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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年05月13日08時36分掲載
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ミヒャエル・ハネケ監督「Amour(愛)」
この春、オーストリアの映画監督ミヒャエル・ハネケによる映画「Amour (愛)」を見た。この映画はフランスの俳優を使ってフランスで撮影された(であろう)フランス語の映画ながら、やはりジャーマン的な、というかウィーン的なハネケ監督の感覚が強く感じられた。
退職した音楽家の老夫婦がアパートメントの何階かわからないが高い階に暮らしている。夫婦は演奏会に二人で出かけるのを楽しみにするなど老後の生活を楽しんでいるが、やがて異変が起きる。妻の痴呆が始まってしまったのだ。最初はほんの短い記憶の空白だったが、次第に半身不随となり、歌も言葉もなかなか出てこなくなっていく。夫はそうした妻の手足となって、支えようとする。妻が病院や看護師を嫌がるため(彼らの扱いに屈辱を感じることが多かったからだろう)、とうとう妻と夫は二人でアパートに閉じこもってしまう。やがて事件が起こる。
この映画には「愛」というタイトルが打たれているように夫婦の愛がベースになっている。しかし、彼らが経験することがらは次々と襲いかかる試練である。ただただ(妻の)体と頭脳が崩れていくのをじっと受け身でいるしかないのだ。
この映画を見ながら、思い出されたのはハネケ監督が1997年に監督した映画「ファニーゲーム」だった。東京外大でドイツ語の講師をしていたオーストリア人の友人に誘われて見に出かけたのだったが、当時まったく知らなかったハネケという名前の監督の作品に震撼することになった。「ファニーゲーム」では幸せな避暑地の別荘にやってきた夫婦が男のグループに襲われ、縛られ部屋に監禁されてしまう。そこで起きるのは肉体的、精神的虐待の連続で最後は夫婦ともどもあっけなく殺されて湖に捨てられてしまう。「ファニー(不可解な)」なゲームは終わったのだ。この映画を見るとナチズムとは何だったかという追究が映画の中で行われているように思われた。監督がドイツ人やオーストリア人だからといって、すぐに過去の歴史に結び付けるのは短絡的だと思われるかもしれないが、「ファニーゲーム」を見た時はそうとしか思えなかった。しかも、映画の中で観客も襲われた夫婦のような凍りつく感覚をたっぷりと味わわされる。
映画「Amour(愛)」においても、視点を変えると、部屋に監禁され、無力にされ、老夫婦は次々と精神的・肉体的虐待を受けることになる。しかも、そこには加害者はいない。人間に生まれた者なら誰しもこうしたつらい経験をする可能性が残されている。
ハネケ監督の忘れがたい描写の1つは妻を殺した夫が、部屋にうっかり誤って入り込んでしまった鳩を捕まえようとするシーンだ。説明的な描写はないため、男がこの鳩をいったいどうするのか、固唾を飲んで見守ることになる。そこに至る伏線は作られている。男の精神はかなりおかしくなってしまったのではないか、と感じさせるシーンをその前に置いているからだ。台所の流し場で花を茎からはさみで次々とちょん切るシーンである。だから鳩を捕まえてどうするのか・・・と思って緊張しながら見ていると、捕まえた鳩を抱きしめるのだ。この鳩を逃がしてやったことが娘に宛てた男の手記からわかる。肉体のくびきから妻の魂がついに自由になったということだろう。
村上良太
■映画「amour」公式サイト
http://ai-movie.jp/
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