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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年07月05日13時00分掲載
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地域
【安房海より】地元記者クラブと自治体の距離感 田中洋一
こんなことで、日ごろ顔を付き合わせる同業者たちと言い争いたくはない、と思った。真夏の夜の東京湾を納涼船が走る。船内では自治体が日替わりで「○○DAY」と銘打ち、おらが観光自慢を売り込む。その取材をどうぞと、私たち駐在記者に勧めたのだ。
取材自体はおかしなことではなかろう。そう感じつつ、広報の担当に尋ねると、気になることが分かった。当の担当者が、取材する報道各社を東京・竹芝桟橋まで車で送迎してくれる。納涼船には勧進元の首長をはじめ観光部門の職員が乗り込むが、それとは別に、記者クラブの面々だけを運ぶ車を運転してくれるというのだ。
さらに尋ねると、広報氏はそのために当日午後から休みを取る。とはいっても、全くの私人としての好意からではなく、業務の延長にあることは明らかだ。報道の目的で役所の職員を半日近く拘束することが、社会的に認められるだろうか。
私はさっそく同業各社に呼び掛け、話し合いの場を持った。「休みを取った私人とはいえ、広報氏に送迎をお願いするのは引っかかります」と丁寧に切り出した。
事情を聞き、背景が見えてきた。納涼船の取材は数年前からの恒例であること。自治体側は報道の宣伝効果に期待して、最近は広報の担当者が報道関係者だけを運ぶようになったこと。送迎のレンタカー代は記者クラブが出すこと。納涼船には(自己負担で)ビールや食べ物もあり、心地よい一夜を楽しむこともできること……。
自治体側の思惑は別として、取材する側として行政に甘えていいのか。そう考えながら、私は最近の取材例を語りかけた。「私たちはいじめ自殺のように、住民が行政当局と争う問題を取材している。そのさなか、一方の当事者に借りをつくる姿勢はどうなのか」
同業者からの反論は、案に相違してほとんど出なかった。それどころか、私の提案に賛成する意見が相次ぐ。「去年もおかしいと思っていたけど、参加した」とか「広報氏に運転してもらう車が万が一事故を起こしたら、責任問題は厄介だぞ」とか。
私は「首長たちの車に同乗させてもらったらどうか」と代案を出したが、それさえも「行政のお世話になるのは問題だ」と否定された。同業者の物分かりの良さに、私はやや拍子抜けした。結局、広報氏による運転の返上を地元記者クラブの総意として決め、役所には翌日伝えた。取材先との一線をどこで引くのか。原則論では割り切れない事情がいろいろあろうが、襟を正すしかない。
一件落着の後、幹事社から連絡が届いた。住民が首長を相手取り、行政の無駄な支出の返還を求める住民訴訟のお知らせだ。あれっ、メーリングリストの送信元は役所の広報だ。幹事社は住民から届いたお知らせを、裁判の相手方の役所に回し、各社への連絡を頼んだようだ。それって、どこかおかしくありませんか、幹事社さん。
田中 洋一
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