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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年08月18日01時49分掲載
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クロエ作 「ジャンヌの季節」〜現代フランス女性のトホホな独白録〜
フランスの漫画屋で「ジャンヌの季節」(Les saisons de Jeanne)という風変わりな作品に出会った。漫画では鳥のような顔の若い娘、ジャンヌの見た世界、感じた世界が描かれていく。絵は極めてシンプルで学生時代にノートに描きつけたいたづら描きのようだ。登場人物はみな同じような鳥顔である。けれども、眼差しが微妙に変わるので、気持ちは細やかに表現されている。著者はクロエ(Chloe)という名前の女性である。
1ページで1話完結で、12コマにジャンヌの様々な独白が続いていく。たとえば毎週月曜に精神分析医に通って、寝台に横たわり仕事のつらさを医師に告白してきたジャンヌだったが、ある時、分析医のいびきが聞こえてくる。ジャンヌの疎外感が最高値に達した瞬間だ。
あるいはジャンヌの女友達編。友達がジャンヌに面と向かってさんざんこき下ろす。「あんたはエゴイストよ。」「あんたは自分のことしか考えない」「あんたは疑い深いし、すぐいらつく」・・・そんな罵倒の最後は「あんたは人の言葉を悪く解釈するわね」
ジャンヌの父親は彼女が子供の頃、寝床でお話をしてくれたものだ。それはいつも牛が川を渡ろうとしていてピラニアに襲われて食べられる話だった。父親はリアルな再現音を交えて話したものだ。時には別の話もしてくれた。でも妖精が出てくるような普通の童話は話してくれたことがない。「というのは私が白馬の王子なる存在を信じていなかったからね・・・。」
全編こういった独白が続いていく。この漫画は本の体裁自体が大学ノートサイズで、しかもノートと同様に薄っぺらい。だから本当に学生がノートに描きつけた落書きのような印象である。この本の面白さは誰でもちょっとした絵心があれば物語を描けると読者に感じさせるところだろう。それくらい身近な世界なのだ。
実際、仕事で出会う日本の若い女性たちの会話を脇で聞いていると、「ジャンヌの季節」を思い出す。仕事がつらいとか、彼氏がいないとか、給料がなかなかアップしないとか、禿はいやだとか、そんな日常のためいきやため口に意味があるか、と言えばないのかもしれない。しかし、ここには文豪チェーホフが描いたロシアの溜息と同じものがある。その言葉をかけがえがない、と思えばその言葉は輝きを帯びてくる。それは美しいものでないかもしれないが、現代を生きる者の口から出てくる真なるものなのだ。
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