最近、本でこんな一節を読んだ。
「遠い昔のことはほとんど思い浮かべられないとしても、なんでしたら、過去12年の間に交わされてきた戦争を、この辺で一度考え直してごらんになったらどうでしょうか。その原因を掘り下げて調べてごらんになったらいかがでしょう。そうすれば、ありとあらゆる戦争が産業界の利益のために企てられ、戦争とは全然何の関係もない民衆の被害の上に遂行されたことがお判りになるでしょう。」
この言葉は2001年から戦争に余念がない米国の現在の大統領、オバマ氏に寄せられたもののように思えるが、書かれたのは1517年、今からおよそ500年前に欧州の思想家エラスムスが書いた戦争告発の書「平和の訴え」である。新教と旧教に分裂し、キリスト教徒同士で殺戮している状況を平和の神が告発し、平和を訴える。実は先ほどの引用箇所で1か所、こちらで勝手に「君主」を「産業界」に改めた。
「国家にとって命とりの禍は法律無視というのでしたら、「干戈を交えるところ、法は沈黙する」ということを肝に銘じていただきたいもの。あなたが私通や近親相姦や凌辱を汚らわしいと思われるなら、戦争こそがこうした一切のものの教師であることを忘れぬよう。」
「なぜ人間は、自分たちの幸福を確保するためよりも、自分たちを害ねるために、より多くの知恵を働かせるのでしょう?どうして善よりも悪に目をつけるのでしょう?大して思慮分別の深くない者でさえ、商売の取り引きを始める前には、事の軽重を計り、熟考し、注意深くすべてを検討するものですね。ところが、こと戦争になると、盲目的に猪突猛進して、戦争というものは一度火蓋が切られてしまうと阻止できないものだということを、考えようともしません。ほんとうに、小ぜり合いから大乱闘になり、1つの戦争が数多くの戦争に発展し、かすり傷から血の海を招くことになるのです。戦火の嵐は、1つの相手に激しく吹きつけるだけでは収まらず、いよいよ荒れ狂って遂には世界全体を捲きこんでしまうものですのにね。」
イラク戦争でもアフガン戦争でも米国のアキレス腱は出口戦略を持っていないことだった。戦闘は短期間に終結しても10年以上内乱と紛争が続き、駐留経費は米経済を破綻の淵に追い込んだ。ではシリア戦争に出口はあるのか、と言えばこちらもなさそう。アサド政権を支援するイランやロシアの出方も不透明だ。戦争が長引けば米経済には最早資金がないから、日本国民に資金の拠出が求められるのではなかろうか。
当初、反政府勢力にテコ入れしていた米国務省が一旦距離をとり始めたのは反政府勢力にシリア以外の国からやってきたイスラム過激派勢力が存在していたからだ。その後、その数はますます増えた。そこで過激派に兵器が渡らないように、兵器のテコ入れにも慎重になった。しかし、反体制派はいろんなつながりがあり、両者を完全に区別することは不可能のようだ。最近解放されたアメリカ人の写真家はCIAと疑われ、反政府勢力に7か月以上拘束されていた。このグループは過激派だけでなく、米国務省が承認している反政府勢力にもつながりを持っていたことが判明した。
今回、アサド政権崩壊が目的ではないと米国は言っているが、目的はアサド政権転覆としか言いようがない。しかし、キッシンジャー元国務長官が最近発言したようにシリアを解体して、宗派によりアサド勢力と反アサド勢力にシリアを分割統治する、という出口戦略も考えているのかもしれない。そうすれば現政権の力を大幅にそぐことができ、また外国に流出している難民を旧シリア国境内に帰還させられるだろうからだ。今やシリア難民はトルコを超えて経済難の欧州連合域内にも入り始めている。それらの難民は遠からずフランスにもやってくる・・・。
フランス人のある知識人はフランスがシリア戦争に参加するかどうかまだ不透明だとしながらも、こう語った。
「欧米人には1979年のイランのホメイニ革命以来、中東の行方が全く理解できないんだ」
安倍政権は早くもシリア戦争に前のめりになっている。アサド政権が化学兵器を使ったか使っていないか、白黒もついていない段階で日本が欧米に盲目的に加担するメリットは何なのだろうか?日本がこれらの国々に追従することはそれらの国々から尊敬を集めているわけではない。むしろ、彼らは心の中で日本のことを恐らく何も自分で判断できない、主体性のない国家として軽蔑しているのだ。一方、イラク戦争に参加したことでイスラム世界における日本への信頼度もまたぐっと下がることになった。その結果、テロリストに殺される日本人も出てしまった。平和の神は安倍首相にこう語っているように思われる。
「敵を締め出そうとすると、まず自分があちらこちらの国から締め出されることになる、ということを知っておかれたほうがよいでしょうね。君主よ、戦争を始める前は、近隣すべての国があなたの国も同然だったのです。と申しますのも、物資の自由な交易によって、平和はすべてのものを共有するからですよ。ところがごらんください、戦争によってどれだけ多くのものが無に帰することか!」
■デシデリウス・エラスムス(Desiderius Erasmus,1466?-1536)
オランダ出身の人文主義者。「痴愚神礼讃」「対話集」など。キリスト教徒が新教と旧教に分かれて分裂し、殺戮し合っている状況を告発している。
■キッシンジャー元米国務長官「シリアは分割されるべきだ」〜ヴォイス・オブ・ロシアより〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306292133146
■ダッハウ強制収用所の1枚の絵
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201103102255004
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