスト教などの存在概念と対立する見方である。
しかし、ハイデガーの思索は近代化に乗り遅れたドイツで政治的に利用されることになる。ナチスは英仏など古い欧州の勢力によって作られた世界秩序は崩れ、新しい力が形成されていくものと考えた。ニーチェの「力への意志」というキーワードともども、ハイデガーの思索もファシズムに利用されていくことになった。こうした流れの中で、ハイデガーはナチス党に加わり、フライブルク大学の総長に就任する。戦後、この事実はハイデガーにとって汚点となった。
本書の中で、木田氏は1972年にドイツでハイデガーに会うチャンスがあったが、あえて断ったと書いている。
「・・・ハイデガーに対してある種の拒否反応を起こしたことは、私にとってけっして悪いことではなかった。そうなってはじめてハイデガーにある距離をとり、多少醒めた眼でその思想に接することができるようになったからである。一般に、ハイデガーを頭から批判し、ナチスにコミットしたあんな哲学者の言うことなどと簡単に切り捨てる連中は、たいていハイデガーを読んでいない。多少なりと本気でハイデガーを読んでしまうと、彼のナチスへの加担は分かっていても、その思索の深さ烈しさに圧倒されてしまうものである。その揚句、その思想に呪縛されてしまう。近頃ではさすがにそうでもなくなったようだが、ひと頃日本のハイデガー研究者は、全部とは言わないまでも大半がハイデガーをほとんど神格化し、その言うことはなんでも有難がるというところがあった。・・・ハイデガーに対する私の拒否反応の一部は、こういった日本におけるハイデガー研究者に対する嫌悪感に転移されたものだったのかもしれない」
木田氏がハイデガーに距離を置いてその思索を静観することができたのは、本書でも回想されているが、木田氏が敗戦直後、テキ屋稼業に精を出し、闇市で食いつないだ経験にあるのではなかろうか。それは人間を単純に善悪で切れない世界である。 木田氏は若い頃、ドストエフスキーに魅了されていたという。ドストエフスキーの小説には一筋縄でいかない怪しく、かつ崇高な人間たちが次々と登場する。哲学に本格的にのめり込んでいったのはその後だった。そんなところに木田氏の哲学の足腰の強さを感じる。
■木田元著「わたしの哲学入門」(新書館)
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