6月20日付けの『International Herald Tribune』紙(New York Times の国際版)には、マニラの広大なスモーキィ・マウンテンで、貧しい人びとがごみを拾い集めているA4版大の写真を載せた。それには、「フィリピンでは100世帯中22世帯が貧困で、そのほか極貧世帯が12世帯を占める」というキャプションが 付いていて、フィリピンの目覚しい経済成長と格差の増大につて、特集記事を載せている。
そして、マニラの高層ビルの谷間で、高級車の排気ガスを浴びながら道端で野菜を売っているTagarroにインタービュしている。
「私は、夜明けから日没まで働いて、日に5ドル稼げれば良いほうだ。これで家族7人を養わねばならない」、「その上、荷車の場所代として警官に賄賂を払わねばならず、彼が売っている玉ねぎやトマトの卸値は値上がりしている」、「経済成長の恩恵を受けているのは、金持ちだけで、私たちではない」と語った。
フィリピンは、70年代以降、韓国、台湾、マレーシア、タイなど東アジアの国々が経済成長を遂げ、「アジアのタイガー」と呼ばれていた頃、重債務、マイナス成長、低開発、貧困増などに苦しんでいた。フィリピンは「アジアの病人」と呼ばれていた。
ところが、2010年にベニグノ・アキノ政権が誕生すると、フィリピンは目覚しい変貌を示し始めた。アキノ大統領は、これまでの政権が取り組んでこなかった「病人の治療」に取り組んだ。それは、汚職を摘発し、経済環境を向上させた。とくに、脱税を厳しく取り締まり、一方では、外国の投資を促進した。
結果は、てきめんだった。フィリピンのGDP成長率は、2013年第1四半期では、前年同期に比べて、7.8%増を記録した。これは、東アジアでは最も高い数字だった。これは、GDP成長率が最も高いと言われてきた中国のそれを上回っている。フィリピンの株式市場は活性化し、ペソは値上がりし始めた。また、国際的にメジャーな格付け会社「Fitch Ratings」が、歴史上、はじめて、フィリピンの投資信託の格付けを上げた。
しかし、この繁栄は、Tagarroのような貧乏人には、全く感じられない。なぜなら、アキノ大統領は、その経済政策に注いでいる努力に比べると、貧困削減の取り組みは遅れているからだ。
今年4月に発表された政府の『貧困と雇用レポート』によると、900万以上の世帯が、最低食べるだけで、月5,060ペソ(135ドル)という収入を稼げない。この極貧困家族の1ヵ月の収入は、最近マニラで開かれたAerosmithのコンサートの1人分の切符代以下である。貧困についての政府の発表は、ここ数年の数字しかない。なぜなら、それまでの政府は貧困の統計を取っていないからだ。
マニラにある独立した調査機関「Social Weather Stations」によれば、貧困世帯の多くは、定期的に飢えに苦しんでいるという。その数は、390万世帯に達する。これは、2012年12月には人口の16.3%であったのが、今年4月には19.2%と増えている。
国連の『人間開発レポート』2012版では、医療保険、教育、幼児死亡率などの人間開発指標は、対象国187カ国の中で、フィリピンは114位である。2007年には105位であった。 以上の数字からも、フィリピンは中国を上回る経済の高成長を遂げているにもかかわらず、逆に格差は拡大し、貧困は増えていることが判る。
経済成長は、都市部に集中している。農村部は置き去りになっている。とくに小作農と漁民に貧困化が著しい。
------------- 国際問題評論家 Yoko Kitazawa
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
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