フランスが核武装するに至った歴史を紐解くと、アメリカから離れて自主独立を守ろうとする意思から生まれたことがわかる。それはピエール・マンデス・フランス大統領の時代だった。フランスが第二次大戦中にナチス・ドイツの支配下に置かれた屈辱と悲惨の歴史から、二度とそのようなことを避けようという意思が核兵器を保有する、という悲願となったのだった。ソ連の核の脅威に立ち向かわねばならないが、かといって米国に助けてもらうだけではフランスという偉大な国家の名がすたる・・・。
さて本題に入るが、安倍政権の掲げる秘密保護法案はアメリカとの情報共有のためであるという説明がなされる。アメリカの得た軍事情報・テロ情報を日本にもわけてもらうためには、秘密が守られる法律が必要だから、という説明である。それであればアメリカは秘密保護法案に全面賛成のはずだろう。しかしながら、ある意味でアメリカの思潮を記す媒体であるニューヨーク・タイムズが安倍政権の秘密保護法案に対して、かなり強い批判を社説で掲げた。そのトーンは橋下大阪市長の慰安婦発言の時に近い。
アメリカにとって、安倍政権の秘密保護法案はどんな意味を持っているのだろうか。以下はまったくの個人的な推測に過ぎない。
アメリカは日本の核武装を恐れている。核武装を実現する前には、フランスの例を見ればわかるのだが、防衛官僚、軍人(自衛隊幹部)、技術者の間で密かに研究会が開かれ、少しずつ準備が進められる。さらに防衛産業も加わってくる。この準備会は、もし近い将来、日本で行われるとすればもちろん特定秘密に認定され、漏らした官僚や技術者は刑務所に入れられるだろう。日本国民はそのような計画が進行していること自体知ることができないだろう。核兵器を持つべきかどうかで国民投票が行われるわけではないのだ。核兵器も数ある殺人兵器の1つに過ぎない。それは防衛省の管轄である。だから日本国民が気がついたらすでに多数所持していた、ということになる可能性が高い。(別に日本周辺で目立つ核実験をしなくとも、原料のプルトニウムを核保有国に送って、加工してもらった核弾頭を輸入することもできるのだから。)
イスラエルでも核開発の秘密を漏らした男は刑務所に入れられた。イスラエルは核兵器を持っていること自体、公式に認めていない。認めていないが、持っていることをほのめかすことでアラブ諸国やイランに対して十分な脅しになっている。もし核兵器を開発したとしても、日本もそのような曖昧な姿勢を維持するかもしれない。イスラエルでは少なくとも秘密を暴露した男が一人いた。彼は逮捕され、イスラエルの刑務所に入れられた。では日本で秘密保護法案が可決した場合、10年刑務所に入ってもよしとする官僚が日本に一人でも存在するだろうか。10年刑務所に入ってもよしとするジャーナリストは日本に一人でもいるだろうか。
米国は安倍総理を戦後レジームの否定者であると見ている。そこにぶれはない。戦後レジームの否定とはファシズム国家だった日独伊を相手に戦って勝利した後、米国が構築した戦後世界秩序への反逆である。だからいかに安倍総理が米国と親密なムードを作ろうとしても、米国は日本の戦前回帰を非常に警戒している。その安倍政権は秘密裏に何をするのか・・・。短期的に見ればすなわち安倍政権が親米的なスタンスの間は秘密保護法はアメリカの利益にかなうかもしれないが、長期的に見た場合、日本の政権が反米的な方向に転じる可能性もある。短期長期を考え合わせ、そのプラスマイナスを考えれば、今の秘密保護法案では日本人にとってばかりでなく、アメリカにとっても警戒に値する、という結論なのではないだろうか。
*「ツワネ原則10は、政府の人権法・人道法違反の事実や大量破壊兵器の保有、環境破壊など、政府が秘密にしてはならない情報が列挙されている。国民の知る権利を保障する観点からこのような規定は必要不可欠である。しかし、法案には、このような規定がない。」(日弁連のツワネ原則の説明から) 安倍政権の特定秘密保護法案は国家秘密と国民が知る権利の関係を国際会議で定めた「ツワネ原則」を無視するものだとして国際社会からも批判されている。
■山田文比古著「フランスの外交力〜自主独立の伝統と戦略〜」(集英社新書)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201307271309086
■「麻生氏ナチス発言」(毎日新聞より)
http://mainichi.jp/opinion/news/20130802k0000m070123000c.html
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