首相の施政方針演説は美辞麗句で飾る高校生の演説と言っては高校生に失礼だろうか。皮肉を言っているのではない。むしろ高校生のように率直な姿勢と言えるのではないか。たとえば「可能性」という文言が多用されている。ここが従来の施政方針演説とは異質といえる。 その半面、首相の持論である「積極的平和主義」に執着している。この積極的平和主義が演説のキーワードであり、これこそが安倍政権の目指すところである。しかも注目すべきことに積極的平和主義は明らかに日米同盟の緊密化にとどまらず、防衛体制=軍事力の強化、戦争を目指している。
まず参考までに大手5紙の社説(1月25日付)の見出しを紹介する。主張の内容紹介は省略する。 *朝日新聞=施政方針演説 明るさの裏側には? *毎日新聞=安倍首相演説 重要課題がそっけない *讀賣新聞=施政方針演説 不屈の精神で懸案解決に挑め *日本経済新聞=「経済の好循環」を言葉で終わらせるな *東京新聞=通常国会始まる 国の針路を誤らぬよう
さて首相の施政方針演説(1月24日)の特色は何か。 (1)演説のキーワードとなっているのが「可能性」である。可能性についてどういう文脈で指摘しているのか、その事例を以下に紹介したい。
・「不可能だ」と諦める心を打ち捨て、わずかでも「可能性」を信じて、行動を起こす。・日本の中に眠る、ありとあらゆる「可能性」を開花させることが、安倍内閣の新たな国づくりだ。 ・創造と可能性の地・東北=2020年には、新たな東北の姿を、世界に向けて発信しよう。・復興は新たなものを創り出し、新たな可能性に挑戦するチャンスでもある。 ・元気で経験豊富な高齢者もたくさんいる。あらゆる人が、社会で活躍し、その「可能性」を発揮できるチャンスをつくる。そうすれば、少子高齢化の下でも、日本は力強く成長できるはずだ。 ・全ての女性が、生き方に自信と誇りをもち、持てる「可能性」を開花させる。「女性が輝く日本」を、共につくりあげようではないか。 ・若者たちには無限の「可能性」が眠っている。それを引き出す鍵は、教育の再生である。 ・世界に目を向けることで、日本の中に眠るさまざまな「可能性」にあらためて気づかされる。 ・高い出生率、豊富な若年労働力など、成長の「可能性」が満ちあふれる沖縄は、二十一世紀の成長モデル。沖縄の成長を後押ししていく。 ・今年は、地方の活性化が、安倍内閣にとって最重要なテーマであり、地方が持つ大いなる「可能性」を開花させていく。 ・地方には、特色ある産品や伝統、観光資源などの「地域資源」がある。そこに成長の「可能性」がある。地域資源を生かして新たなビジネスにつなげようとする中小・小規模事業者を応援する。
<安原の感想>なぜ「可能性」にこだわる? 「可能性」への前例のない執着ぶりはなぜなのか。「可能性」にこだわることが間違っていると言うのではない。それにしてもこだわり方が異常とはいえないだろうか。首相は施政方針演説で以下のように力説している。 ・元気で経験豊富な高齢者もたくさんいる。あらゆる人が、社会で活躍し、その「可能性」を発揮できるチャンスをつくる。そうすれば、少子高齢化の下でも、日本は力強く成長できる。 ・全ての女性が、生き方に自信と誇りをもち、持てる「可能性」を開花させる。「女性が輝く日本」を、共につくりあげようではないか。 ・若者たちには無限の「可能性」が眠っている。
老若男女を問わず、一人ひとりが「力強い成長」の「可能性」を求めて全力疾走せよ!と号令を掛けている光景が浮かび上がってくる。まるであの60年以上も昔の敗戦と廃墟のなかで立ちすくんでいた惨めな姿を連想させる。21世紀の今、時代は大きく変わったのだ。首相が号令を掛ければ、日本国民が一丸となって疾走するとでも思っているのだろうか。そうであれば幼稚にすぎるのではないか。首相は自己を「独裁者」と勘違いしているのかも知れない。これでは失笑するほかない。
(2)演説のもう一つのキーワードは積極的平和主義である。以下のように指摘している。
・先月東京で開催した日本・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議では、多くの国々から積極的平和主義について支持を得た。ASEANは、繁栄のパートナーであるとともに、平和と安定のパートナーである。 ・中国が、一方的に「防空識別区」を設定した。尖閣諸島周辺では、領海侵入が繰り返されている。力による現状変更の試みは、決して受け容れることはできない。引き続き毅然(きぜん)かつ冷静に対応していく。新たな防衛大綱の下、南西地域をはじめ、わが国周辺の広い海、空において安全を確保するため、防衛体制を強化していく。 ・私は自由や民主主義、人権、法の支配の原則こそが、世界に繁栄をもたらす基盤と信じる。その基軸が日米同盟であることはいうまでもない。 ・在日米軍再編については、抑止力を維持しつつ、基地負担の軽減に向けて、全力で進めていく。 ・今年も地球儀を俯瞰する視点で、戦略的なトップ外交を展開していく。中国とは残念ながら、いまだに首脳会談が実現していない。しかし私の対話のドアは常にオープンである。韓国は基本的な価値や利益を共有する、最も重要な隣国である。大局的な観点から協力関係の構築に努める。
<安原の感想>積極的平和主義の落とし穴 安倍首相は積極的平和主義を唱導している。「積極的平和主義」と「平和主義」とはどう異なるのか。従来から重視されてきた平和主義は、軍事力の支えに頼らない平和の構築をめざす政策である。現行平和憲法の前文、9条などにその理念が盛り込まれている。日米安保条約とも両立しない平和理念である。 一方、積極的平和主義は日米安保体制下で米国と一体となって戦争に協力するという姿勢である。あるいは日本が独自に対外戦争を仕掛けるという含みである。分かりやすく言えば、安倍首相一派は戦争屋集団と名づけることもできる。戦争のための「抑止力の維持」を重視しており、決して非戦、反戦を唱導しているわけではない。だから積極的平和主義は誤解を誘導する用語であり、我ら庶民の一人ひとりとしてはその悲劇の落とし穴にはまらないように用心したい。警戒心を高めたい。
*「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です
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