国民の知る権利が脅かされている。それは日本やロシアだけでなく、フランスでも起きていた。今年7月、フランスの新興インターネット新聞メディアパール(Mediapart)および雑誌ル・ポワン(Le Point)に対し、フランス控訴審で一連の記事の削除を求める判決が下された。
その記事とはサルコジ元大統領の選挙資金スキャンダルに関係するもの。富豪リリアン・ベタンクールさんの自宅で行われた会話内容の記録とそれに関連する記事である。ベタンクール事件はサルコジ大統領が2007年の大統領選において、富豪のリリアーヌ・ベタンクールさんから違法な献金を受けた疑惑があるとして、メディアパールがこれまでスクープ記事を多数掲載してきた。ところが今年7月、ヴェルサイユにある控訴審で、ベタンクールさんの自宅で行われた記録に関係する一連の記事(映像・録音を含めると70以上に及ぶとされる)の削除が命じられた。
メディアパールは命じられた記事をいったん削除したが、記事の正当性を最高裁に上告して、最後まで争う構えだ。ちなみにこれを報じた媒体の1つ、リュ89によると、ベタンクールさんの自宅で行われた記録はベタンクールさんの邸宅で雇用されていた給仕頭が内部告発で行ったもののようだ。このことから、私人の家庭において家主や訪問者の許可なく秘密に記録され公にされた、ということがプライバシーの侵害になると判断されたようである。これについて、メディアパールは国民の生活を左右する重大な情報はこれを伝える正統性があると主張している。これはそこで行われていた行為の性質(私的・公的)と内部告発というものをどう考えるかが関係するのではあるまいか。給仕頭によるこの記録は2009年5月から2010年5月までの1年間に行われたものらしい。
一方、メディアパールとル・ポワンだけでなく、他のメディアもこれを検閲であると批判し、メディアパールに代わって記事の資料を掲載するなどの連帯する戦いを継続している。ただし、メディアによって、この件をどう考えるかは様々なようだ。
たとえばRue89というインターネット媒体はたとえ削除されたとしても、メディアパールの記事内容自体は読者の頭に入っている。さらに自分たちは兄弟であるメディアパールの情報をここに伝えるものであるとして連帯を表明した。
・「リュ89はメディアパールのベタンクール事件関連資料を転載する」(リュ89)
http://www.rue89.com/2013/07/23/documents-rue89-publie-dossier-bettencourt-censure-mediapart-244432
・「フランスに検閲が復活」(ユーロジャーナル)
http://www.eurojournal.net/2013/07/27/mediapart-censure/ これが大きな意味を持つ理由はサルコジ元大統領が国民運動連合(UMP)から2017年に再び大統領選に出馬するのではないか、と見られているからだ。サルコジ元大統領にとって、一連の疑惑を払拭することがその前提となる。メディアパールの記事に対する攻撃もその始動と見ることもできるだろう。サルコジ元大統領にはリビアの故カダフィ大佐からも2007年の選挙戦に向けた資金提供があったのではないかと疑惑が報道されている。
・「国民が知る権利を求める署名 すでに56000人以上」(メディアパール)
http://blogs.mediapart.fr/blog/la-redaction-de-mediapart/110713/plus-de-56000-personnes-ont-signe-lappel-nous-avons-le-droit-de-savoir 様々なメディア、組合、政治家、市民団体などが支援し、署名を呼びかけている。
■サルコジ政権を揺さぶるネット新聞「Mediapart」(2010年の記事から)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201007142244543
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