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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年05月01日12時30分掲載
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文化
【核を詠う】(103)歌集『平成大震災』(「歩道」同人アンソロジー、秋葉四郎編)から原発詠を読む(1)「放射能の風評被害は若きらの結婚にまで差し障るなり」 山崎芳彦
全国に1150名の出詠会員を持つ短歌結社「歩道」(月刊歌誌『歩道』を発行、編集者・秋葉四郎)が、「歩道」同人アンソロジーとして刊行した歌集『平成大震災』(秋葉四郎編、平成25年3月、いりの舎刊)は、ひとつの短歌結社が東日本大震災・福島第一原発事故をテーマにして全国の同人が詠った作品を集成した歌集として大きな意義を持つ、短歌史に残る事業だと評価したい。
月刊結社歌誌歌誌『歩道』には震災・原発事故の生々しい体験が短歌作品として平成23年5月号ごろから寄せられるようになり、秋葉四郎氏は、「毎号痛切な詠嘆が編集人たる私の心に、音を立てて響いた。詠うこと、記録することが同人たちを支えると信じてこれを大切にし、ささやかながら、『詠い残す・書き残す』という特集も企画し、雑誌上に続けた。・・・この国難、非常の事態に短歌結社誌はどうするのがよいのか、考え続け、被災地、被災者を見守り、連帯の思いを強く持ち続けた。そうしたほぼ一年くらいの間の結社誌『歩道』に発表になった同人の作品及び体験記がこのアンソロジーの内容である。別に自由応募の機会を作り、応募作品からも厳選して併せ載せてある。」(秋葉氏による「あとがき」より)という。
秋葉氏は、同歌集を出版したいりの舎発行の「うた新聞」(玉城入野編集発行人)4月号の紙上の特別インタビュー「歌集『平成大震災』を語る」で、歌集出版、選歌・編集への思いや、歌集の特徴などについて語っている。
未曾有ともいえる大震災に加え、原発事故という人災に対して一国民として可能な限りの支援を惜しむことは無いとしつつ、 「その上で、自分が歌人の一人であり、結社誌編集者の一人であることをしみじみと考えたのです。私の結社『歩道』は、被災地に当る会員が少なくなく、月々切実な歌を読むにつけて、今私が全力を注いでいる短歌で、この災難に酬いることは何だろうか、考え・・・月々私が心を痛めつつ読んでいる作品を残し、何とか広く伝える道はないか。とにかく一結社誌だけのものにしておいてはならない、とおもった」 「とにかくこれらの歌を一冊にしなければならないという使命感のようなものに動かされて、自然に(選歌、編集)取り組み始めたのですが・・・切実でたいへんな苦しみを会員は体験していました。涙がしばらく止まらず・・・流涕選歌、流涕編集でしたね。・・・このしごとは自分に課せられた歌人としての宿命とまで思うようになったのです。」
(この歌集の特徴について)「先ず被災地の会員が多く、生々しい被災の声を伝えていることです。厳しい地震被害も、原発事故の近隣に住みいたたまれない不安も、短歌だから十分に、留められていると思います。第二には、全国どこにいてもわがこととして、この被災を見守り、連帯の思いを抱いていることが作品にはっきりと出ているということです。これは抒情詩短歌だから伝えあえることですね。第三は、新聞やテレビのニュースにならない切実な事実が多く詠い残されていることです。」
(なぜ短歌なのか)「さまざまな手段で記録され、後世の人々に伝えて行かれましょう。しかし、経験した人々の内に湧いた心情、歎き、驚き、慟哭、助け合った優しさ等々の人々の心の内は、抒情詩短歌でしか伝えられませんし、残せません。私の編集したこの一冊はそのごくごく一部に過ぎませんが、被災した当人、その肉親、取り巻く人々、遠く近く見守った人々、それぞれの立場で感情が激しく揺れ動いたのです。その心の揺らぎが短歌の内容になっているのです。そうした心情を残し、伝えるのに日本の伝統抒情詩短歌はは優れているのです。」
(被災地域に暮らす読者へのメッセージ)「全国の人たちが見守り、寄り添い、支援しようとしていることをこのような一首一首の短歌作品からご理解をいただいて少しでも元気を出してもらえたらありがたい。・・・現実はさらに更に厳しいでしょうが、このささやかな歌集からも人の真情を感じていただけるのではないでしょうか。われわれは決して一人ではありません。大きな同心円の中で、長い歴史を歩んでおります。皆さんの復興あってこそわれわれの日常も帰ってまいります。是非この歌集の底を流れているハートを感じ取っていただき、勇気を更に出していただいて、一層の御活躍を願って止みません。」
秋葉氏の、このような歌人としての思いを読みながら、筆者はそのようにして編まれた歌集の中から、原発にかかわる作品に限って抄出することに、今回も心苦しい思いを持たずにはいられない。東日本大震災の被災の苦難の全体を思えば、その実情を伝えるということからは、原発事故の被災のみを記録しつつ、是非、歌集『平成大震災』、更にこれまでこの連載で取り上げてきた歌集の、他の作品にも関心を寄せていただきたいと願うしかない。
同歌集は、全国各地の「歩道」同人の作品を、地域ごとにまとめる編集になっている。また、「書き残す」として手記が10篇収載されている。 多くの作品が収録されていて、原発詠だけでも相当の作品数になるため何回かの連載になる。
◇岩手編◇ ▼深刻なる原発事故の映像に避難してゐる友を思へり 浅沼まつ
▼眼に見えぬセシウムなどに怯えつつ稲の花咲く畦道を行く 阿部スミ子
▼ラジオより放射能汚染の声きこえ出穂はじまる稲田かがやく 板宮清治
▼放射線被曝のことを人言へど出でて草刈る食はねばならず
事もなくセシウムの検査済みし今朝(けさ)空にひびきて稲刈る音す 2首 伊藤淑子
▼福島の原発不安をいふ娘被災地支援のボランティアせり 小川文子
▼津波にて家を流され放射能逃れし人ら町内に住む 北舘紀佐
▼洩れいでし放射能を含むらん冬芽うながす細き雨降る 五嶋恵子
▼戦争を知らず育ちて大震災に店に物無く放射能恐る 斉藤玲子
▼原発を恐るる弟わが街に引越して来て夫会ひに行く 佐川知子
▼目途たたぬセシウム除染を引き合ひに除雪の自助を若きらに説く 佐藤壽朗
▼原発の事故の白煙昇りゐてその風下にわれは住みをり 佐藤拡子
▼原発の影いづくまで及ばんか浜菊の花咲くべくなりぬ 島崎千鶴子
▼牛舎より飢ゑて逃げたる牛四頭放射能浴び海辺さまよふ 下又治代
▼ウラニウムストロンチウムセシウムなど片仮名多き災害思ふ 新村 翠
▼終息のぼつかなきにふるさとの原発事故を思ふたびたび
今日もまた原発事故の記事を読み思ふ福島父はははなし 2首 高本輝江
▼セシウムの風評によりわが牛の売り値は元値以下になりたり
震災より下落のつづく牛の値の半年たてどとどまることなし 2首 千田マス子
▼犬を連れ戯れ遊ぶ子ら見つつ孫の住む原発事故の地思ふ 冨山才子
▼われの世に日本沈没あり得るか原子力発電事故の展がる 米倉よりえ
◇宮城編◇ ▼放射能恐るる友の依頼にて秋保温泉宿をたしかむ 岩本旬二
▼地震津波原発台風と日本列島春から秋までいたぶられゐる 近江あやめ
▼低温の続くこの日に稲作のセシウム調べる知らせのありぬ 佐藤てる子
▼津波より逃れ来て住む人のもとに原発避難の人が身を寄す 島原信義
▼放射線の検出なしと書き添へてわが田の米を友に送りぬ 横山光子
◇福島編(1)◇ ▼放射能の声しきりなるこの年も金木犀のかぐはしく咲く 伊藤栄子
▼風評の被害に耐へて村人はただ黙々と田起しはじむ
たね播きの叶はぬ籾を山陰に捨つる人あり切なくあらん
原発の収束なれと祈りつつたけのこ飯を仏壇に供ふ 3首 猪俣聰子
▼夜もすがら乾燥機の音聞こえ来るセシウム濃度にわれ怯えつつ
風評の被害越えたる備蓄米蔵に収めてこころのゆるむ 2首 岩崎 豊
▼想定外の原発破壊にをののきて二週間たち終息はなし
四十キロ圏内に住み放射能汚染の数値を気にしつつ生く
計画的避難区域の二次避難三次避難は人ごとならず
かくまでに過酷なる悲劇過去となる日のあるらんかわが生のうち
四十キロ圏内にあるわが町も子供を他県に移す人増す
出荷できず命を絶ちし人の畑キャベツブロッコリーの花咲き満つる
鳥は鳴き花々咲けど放射線心離れず早や五か月か
生産の基盤の土壌ことごとく汚染のされて生活うばふ
肉牛の出荷停止は他県にも及び根深し食の被害は
農地五年森林除染は二十年かかるを聞きて心萎えゆく
目に見えぬゆゑの不安におびえつつ日々の生活消極となる
子や孫を案じ神戸に自主避難せし隣人は行きて帰らず
水素爆発に飛散をしたる放射能雨にて汚染されし地のふゆ
一時帰宅するたび諦念の増すといふ老の涙をわれはみたりき
報道に降りまはされつつ八か月憂ひてせんなき思ひを捨つる
線量計身につけて寝る罪のなき子らの将来恙なくあれ
福島の十一万余の避難者のあはれは人災といふべきならずや 17首 大方澄子
次回もこの歌集の作品を読むが、福島県の歌人の作品には原発詠がかなりの数になる。今回、福島編(1)としたが、歌集ではこのように区切られていない。本稿が掲載上の区切りとして(1)としたもので、次回も福島編から始まる。 (つづく)
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