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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年08月21日15時57分掲載
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地域
【安房海より】ウミホタル 田中洋一
当地からの発信は、海にまつわる話題がどうしても多くなる。山国の信州から春に転じて、見るもの聞くものが新鮮で、心動かされるからだ。今回もウミホタrの発光生物ウミホタルを取り上げよう。実に不思議で、感動の出合いだった。館山湾を漁船で巡るウミホタルの採集に同行した夜のことだ。採集瓶の中身を受けた三瓶雅延さんの手のひらが淡く輝いた。マリンブルーと呼んでいる色だが、私には印刷インク三原色のシアンに近いように見えた。
妖しげな輝きの帯が指の間を抜け、手のひらから垂れ落ちる。ホタルや夜光虫の輝きは固体の動きだが、こちらは流れる液体の質感だ。私は慌ててカメラを向けたが、ストロボを使えばぶちこわしになるので、低速シャッターの撮影で苦戦を強いられた。
生物としてのウミホタルは3mm前後の甲殻類、つまりミジンコの仲間だ。青森から沖縄の太平洋側に生息する。静かな海底の砂の中に昼は眠り、夜は出てきて死肉などを食べる。だから、採集瓶にはアジの切り身やちくわが入れてあり、個体をおびき寄せた。
小さな生き物だ。静かな海で観察しやすい。鏡ケ浦の別名を持つ穏やかな館山湾がそれに向く。だが、誰もが観察できる訳ではない。私自身がよい例だ。半世紀前の小学生当時、夏は館山湾に遊び、夜釣りもした。防波堤に打ち寄せる夜光虫はよく見かけたが、ウミホタルのことは全く知らなかった。
発光は、体外に放出される発光物質による。ここがホタルや夜光虫と全く異なる点だ。発光物質は海水に溶け込み、数10秒の間だけ明るく輝く。捕食者に襲われた場合に強く輝き、人間の手のひらも危険な刺激と判断するのか。求愛のための発光説もある。
夏の調査でお世話になった三瓶さんは、この発光生物に20年近く付き合ってきた。会社勤めをしている頃から、妖しい輝きに惹かれていた。「子どもに感動を与えたい。観光の目玉にもなる」。1997年から夏場を中心にウミホタルの観察会を週末に開いてきた。市民による館山ウミホタル観察倶楽部の営みだった。「昔は採取瓶の底が真っ黒になるぐらい採れた」と振り返る。
さて、研究者や愛好家以外にほとんど知られていなかったウミホタルが一気に全国区になった。東京湾を横切る有料道路アクアラインの開業に当たり、パーキングエリア(PA)が「海ほたる」と命名されたからだ。
三瓶さんによると、開業前、関係者がウミホタルとはどんな生き物なのかを館山に調べに来たそうだ。PAの名称は一般公募され、「ウミホタル」も候補に上っていたに違いない。
だが、2年前からウミホタルの観察個体数は減り、三瓶さんたちは開店休業状態になった。海を荒らさず、多くの人に「妖しい輝き」を体験してもらうには、どんな知恵があるのだろう。
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