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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年10月21日14時39分掲載
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文化
【核を詠う】(128)『朝日歌壇 2013年版』から原子力詠を読む(2) 「『おれたちはただのマウスよ』南相馬の放射能浴びし若きら叫ぶ」 山崎芳彦
前回に引き続き『朝日歌壇 2013』から原子力詠の短歌作品を読み続けるのだが、現在、第185回臨時国会が開かれている。筆者は安倍首相の「所信表明演説」を聞き、新聞紙上で読んだが、聞きながら、読みながら、気分が悪くなった。そこには、日本の人々の現実、とりわけ東日本大震災・原発壊滅事故の実情を軽視し、この国の人々の現在と未来の生活と生命に対する無責任、弱肉強食社会にさらに向かう政権の本質を、言葉を飾り、躍らせてはいるが、差別と強者尊重・弱者足蹴の言語によって構成した「所信」があった。
どんな言葉で所信を安倍晋三は語ったのか。ここでは、原発、原子力にかかわる部分を主に「所信」を瞥見したい。その後に読む短歌作品との差違というより断絶を感じないではいられない。 この「所信表明」のなかで、福島原発壊滅事故による深刻な事態、被災者の現状に安倍首相は、何一つ有効な政策・対策の遂行について語らない。彼は、原発事故についての認識、ひき起こしている現実も、それをもたらした自民党政権の原発政策、そして将来にわたる問題についての鈍感・不感症ぶりを露呈しているのか、知っていて知らないふりをするという無責任政治家なのか、いずれにしてもこの人間を今このとき総理大臣の位置においてしまったことの過ちは、限りなく不幸なことであったといわないではいられない。
彼、安倍首相は「福島の皆さんにも一日も早く故郷に戻っていただけるよう、除染やインフラ復旧を加速」していくというのだが、原発事故によってどのような事態が起き、またさらに深刻な事態が起こる可能性があるのかということについての認識を一切明らかにしていない。現状の認識を欠いて除染、インフラ復旧の加速を語っても空疎に過ぎる。 安倍首相は「毎日福島産のお米を食べて・・・折り紙つきのおいしさ」「安全で美味しい福島の農産物を風評に惑わされること無く消費者の皆さんに味わってほしい」というのだが、原発事故がもたらした放射能汚染により農業・漁業をはじめ人々の生活が受けた打撃、実際にその業を営むことを禁止され、生産物の出荷を禁止されたのは、単に消費者が「風評に惑わされた」ことが原因だというのだろうか。放射能汚染による危険はまったく無かったのか、無いのか。将来にわたっての放射能被曝による健康と生命に危惧が無いというのか。福島の農産物を消費者が美味しく食べてほしいというだけで、問題の何が解決されるのだろうか。 安倍首相が、原発事故の加害の深刻さを意図的に押し隠すために述べる言葉は、原発を「世界最先端の技術」と海外に売り込む詐欺的手法と重なって、福島の農林漁業生産者にとって迷惑なだけではないだろうか。
放射能汚染水の問題についても「事実と異なる風評」に漁業者が悩んでいると言うだけで、現実にさまざまな核種を含む放射能汚染水の漏出、地下水汚染、海への流出を抜本的に防ぐ手立ては、「国が前面に立って」といいながら、失敗、失態の連続であり、有効な対策を講ずることが出来ない現状への反省はなく、海外からの強い批判を受けているし、「抜本解決に向けたプログラムも策定し、すでに着手」「今後とも東京電力福島第一原発の廃炉・汚染水対策を全力でやり抜いていく」などという空手形を切っても、信認を受ける状況ではない。
最大の問題は、福島原発が起きたという事実、過酷な原発事故が起きればさらに厳しい事態、この国が人間の生活できる場でなくなる可能性さえあると考えなければならないことや、原発が存在し、稼働し続ける限り解決・処理する事ができない核廃器物の蓄積がつづくという事実があっても、そのことを無視して原発の維持、原子力エネルギー依存社会の維持の政策から脱却しようとせず、脱原発に向けたエネルギーシステムの構築や社会の変革をめざす姿勢、行動から真逆の立場に、安倍政権と大企業を中心にした原子力推進勢力は立っているということである。 安倍首相の所信表明の中で、原子力問題に本格的に触れた部分はまったくない。あるのは、先に触れたような、おためごかしの不実な言葉のみである。
そして、「もう一度、力強く成長できる」「世界の中心で再び活躍できる」希望のために、「果敢にチャレンジする企業」「あらゆる分野でフロンティアに挑む企業」「意欲のある人、ベンチャー意欲の高い皆さん」「意欲のある民間企業の農水産物分野への投資による日本の農産物の可能性の開花」「世界で一番企業が活躍しやすい国」・・・と成長戦略を語り、世界最先端ビジネス都市を生み出す国家戦略特区の創設、TPP交渉で日本が中核的役割を担い太平洋の新たな経済秩序作りに貢献などと、いまこの国に起きている格差拡大、不幸の拡大再生産の現実を見ない、「大構想」を述べている。
さらに、「強い経済を基盤とした社会保障改革と財政再建」の美名の下での消費税引き上げ、大企業減税、弱者に負担を負わせる諸政策の実行を隠さない。外交安全保障の名のもとでの軍事力強化と海外で戦争行為の出来る体制作り、そして憲法改悪へ、安倍首相は「意志の力があれば必ずできる」と突き進もうというのである。そのめざす方向を誤った「意志の力」の扇動は危うい。 安倍政権が目指すのは、この国会では「国家安全保障会議設置法案」「特定秘密保護法案」「産業競争力強化法案」などの成立であり、さらに歯どめのない原発再稼働推進も中心政策になるであろう。「富国強兵」政治のにおいも濃い。「強い日本を取り戻す」の「強い」とは、「日本」とは何のことなのだろうか。
このような安倍政権の政策構想を許せるだろうか。 原発維持推進政策に対して、よしとする短歌作品は、いま読んでいる『朝日歌壇2013』になかった。 安倍首相の「所信表明」のあまりの無慚さに、つい、整理不十分な私感を記してしまった。短歌作品を読もう。
<4月第1回> 高野公彦選 ▼夜の森の桜祭りのHP(ホームページ)は更新されずまた巡る春 (前田千晶)
▼一望の荒地と化しし汚染の地の庭にけなげに水仙の咲く (半杭螢子)
永田和宏選 ▼きっちりとそと遊び終える一時間日課となりぬふくしまの子は (廣川秋男)
▼ただ単に「賞味期限」の表示なのにドキッとして見る3・11 (武藤敏子)
馬場あき子選 ▼廃炉まで四十年の道程を今日生まれ来る子は歩みゆく (澤 正宏)
▼フクシマに生き延びし牛三百頭放射状にならび干し草を食む (木村陽子)
▼終わりなく始まりもなくフクシマは苦しみ深しこれからもまた (渡辺良子)
<4月第2回> 永田選 ▼教室を磨けばやつらの痕跡が消えゆきさらの教室となる (今 奈奈)
馬場選 ▼唐突にマイク・カメラを向けられて瓦礫の受け入れ訊かれ戸惑ふ (沓掛喜久男)
▼基準値を超えてセシウム検出とう野兎のこの冬を思えり (渋間悦子)
▼雪踏みて登校する児ら頬紅し原発の町去りて幾月 (五十嵐三郎)
高野選 ▼原発に働く人らで賑はへるまぶしき夜の街はまぼろし (矢内松美)
<4月第3回> 馬場選 ▼樹皮殺(そ)がれ木肌の白き桃の木が立ち並びいて寒き雨ふる (美原凍子)
▼桃畑にほほえみて話す信夫野の人らの声に涙交じりき (齋藤一郎)
▼瓦礫からふと海に目を転ずれば青海苔をはむ黒雁の群れ (柴谷芳秋)
高野選 ▼夫というひと在りし日へふたひらの手を合わせつつ北へ向きおり (美原凍子)
永田選 ▼「おれたちはただのマウスよ」南相馬の放射能浴びし若きら叫ぶ (三井せつ子)
<4月第4回> 永田選 ▼ふるさとの「ゆふぐれ」思う東京の「ゆうぐれ」のなかまた帰れない (無京水彦)
▼反対派テントのあるは容認派あるということうつくしき海 (相原法則)
馬場選 ▼白帆引く霞ヶ浦に棲む魚の源五郎鮒もセシウムにやらる(檜山佳与子)
▼山積みの瓦礫そのまま放置されエゴも支援もかなしきニッポン (山内義廣)
<4月第5回> 馬場選 ▼草の芽も木の芽も去年(こぞ)の悲しみを抱きて芽吹く生きよ、生き よと (美原凍子)
高野選 ▼フキノトウツクシタラノメウドヨモギワラビゼンマイ摘めぬ春は来 (金沢美香)
<5月第1回> 馬場選 ▼ウクライナの春は林檎の花が咲く二十六年汚染さるるまま (松井 恵)
▼線量計当てることなく掘りて食う地を割り出ずる黄いろい竹の子 (風谷 螢)
<5月第2回> 高野選 ▼人もなき町の桜のトンネルは帰れぬ人の魂(たま)遊ぶ処(とこ) (青木崇郎)
▼満開の桜並木の映像はわれの故郷 逃れて哀し (半杭螢子)
▼どこまでも温しふくしまの里びとはよらんしょこらんしょあがらんし ょ (美原凍子)
<5月第3回> 永田選 ▼たんぽぽの咲く畦道をさんぽする子らに添ふ保母線量計下ぐ (荻原葉月)
▼終戦後科学に希望のあったころアトムとウランは誕生をした (前田一揆)
<5月第4回> 高野選 ▼原発の世に千の御手差し延べて立木観音の深きまなざし (美原凍子)
▼いわきの海前のすがたとちがう海海鮮丼の店もなかった (平栗萌愛)
<6月第1回> 高野選 ▼「味よりも見栄えと安全が売れてます」直売場に農夫は嗤(わら)ふ (篠原克彦)
永田選 ▼日本の原発すべて止まったとその夜のニュース詳しかりけり (松浦のぶ子)
馬場選 ▼除染せし校庭に子ら駆け出して運動会湧く若葉風かな (美原凍子)
▼滝桜花散り終り人は去り三春の里に田植え始まる (水口伸生)
<6月第2回> 永田選 ▼桃の花咲くふるさとのふくしまは雪占(ゆきうら)うさぎのあらわる る頃 (寺崎 尚)
馬場選 ▼原子炉を抱えし空母入り来るを為すすべもなく丘に見ている (梅田悦子)
<6月第3回> 馬場選 ▼クマガイソウの群落、道は行き止まり開拓農家四,五軒残る (美原凍子)
▼原発はなかったけれど明るかった修学旅行の東京のネオン(小林正人)
高野選 ▼空赤く原発燃えて放射能だ逃げろーと叫ぶムンクの「叫び」 (丸山 一)
<6月第4回> 高野選 ▼電気もない水上勉の生家があった大飯の村で原発稼働 (木村泰崇)
馬場選 ▼原発に悩む下北山背(やませ)吹きかすむ大地に風車が回る (清藤菊江)
▼除染すみ白砂まぶしき公園にパンダと河馬の遊具置かれる (緑川 智)
次回も『朝日歌壇2013』の短歌作品を読み継いで行きたい。(つづく)
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