安倍政権の特定秘密保護法案や兵器輸出の解禁への方針に対して強く批判的な記事を出してきたニューヨークタイムズが今日の社説では一見TPPに参加を促す論を展開した。’Joining the new trade club'(新たな貿易クラブに参加すること)と題する社説である。
この社説では経済の近代化をはかりたいアジアの3か国(日本、台湾、韓国)が、国内を’リストラ’したいために、TPP参加を自ら希望していると書かれている。日本について言えば<日本国は非効率だが政治力がある農業セクターを、TPPが課す新たなルールを導入して改革したいということがわかった>と書かれている。
今までの政府の説明と食い違う。政府の説明では日本の農業政策を守るために最大限の交渉を行ってきたかのようだった。ところがニューヨークタイムズの文章を読む限り、秘密交渉でなされるTPPによって外圧として政府は日本の農業をリストラしようとしていることになる。TPP交渉が秘密化されればされるほど、そして特定秘密保護法で官僚が秘密を増やせば増やすほど、こうした交渉で実際に何を官僚や政治家が話しているのか見えなくなる。
NYT社説はeager(最大限希望する)という単語を使ってこう述べている。
It turns out ,for instance, that Japan is eager to restructure the economically inefficient yet politically powerful agricultural sector ,and hopes the new rules will help it do so'
「たとえば日本政府が、経済的には非効率だけれども政治的には強力な農業分野を、TPPが課す新たなルールによって改革する手がかりにしたいと強く望んでいることがわかった」
NYTではTPP参加によって3か国が利益を受けるのは関税引き下げではない〜というのもそれらはすでに相当低くなっているから。それよりもそれらの国々はTPPのルールをてこに、今までの国内規制を取り払って非効率な産業分野を近代化したいからだと言うのである。これは日本国民にとっては青天の霹靂、驚くべきことである。
たとえば知的財産権の保護や環境規制、労働規制などの政策を改変して、新たなルールを導入することができる。また国営企業をより民営化することも可能になる。つまりTPP参加によって今まで中々変えられなかった国内政策を外圧によって変えられると言うのだ。それがまさに日本の交渉担当者が本意としていることだというのである。
共産党参議院議員の吉良よし子氏のウェブサイトによると、自民党はたとえば知的財産権保護に関してTPP参加を前提に、著作権法の侵害を親告罪ではなく、著作権者でなくても誰でも著作権侵害を訴えるように法改正(非親告罪化)を目指しているとされる。これは運用次第ではインターネットの言論統制にもつながりかねないだろう。たとえば他の媒体の記事の引用を巡っても、どこまでを引用すれば著作権侵害となりうるのかが明確ではない。そうなると法を運用する側の考え方次第となる可能性があり、これもまた委縮効果をもたらす可能性がある。記事内容が気に食わないと思えば、仮にその記事で誰かの記事を引用していたとすれば、著作権侵害を誰でも訴えることが可能になるのだ。
ニューヨークタイムズを読むと最初は一見TPPに参加を促す社説のように見えるが、よく読むと必ずしもそうはなっていない。促していないか、と言えば促している印象もあるが、真意はそうではないかもしれないという含みがどこかにある。アジア3か国がなぜTPP交渉にぎりぎりになって参加を急いでいるのか、NYTの社説はむしろそれを客観的に述べている。さらに、社説の最後の締めで、TPPに参加したら中間層が没落して、収入格差が拡大する危険がある、と警告しているのだ。
■NYT社説 ’Joining the New Trade Club’
http://www.nytimes.com/2014/01/03/opinion/joining-the-new-trade-club.html?_r=0
|