6月17日、月曜日の夜、ブラジルの最大都市サンバウロで24万人の反政府デモが起っんた。このニュースは、世界中が、トルコのデモの動向に気をとられていたので、不意をつかれ、ことの重要性を認識するまでに時間がかかった。それに、現在のブラジルのDilma Rousseff 大統領(労働党)は、軍事独裁政権時代、反政府ゲリラとして戦い、長期に投獄されていたという経歴の持ち主だったので、彼女が警察に野蛮な弾圧をさせるなどということが信じられなかった。
私のパソコンに続々とブラジルからの情報が入ってきたのも、6月半ばであった。「ブラジルで人びとが蜂起した」、「革命が起こっている」、などといった勇ましいメールを受け取った。サンパオロの有力紙『Folha Sao Paulo』のコラムニストであるEliane Cantanhedeは、「ブラジルのオアシスは、すべてうまくいっているようだった。しかし、私たちは、突然、カイロのタハリール広場にいることを知らされた。一体、ブラジルに何が起こっているのか」と書いている。
『ロイター通信』も、ブラジルの「人びとは目覚めた」、ブラジルは「変化している」などと興奮気味に報道している。 6月20日現在、デモは、サンパオロを含めて100の市や町に広がった。85年に軍事独裁が倒れて以来、最大規模の反政府デモになった。 最初は、5月末、サンパオロで、バスの運賃が値上げに怒った貧しい人びとの平和的なデモだった。これを警察が放水車、催涙弾、胡椒スプレー、ゴム弾を使って残虐に弾圧した。この映像がソーシャル・メディアによって、全国に広がった。貧しい人びとが唯一の公共運輸手段であるバスの運賃値上げに反対する理由には、大都市の治安の悪化がある。このバス運賃から始まって、家計の苦しさ、インフレの不安、政治の腐敗(与党労働党の汚職裁判が全員無罪になった)、ばかげたスタジアムの建設(しかも工事は遅れ、予算超過ている)となどいった幅広い問題を取り上げる、幅広い社会運動に発展して行った。これは、チュニジア、エジプト、トルコなどの反政府デモに共通している。
彼らは、大統領がブラジルのイメージを高めようとして、ワールドカップやオリンピックなどに国の資金を浪費しながら、一方では、教育や医療などの人びとの生活に直結している問題をないがしろにしている、と非難している。デモでは、「私はサッカーが好きだ。だが学校に行きたい」というシュプレヒコールが聞こえた。
月曜夜、続いて火曜日のデモは、多分にお祭り騒ぎの様相を呈していた。ブラジルの国旗を掲げ、歌ったり、踊ったり練り歩いた。一部のデモ隊は、サンパオロ庁舎に向かった。ループがガードマンを押しのけて、門の中に入り、アのガラスを壊した。また、ブラジル中央銀行本店に火炎瓶を投げた。リオデジャネイロでは、デモ隊が市議会に入り、手を叩いたり、マイクを奪うなどして、議事を妨害した。首都ブラジリアでは議事堂の屋上を占拠した。
ブラジルのデモは、エジプトのタハリールか、あるいはトルコのタキシムの道を辿るのか、今のところ、不明だ。バス運賃の値上げについては、ブラジル南部のポルトアレグレに「運賃無料化運動」とい組織があり、これが各地のデモを組織したと言われる。しかし、ブラジルでは、このような大規模なデモは、経験したことがない。
そして、ブラジルとトルコとの決定的な違いは、エルドアン首相がデモをテロリスト、ならず者と弾劾している。一方、ブラジルのルセーフ大統領は、6月18日、「政党やメディアなどの伝統的なメカニズムの外にある声に耳を傾けるべきだ。昨夜のデモは、ブラジルの民主主義が健在であることを証明した」と語り、サンパウロのバスの運賃を下げるように取り計らった。しかし、一方では、ルセーフ大統領は、連邦特殊部隊である「国家治安部隊」を動員すると脅かしている。
ブラジルは長期にわたって経済ブームを記録してきた。ブラジルは新興勢力BRICSの頭目である。しかし、その経済成長が終わりに近づいていることを、この度のデモは示しているようだ。
------------- Yoko Kitazawa <kitazawa@jca.apc.org> url : http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
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