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2013年04月04日00時20分掲載
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TPP/脱グローバリゼーション
米国最大の労働団体がTPPに懸念を表明 「内外の労働者同士の対立と底辺への競争を助長」
米国内にもTPP(環太平洋経済連携協定)には根強い反対勢力が存在する。自動車業界と労働組合だ。その労働組合のナショナルセンターで米国最大の米国労働総同盟産別会議(AFL-CIO)が、2月22日の日米首脳会談の直後にTPPに何する執行委員会見解を発表した。「働く仲間たちは新しい貿易モデルを必要としている」と題されたこの見解は、NAFTA(北米自由貿易協定)の経験を踏まえながら、韓米FTA(韓米自由貿易協定)やTPPは国内でも国際的にも労働者どうしの対立を生み、「労働者の諸権利、賃金、年金及び労働条件、そして資源の保護、食の安全及び消費者保護の面で底辺への競争(最低水準を導くような競争)が助長さいる」と強い懸念を示している。AFL-CIOはオバマ政権の最大の支援団体。市民団体「TPPに反対する人々の運動」翻訳グループの翻訳で、同見解を紹介する。(大野和興)
環太平洋経済連携協定:働く仲間たちは新しい貿易モデルを必要としている 2013年2月27日
現在交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)は、21世紀の貿易政策を律する新基準となる可能性を秘めている。しかし、その交渉についてこれまで公表されている内容を見ると、その期待に応えられないのではないかとの大きな懸念を抱かざるを得ない。アメリカの働く仲間たちに必要なのは方向転換だ。すなわち、高賃金労働の創出、団体交渉の促進、製造業に対する戦略の実行、我々の生活基盤及び人材に対する再投資などに焦点を当てた王道の戦略である。
アメリカと世界における平等な経済成長を推進するには、貿易・経済政策に必要な改革を国際的に進めつつ、労働基本権の拡大と強化をもたらす手法が必要だ。こうした改革は、需要主導型の成長を通して所得格差を是正するために、全ての人々の所得と生活水準を向上させる世界的ニューディールの一環として、現行の政策と一線を画さなければならない。
NAFTA(北米自由貿易協定)に始まり、韓国及びコロンビアとの協定へと引き継がれているアメリカの貿易モデルでは、雇用者に労働者グループ同士の対立を促進させ(国内でも国際間でも同様である)、こうした目標がないがしろになっている。このモデルの下、我が国の貿易赤字は著しく増加しているのだ。NAFTAが発効した前年の1993年、750億ドルだった貿易赤字は今日、5,400億ドルへ増加(名目)した。NAFTAにならったこのモデルによって、労働者の諸権利、賃金、年金及び労働条件、そして資源の保護、食の安全及び消費者保護の面で底辺への競争(最低水準を導くような競争)が助長されている。こうした政策は、第一に中産階級の台頭を促す公共政策を脅かす。このような底辺への競争を促進する政策を改めさせることは、労働者の団結、団体交渉の自由をあらゆるところで推進させる我々の活動と同じくらい重要である。
AFL-CIOは終始、NAFTAにならった貿易モデルを批判してきた。それには、投資、労働基準、政府調達、サービス、金融サービス、そして原産地規則をはじめとする商業上の重要規則が含まれている。 貿易政策が前に進むためには、これら各分野での転換が必要である。つまり我々は、富を生み出す労働を担う人々こそが貿易による利益を確実に享受できる全く新しいモデルを必要としているのである。
AFL-CIOは、アメリカとその他11カ国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムそしておそらく日本)を包摂するTPP が、NAFTA型貿易モデルの過ちを繰り返す重大な危険があると考えている。交渉は継続中だが、アメリカが突きつける提案の大部分が、現行の貿易モデルをそのままなぞっているように見えるのだ。このことは、我が国経済を強化し、所得格差を是正し、持続可能な成長を推進する機会を失する悲劇的な結果を招くことになるだろう。アメリカにはこれ以上、我が国の産業基盤を空洞化させ、膨大な貿易赤字を増加させるような貿易協定を結ぶ余地などないのである。AFL-CIOは次の重要分野について、具体的な変更をTPPに提唱している。すなわち、労働、国有企業、原産地規則、政府調達、通貨、投資(国内へのFDI〔海外からの直接投資〕に対するより包括的な審査を含む)、互恵的市場参入、サービス、金融サービス、環境問題、食品の安全性及びその他公共利益に関する規制、そして医薬品の入手といった分野である。しかしながら、TPPが現行の貿易モデルと明確に決別しない限り、労働者の支持を得ることはできないだろう。
残念ながら、アメリカを再び便宜置籍国として利用している世界的企業は、我々の国益を通商交渉の場において決定することを目論んでいるようだ。そのような企業は、労働、環境及び社会的費用の削減により海外投資の呼び込みを図ろうとする国々を互いに競わせ、企業利益を拡大させようとしている。これはアメリカとその市民の経済的利益とは根本的に合致しておらず、多くの場合、自国での生活水準向上を目指す貿易相手国の利益とも合致していない。
アメリカの「自由貿易」協定の成立において、グロ−バル企業は圧倒的に声を発しており、規制緩和、民営化、企業への税その他の優遇措置を推進し、労働者の交渉力弱体化、そして社会的セーフティーネットの縮小化を導いている。結果は明らかだ。つまり、貿易赤字、雇用の喪失、不平等の拡大、賃金の切り下げ、そして民主主義的統治の弱体化である。
アメリカが貿易政策で、1%の最富裕層に対して構造的な偏りを見せている最も重要な例に、投資家対国家間紛争解決(ISDS)制度がある。これは公表済みの報告書でTPPに盛り込むよう提案されていることが明らかになっている。現行の貿易モデルでの投資家対国家間に関する内容とは、外国所有の一企業が、民主主義的に選ばれた政府の選択した、労働、飲料水または食品安全への規制、その他の規制や司法的決定に対して、自国の裁判所を迂回して、国際的な仲裁機関において異議を唱えることができるものだ。同じような権利が、労働者、市民、社会的な市民グループまたは国家及び地方政府に適用されることはない。これは実質的に二重の法律体系を作り出すものである。生産物や雇用を海外へ流失させる多国籍企業体は、公共利益のための正当な施策を妨害するために、これら諸権利を利用することができるのだ。これでは、我々の国内での雇用が縮小する一方で、海外の労働者仲間たちにも損失を与える結果となる。
国内的にはこのような投資条項が、我々自身の公共利益に基づく正当な諸規制に対して、異議を唱える目的で利用されうるし、また利用されてもきた。
例えば、アメリカの廃棄物処理企業であるメタルクラッド社は、NAFTAのISDS条項の下で、メキシコ政府に対する仲裁手続きを行った。現場では不安定な土壌により地域の水供給が汚染されうるという懸念が生じているにもかかわらず、同社の主張は、サン・ルイス・ポトシでの危険な廃棄物処理施設の開設及び操業に関して、メキシコ政府が許可を出さなかったのは不当だというものである。審判員は、NAFTAの下で保証されている「公正で適切な扱い」を受けるメタルクラッド社の権利をメキシコ政府が侵害したとした。カナダでの法廷によって賠償金額の一部が修正されたのちに、メキシコ政府はメタルクラッド社に1,560万ドルを支払うという結末となった。
もちろんこの政策の推進者たちは、NAFTAにならったTPPの貿易モデルが、良い仕事や世界経済におけるアメリカの戦略的地位の改善をもたらすと公約をしている。NAFTA及び中国の世界貿易機関(WTO)参加の際に用いられたものと同じ公約だ。しかし結局、こうした公約は偽りだった。NAFTA発効以来、対メキシコ貿易赤字の拡大により、アメリカで正味70万人近くが失業するという代償を払わなければならなかった。中国のWTO加盟はさらに悲劇的で、アメリカ人労働者の270万人が失職するという結果となった。製造業だけでそのうちの210万人に達した。
最後に我々は、TPPへの追加国の受け入れと新規参加国受け入れの手順についても重大な懸念を抱いている。
我々は、日本のTPP交渉参加のための基本作業に関する最近の発表内容を不安視している。我々は日本の参加には反対である。日本の参加によって中産階級の良質な仕事が大量に脅かされる怖れがあるからだ。日本はしっかりした労働組合のある高賃金の国ではあるが、自動車市場は世界で最も閉鎖的な部類に属する。アメリカの製品やサービスは、USTR(連邦通商代表部)が日本の過去の為替操作に対する追及を含む非関税障壁の撤廃に向けたまったく新しい方策を適用しない限り、日本市場への有効な参入を果たしえないだろう。日本のTPP加盟に対する我々の懸念を払拭するには、二国間の協議が最適だといえるだろう。
また、我々は他のいくつかのTPP加盟国、およびその可能性のある国々における労働と人権の実態も懸念している。TPPは「全ての参加希望国」の加入を受け入れ、労働権と人権の実態については不問に付すような、無条件加入の協定であってはならない。民主主義条項及び、各加盟国が「全ての」(出稼ぎ労働者を含む)労働者に対して労働基本権(ILOの基本条約及び法体系に明示されているような)を適用するとの公約は必須である。TPPは、この協定の下で貿易利益を供与する「前に」、まず民主主義及び基本的な労働権に関す最低基準を要求する必要がある。さもなくば、アメリカとコロンビアのFTA(自由貿易協定)の下で現在広がっているのと同じような状況に行き着いてしまうだろう。労働者たちの多くが団結、組織化及び団体交渉の自由を行使できない状態に置かれていても、労働権を侵害している国の「何らかの進展」が「満足できる程度」に達したとして認定されてしまう可能性がある。
我々が表明しているこうした懸念を解決すべく、オバマ政権が透明性と公開性を高めて真摯に我々と取り組んでいることを評価する。透明性の拡大は重要だ。それは、TPPというものが、新しくかつ高度な基準を設け、人間中心の貿易協定の枠組みをつくるために、貿易相手諸国と協調する機会を象徴するものであるからである。アメリカ国民、その他のTPP加盟国の市民、そしてまさに世界中の人々は、公平な成長を推進し、人々の健康と安全を守り、持続可能な発展を促進する貿易政策を求めている。世界的ニューディールの一環として、共同の繁栄をもたらすこの好機を活用しようではないか。我々は、賃金、公益及び労働権利を脅かし、良い仕事の海外流失を促進して企業利益の拡大を安易に進めるような貿易協定をこれ以上必要としていない。我々はより良い方向を目指さなければならない。 (翻訳:池上 明 監修:廣内かおり)
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