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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年04月10日16時40分掲載
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文化
【核を詠う】(99)波汐國芳歌集『姥貝の歌』の原発詠を読む(2)「花水木 花明かり道たった今擦れ違いしは放射能なり」 山崎芳彦
福島原発の事故は収束どころか、なおはかり知れない危険な状態が続いている。原発立地周辺の町の避難区域の「緩和」措置、町の復興などを政府は言うが、原発のトラブルが続発している現状、依然として変らない東電や政府、関係者の隠蔽体質のなかで、実際にどのような事態が原発内部で起こっているのか。電源機能維持にかかわる事故による燃料プールの冷却機能の停止、汚染水を際限なく溜め続けながら地下貯水槽からの汚染水流出の続発と、その汚染水がどのように拡散され地下に浸透し影響するのか、さらに海への流出の危険性など、最近報じられているだけでもきわめて深刻な状況だ。
さらに除染作業の効果そのものへの疑問とともに、この作業を巡る醜悪で理不尽な利権構造による現場作業者への驚くべき搾取と、被曝危険に晒す実態。さらに東電社員をも含む原発労働者の使い捨てによる事故対策の劣悪化、廃炉作業計画のずさんさと作業環境の質量ともの貧困さ・・・。
これらのことは、福島原発事故現場だけの問題であるはずはなく、原発事故による被災を受け、生活の基盤を破壊され、職も柔もうしない不安定な生活を強いられている多くの人々の現実。短期・中長期的に取り組まれるべき健康管理体制が確立されないまま、放射能被害の根拠のない軽視、低線量被曝の無害論の宣伝が意図的に広げられ、避難者に対する自己責任論も含む対応策の貧弱さなどとつながっているのである。原発事故の重大で深刻な本質を覆い隠し、さらに忘却への道に引きこもうとする動きが台頭して来ているといわざるをえない。 それは、結局のところ、安倍政権の原発依存エネルギー政策、脱原発は国を滅ぼすと言わんばかりの姿勢を背景に、「アベノミクス祭りの経済力の成長・強化戦略を、日々の生活に苦しんでいる多くの人々とは無縁の施策で推進する一翼を原発に担わせようとすることであろう。原発再稼働に向かって動いている。
「日本の原子力開発は、原子力複合体によって、反対派、慎重派を徹底的に排除して、進められてきた。その最終的な帰結が福島第一原発事故である。原子力政策を推進してきた体制が完全に解体されなければ、原子力複合体は復活してくるであろう。福島第一原発事故のような事故がおこったあとも従来通りの原子力政策が継続されるようなことになれば、日本は二度と民主的なエネルギー政策をつくりだすことができない。 脱原発は、政治的スローガンでもイデオロギーでもなく、現実に実行可能な政策である。脱原発に進むことは、保守や革新などの政治的立場、思想信条、社会的立場の別を超え、多くの国民が一致できる政策である。 将来世代に、放射性廃棄物と事故のリスクという巨大な負の遺産を残すのか。再生可能エネルギーを中心とするエネルギー体系を残すのか。」(大島堅一著『原発のコスト―エネルギー転換への視点』、岩波新書)
この著書で大島氏は、脱原発を進めることは現実に実行可能であり、そのためには「私たち自らの『責任ある関与』」、国民が強い政治的意思を形成しなければ、福島第一原発事故の教訓を活かすことができないことを強調しているが、やはりそうなのだろう。原発に依存するエネルギー政策は、人間としての倫理に根本から反するものであり、戦争を是とすることにつながる「強い国」志向の思想、政策も同様である。安倍自民党政権とその翼賛政党の思うがままにさせてはならない。
いま読んでいる波汐さんの作品に
▼原発に一枚噛んで古井戸の汲んでも汲んでも尽きない悔いだ
という一首がある。
波汐さんは電力企業の社員として、用地業務に携わっていた経験があると言う。そして、原発問題にかかわる歌を詠い、その危険性を警告し、いま原発事故によってもたらされている悲劇的な現実を短歌表現し続けている。だから、波汐さんの作品が読む人々に訴えかける内容と、それにふさわしい表現が生れているのだと思う。
波汐さんの原発にかかわる作品のなかに、その奥底に悲しみと分ち難くつながっている怒りをひしひしを感受させる歌がある。人間の倫理性とは、そのようにして表現される、あるいは読む者に感受させる作品を成立させてる。 波汐さんの作品を、前回に続いて読もう。
◇死の街◇
放射能汚染の地には住めぬとぞ古里出ずる人ら連なる
震災のあとの古里どこまでも瓦礫連なり人の影なし
県外へ逃るる人のつぎつぎに原発事故後を痩するふるさと
被曝地の古里を去る人ら見ゆ 闇に光りてわが祖(おや)も見ゆ
避難者らが泳ぐがに峠を越えしとう稲妻が裂くその細道を
雨の夜を雨の脈搏極まるに文明が亡びへ向かうも聴かん
死の街を駆くる駝鳥よ原発の事故の収束見えてはこぬか 原発の町「大熊」無人の街を駆くる駝鳥を見た。その一歩一歩は終末光景を手繰っているようだった。
花水木(はなみずき) 花明かり道たった今擦れ違いしは放射能なり
放射能を食(は)むとう向日葵咲き出(い)でて人の住まざる村の奥見ゆ
◇福島脱出◇
足早に山越えをする避難者の列切れ切れに走る閃光
正二画の「信仰の悲しみ」に連なりて原発の町を出でし人はや 関根正二は福島出身の夭折の画家
放射能流るる方へ山へ山へ入りしを向こう見ずの避難や
落暉(らっき)背に被曝のひとら逃るるを遠き落人(おちうど)に重なりて見ゆ
風吹けば風に押されて杉木立 原発のある町を出でんか
峠の道越えんとしつつ「原発が燃えているよ」の声に振り向く
原発に追わるる如く知り人ら立ち退(の)きたれば古里うつろ
放射能汚染の福島脱けたきを脱けても脱けても祖霊ら付き来
福島を駆け抜けんいざ 累々と遠田(とおだ)の野火も従えながら
◇鬼やらい◇
「禁断の木の実」原発に重ねつつ人類の果てを思う夕べや
原発事故に原発禁止を言う人ら百年昔へ戻ってみんか
原発の炉心溶融 たったいま悪霊がそこで嗤ったような
◇農の死に息◇
咽喉(のみど)見せ天向く柘榴 被曝地にムンク在(おわ)さば如何に描(えが)くや
被曝して口あき柘榴天向くをムンクの叫びにふと重なれり
「放射能運んでくるな」又しても産地福島が責められている
福島産野菜も果実も売れざるを農の死に息 友の死に息
福島は掛け替え無きを名産の梨しゃりしゃりと放射能食(は)む
放射能を好む菜ありてこの村に菜のはなの笑みだけが残った 雪国の菜は乙な味なのだが、被曝ゆえ食べられず、菜は笑みさえ浮かべているようであった。
夕づきて風が揺するを菜の花の煌(きら)とセシウムの笑みこぼれたり
夕暮れを盛(さか)る菜の花奢るがにセシウム佇(た)てり 魔王が佇てり
セシウムもまじりいるとう畔の露 風に遊べば蛍のような
原発の福島を言い福島産西瓜食(は)みつつ口ゆがみたり
ピカソ絵の「西瓜食べる人」さくさくとセシウムまでも食べ尽くさんか
◇被災徒然◇
(一) 地震・津波・原発事故に防護服の白閃かせ死者捜すとぞ
原発の事故の重たさ沈みゆく陸あり陸を呑みて起(た)つ海
原発の浜沈みつつ古里の海青々と目よりも高し
放射能高きが検出されしより蛇口の水にも波立つわれぞ
放射能すぐ其処にまで来ているをマスク一つに待つほかなきや
放射能撒き散らすなと花火まで疎(うと)まれている産地福島
放射能汚染の庭に咲く花の薔薇のうしろの見えない笑い
蕗の薹の天婦羅戴く セシウムのことは言わずに戴きて食う
放射能の汚染知りてや食べ頃の枇杷遠巻きに囁く禽(とり)ら
(二) 放射能来るなら来いと草原に草薙(くさなぎ)の男(お)のタケルとなるも
脛(すね)見せて草を抜く妻セシウムの登らば登れとひらきなおれり
セシウムの鬼面ほぐれよ夕顔の花溢るるを 笑みこぼるるを
原発を容(い)れし福島 靄立ちて見通せざりきその事故をさえ
セシウム値高きこの土地セシウムに狭めらるるか花に憩うを
線量値測る日課の起きがけを放射能がそばに眠っています
(三) 原発の被曝者なるを法師蝉つくづくと我も生きたかりけり
今年聴くつくづく法師突くほどにひらいてみせよ被曝のこころ
セシウムも吸い尽くししか咲き盛る山茶花のはな冴ゆるくれない
雪ふれば雪降る音のしんしんと雪に包まれて降る放射能
想定外などとは言うな雪明かり透きても見えしメルトダウンぞ
職責に推(お)しし原発成(な)らざりき成らば放射能撒き散らししを
社是なりし原発成らず無きものは津波ざぶりと攫いもゆかず
ああ福島息詰まりそう ふくしまが放射能ゆえいよいよ希薄
球根の芽が出(い)ず 嘴(はし)のふとぶとと放射能など摘んで下され
原発に一枚噛んで古井戸の汲んでも汲んでも尽きない悔いだ
電力のОBなれば反原発の歌を詠みつつ罵られしか
反原発なぜ歌うかと問う友の口が火を噴く事故前なりき
スカイツリーに上れば遠(とお)も見ゆるとう 被曝福島の窪み見ゆるや
次回も引きつづいて『姥貝の歌』の作品を詠み続ける。 (つづく)
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