ウクライナ問題で、米国は従来と違う戦略を取っているようだ。これまでロシアは豊富な天然ガスの供給先としてウクライナやドイツなど欧州圏へエネルギーを政治的な切り札として用いてきた。ところがそこに新たな変化が生まれている。ここ数年の間に、米国内で莫大なシェールガスが採掘可能になったからだ。
ニューヨークタイムズは本日付で'U.S.hoping gas boom will thwart Putin'(米国の天然ガスブームがプーチンの野望を妨げるだろう)という見出しの記事を出している。ロシアの天然ガスの供給先の一位はドイツ、二位はウクライナだ。しかし、ロシアが政治的な取引材料に天然ガスを使うなら、米国には自国の天然ガスを欧州やウクライナに提供する用意があるとほのめかしている。ウクライナが消費する天然ガスの6割はロシアから輸入している。だが、ニューヨークタイムズによると、米エネルギー省は来年の2015年以後、エネルギー企業にシェールガスを輸出する許可を出す方針だという。これが米ロの世界戦略を変えていく可能性がある。
実は今、米国はメキシコ湾岸に新エネルギーの輸出基地を着々と建設している。これまで輸入する施設だったものを急ピッチで方向を逆にして輸出用に作り替えているのである。これらのエネルギーは欧州ばかりか、拡大されるパナマ運河を通ってアジアにも来るかもしれない。実際、日本の商社やガス会社も輸入の準備を進めている。
ところでこのシェールガスは新しいガスではなく、従来の天然ガスである。ただし、過去に採掘していた地層とは違った頁岩(シェール)という特殊な薄くて剥がれやすく、しかも固い岩盤の隙間にたまっており、取り出すのが難しかった。それが技術革新によって採掘可能となり、米国はエネルギー戦略を大幅に書き直すことになった。なぜなら世界一の資源大国になるであろうからだ。頁岩にたまっているのは石油もあれば天然ガスもある。今、テキサスではあちこちにシェールガス、シェールオイルの生産拠点があり、衛星からその様子を見ると銀河のように赤々と輝いている。実際に訪れてみると、荒野のあちこちに試掘の炎が上がっており、その様子はまさに中東の感じがあるのだ。
ただし、シェールガス、シェールオイルの掘削技術では化学物質を周辺に拡散してしまうことから、環境負荷があるという指摘もある。化学物質は頁岩の中に隙間を開ける時に、いったん作った隙間をふさがないための工夫として砂に混ぜてゼリー状にして高速で頁岩中に挿入しているのだが、採掘企業によって化学物質の構成が異なっている。未だその影響については未知数のようだ。米国は、このフラッキングと呼ばれる新技術で環境を汚染しない方法を確立し、情報公開することを環境汚染に憂慮する米市民団体などから強く求められている。
■シェールガスの掘削法
すでにテレビでも報じられているが、シェールガスは垂直に穴を掘り進み、頁岩に到達したら、そこでパイプをゆるやかなカーブを描きながらつなぎ入れて水平方向に伸ばしていく。その後、パイプの周囲を破砕して亀裂を多数入れ、気体の通り道となる細い穴を無数に開ける。化学物質を砂に混ぜてゼリー状にして水圧で岩の中に送り込むのはこの時できた穴が再び地質の圧力でふさがるのを止めるためである。この細い穴から岩の中にたまっていた石油やガスが染み出してきて気圧の低い地表へ向けてパイプをさかのぼっていくのである。いったんこの仕組みができれば数十年間、ガスや石油がちょろちょろと染み出し続けると見られている。地上の施設で地下のパイプ内の圧力を管理して、生産を止めたり増やしたりできるのだ。
テキサス州やルイジアナ州など米南部には昔からガスを移動させるためのパイプラインが地中に縦横に伸びており、生産したガスやオイルをスムーズに消費地や輸出港に移動させるインフラが整っている。これがシェールガスが埋蔵されているとわかっている他の国々が未だ追随できない米国のインフラの強みとなっている。
以下はシェールガス業界によるCGを使った掘削方法の説明である(業界のPRだから、環境問題はないと歌っている)
http://www.youtube.com/watch?v=CM8Lh7SAm6A
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