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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年02月10日16時30分掲載
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文化
【核を詠う】(88)角川『短歌年鑑 平成25年版』所載の自選作品集から原発詠を読む(2) 山崎芳彦
前回に引き続いて角川『短歌年鑑』の自選作品集から原発にかかわる作品を読むが、前回の文中の「吉川宏志氏の『言葉と原発』について」の2行目にある引用文「『原発を使っているのに・・・』」の「原発」は「電気」の誤りですので、お詫びして訂正させていただきます。ご容赦ください。
この年鑑に収録された原発にかかわっての短歌作品にとどまらず、いま詠う人びとが、福島、東北はもとより、全国で作品を紡ぎ、全国的な短歌総合誌ばかりでなく多くの短歌会、結社の歌集に記録されていることは間違いないだろう。どのように詠うかは、原発、核放射能、原子力文明の社会、その他についてどのように自らの思いを凝らし、他者を思い、生き方、生活のかたちについて考えて、自らの感性と思いをこめた短歌作品としての表現を創造されているに違いない。
筆者は、とくに原発事故のような現実、原発の社会的な位置づけを詠う時、しばしば、「類歌」と評して斥ける歌人の言葉を聞くが、原爆短歌を読み続けたときも、同様な批評がかつてあったことを思い、改めて詠うことについて考えさせられる。このような、多くの人に同じような状況をもたらすような事態が起こったとき、その中で生まれた作品に、結果的に表現や言葉に類似したものがあっても、少しもおかしくないと考える。もちろん、作品としての完成度や、表現の妥当性などについて批評しあい、より短歌作品としての向上を相互に目指すことは必要だろうが、「よい歌とよくない歌しかない」と、切り捨てるようなことがあってはなるまいと考える。
そのことと、3・11以後になって、かなり以前から原発に関わる貴重な作品を作り出していた歌人の作品が改めて見直されている。そのことは大切だが、短歌界としては、原発の立地地域の歌人の作品・歌集や、原発問題に関心を持ち作品化し歌集を刊行したり、新聞歌壇などに作品を発表していても、これは筆者の不勉強のためでもあるが、ほとんど大きな話題にならないでいたことについても、改めて考えてみる必要があるのではないかという思いがする。これは、短歌の世界だけのことではなく、さまざまな分野でのことでもあろう。
3・11以後、少なくない歌人が、原発に無関心ではなかったにせよ、何もしてこなかったことへの自省を明らかにしているが、作品として新聞歌壇に積極的に投稿し選ばれた歌人、歌集を出し続け原発問題を詠った作品を数多く収録していた歌人がいたにもかかわらず、その作品を短歌界のなかで注目できなかったことについて、すぐれた多くの原爆短歌の果実を持つ短歌文学だけに、検討がなされなければならないのではないかと考える。
まだまだ、掘り起こされるべき原発にかかわる作品が陽の目を見ていないのではないかと思うとともに、3・11以後短歌界に生まれている議論がさらに深められ、今後に生かしていくことを、課題として考えていきたい。 その意味でも、角川の『短歌年鑑』が昨年に引き続いて原発詠にかかわる特集を組んでいることは、総合短歌誌としての意義ある取り組みと言うべきであろう。
その作品を前回に続いて読んでいきたい。
▼水力や火力発電安全ですと力説をする人はをらぬを 1首 中根 誠
▼放射農米安全だから食へといふ ああヒットラーも蒼ざめてゐる
フクシマ県チェルノブイリ市チェルノブイリ字チェルノブイリに彼岸花咲く 2首 前川 博
▼がんばつぺさ買って欲しーい白桃の売れずのまんま会津朝市
ぶつちやけて経済とるか安全かどうするおまへ 両方だつぺ 2首 松谷東一郎
▼この雨に毒はないかと母に問ふ小学生よ濡れずに歩け 1首 三浦槙子
▼原発のコスト比較に水、油、風、光ありて生命(いのち)をあげず
うづくまる牛のむくろを撮らしめて人はそののち言葉を噤む
人と鳥の消えし町なか牛と犬をりて人間に近づくとせず
想定は過去の事実を範(のり)として約(つま)しき科学に護られてゐる
人間の闇をひととき伝へきて疲れ果てたる日本語を読む 5首 宮原 勉
▼ウクライナの露西亜ひまはり埋められし亡骸より生ひ項傾(うなかぶ)し咲く
セシウムを吸ひ上げえぬも咎(とが)ならず面あげ咲けよ金のひぐるま 2首 村岡嘉子
▼原発の惨を知るまじ原爆に首飛ばされて立てるマリアは 1首 村山美恵子
▼生活の望み立たずに里を去る被災のひまわり咲きたる日々を
地図上に“原子力村”は見当らずストロンチウムのごとく浮遊せる
原発を廃棄せよと官邸や議事堂かこむ声ある意志が 3首 山本 司
▼太陽光発電パネルならび立ち山上の宿の道をともせり 1首 湯沢千代
▼雪が降る放射能が降るこの国に 雪やこんこん放射能こんこん
魚(うお)よ魚よわれは喰みおり海の幸を放射能もろともわが体内に 2首 吉見道子
▼音もなく見えないものが降ってくる喧嘩している場合ではない 1首 江副壬曳子
▼人間が始めたるゆえ人間が終らせるべきこのひとつごと 1首 大下一真
▼実篤の遺志を継ぎ来て新しき村に立ち並ぶ太陽光パネル
太陽光パネルこよなく柔軟にグレーに紺に黒に照りをり
梅の花をはり盛りの枝垂れ桜ひとつ立つ太陽光パネルの前に
よいことばかりではないけれど太陽の光を選ぶこの人らは 4首 大山敏夫
▼白梅に降る雨寒しベラルーシに新たな原発建つと聞きたり
放射能の落とし方説く料理本並びて午後の丸善しづか
たんぽぽの綿毛につかまり次々に母と子どもは西へ飛び立つ 3首 栗木京子
▼ますぐなる竹山広の誕生日四年に一度といまさらに知る 1首 今野寿美
▼原発に蒙昧なるまま過ぎきたり六月八日は入梅となる 1首 斎藤典子
▼咲ききって散らぬ山梔子(くちなし)放射能セシウムをまだ知らぬ山梔子 1首 阪森郁代
▼放射線ゆゑに植樹は見合はされ滝桜の苗行きどころなし
神饌のかかる品じな 被爆ありてなほ豊かなる国つちの産 2首 田中成彦
▼放射能撒き散らしていたのかも鉄腕アトム原子の力
主人公は死なないものと油断して詠んでおったらあっさりと死ぬ
結局はどうしていいか解らない誠心誠意と言ってはおいたが 3首 竹村公作
▼セシウムの霧雨浴びてつややかな木の芽を食めり熊もわれらも
汚染されし土踏みしめて歩みなば蟻いちれつにいのちを運ぶ
自死なせる農夫の臓腑まきちらしFUKUSHIMAの鳥未明を飛べり
森わたる風やわらかし被曝者の肌にあまたの蝶はとまりき 4首 立花正人
▼廃炉まで四十年とふその日迄いくらなんでも生きてはをらぬ 1首 塚本 諄
▼わが勤務する大学も去年より放射線量測定をする 1首 戸田佳子
▼白菜を採り入れて人の見えぬ畑被曝の除染思ふなにゆゑ 1首 中村 達
▼人間が人間の都合でなしたりしことのついでの原子爆弾 1首 馬場昭徳
▼世論とう大風避けて睦み合う原爆、原発狢の穴で
この次は瑞穂の国原滅ぶぞと目覚時計ががなり続ける 2首 松本高直
▼洗いすぎてほろほろのレタス取り分けるスローデスという無言の時間
誰だっていつかは死ぬという声がすべてを殺してしまうのだろう
3・11以前の新聞に包まれし菠薐草を胡麻和えにする 3首 飯沼鮎子
▼原発が全停止する日のついに来てテクノロジーの命日となる
恋知らぬ特攻兵は放射能越える恐怖を浴び続けたり
原発が死に原爆が生き残る滅ぶべき種の人間ならん 3首 岩井謙一
▼一年後の十四時四十六分の静寂のなか鐘の音ひびく
遠目には警察官がデモをしてゐるやうに見ゆその数多く 2首 大崎瀬都
▼微差なれどおもむき違(ちが)ふ「に」の位置を言ひ合ってゐた原子炉の中で
炉に満ちて澄んでゐるみづ 水仙の根はどのやうに美しいのか 2首 河野美砂子
▼かたむける壺に流るる民としてフクシマを見るわれのミナマタ 1首 桜川冴子
▼島に来てひと月たてば男の子アカショウビンの声聞きわける
醤油さし買おうと思うこの部屋にもう少し長く住む予感して 2首 俵 万智
▼えびす顔甘き言葉をささやき去りぬ 貧しかる土地に突然火をともす魔女
くらげなすただよふものは見えぬもの げに恐ろしき。散りぼふものは
暫定的早口言葉瓦斯爆発巴士瓦斯爆発核爆発爆音(ざんていてきはやくちことばガスばくはつパスガスばくはつかくばくはつボン)
魔女ひとり永遠(とは)に葬(はぶ)らむ福島の荒地に墓標あまた並べて
かの日よりひたぶるに待つ半減期。「六根清浄」魂(たま)振りたまへ 5首 棗 隆
▼海光に静まる原発まぎれなく子らへわれらのおろかな遺産
四十年東電に勤め東電のこと言わず父は柘植剪定す 2首 古谷 円
▼われと子のむかしの春の小川なり線量高きコンクリの川 1首 米川千嘉子
▼いくたびも「影響なし」と聞く春の命に関はる嘘はいけない
虹ふたへにかかるこの世を生きながらつねに分断を強ひられている
樹皮削られ水かけられて除染とふ苦しみののちのりんご、国光 3首 大口玲子
▼フクシマと幾度も呼びかけらるる歌流れてわれは浅く戸惑う
ほんとうの空と呼ばるる静けさに放射能測定器買われつ 2首 駒田晶子
▼天人唐草も人も咲いたものが勝ち福島の空に我が掌をひらく
福島の土の湿りに膝つけば天人唐草花こぼれたり
我の立つ福島の土は黒々と湿りて桃の花咲かせたり 3首 斎藤芳生
「ふるさとを除染するため」食べるため原発へ向かふひとバスに消ゆ 1首 松本典子
▼横波に揺らるる船に見ていたり肌色卵のような原発
かたむきて航路を変える船にいて球形の原発たちまちに消ゆ
見るほかに何もできねば見たるのみ再稼働を待つ大飯原発
反対を続けいる人のテントにて生ぬるき西瓜を食べて種吐く
明日はまた仕事があるので帰ります 電気に満ちた街に帰ります 5首 吉川宏志
角川『短歌年鑑 平成25年版』に収録された「自選作品集」の中から、原発にかかわって詠われた(と筆者が読んだ)作品を記録してきたが、これで終りになる。しかし、年鑑刊行後も、多くの原発詠がさまざまに詠われているし、歌人の世界での原発にかかわる活発な議論が行なわれている。 短歌人が原発、ひいては核の問題をどのように詠い継いでいくか、かつて原爆短歌が厖大に詠われたように、過去、現在、未来とかかわって生きる人間、歌人として、改めて、原子力、核という人類的な問題と向かい合う短歌表現のありかた、原子力をテーマにした作品をどのような姿勢で生み出して行けるかは、歌人、短歌結社や集団、短歌ジャーナリズムにとって大きな課題だろう。時代や社会と文学の背負う逃れることができない役割は、ここでまた問われていると思う。
次回からも、原発に関わる作品を読み続けたい。
(つづく)
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