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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年03月08日15時10分掲載
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国際
ウクライナとシェールガス 2 〜米国の飴と鞭〜
今日のニューヨークタイムズはシェールガスを外交の武器にせよ、という趣旨の社説が掲載されていた。もちろん、ウクライナの問題で、ロシアへの対抗措置ということがある。
しかし、一読するとニューヨークタイムズはその見出しとは裏腹に、慎重なトーンが強く感じられた。つまり、シェールガスの輸出には年単位の時間を要することや、外交の武器にはなるが特効薬というわけではなく、効果は限定的であることなどだ。さらに米エネルギー省が輸出を承認したとしても実際に輸出をするのはエネルギー企業や商社などの民間企業であり、売り先も価格も販売量も彼らが決めることになるということにも触れている。我々は独裁国ではないからな、と書いている。
この慎重姿勢の裏にはオバマ政権の米国内の経済政策も関係していると筆者は推測した。シェールガス、シェールオイルの埋蔵量は莫大にあることはわかっている。しかし、急速に輸出を拡大すると、需給関係のバランスが激変し、価格が高騰する恐れがある。もし価格が高騰したら、オバマ政権の国内政策に悪影響を及ぼす可能性もある。
それはオバマ政権が大不況が始まっていた2009年の政権発足以来、米製造業の国内回帰を進めてきたことだ。中国の人件費の高まりや米国内で見込める需要(3億数千万人の人口と、日本に比べて若年層が多く存在)などから、将来の潜在的消費地、米国で製造業が少しずつであれ力を取り戻しつつある。特に南部に新たな工場群が建設されている過渡期にある。メキシコ湾岸が新たなデトロイトになろうとしているのだ。米国の製造業の競争力を高める上で安価のエネルギーは欠かせない。だから、これら製造業の声を無視することができないし、オバマ政権は中流層の回復の条件を製造業の復活に見ており、そのコアには100年維持できるシェールガス、シェールオイルという新エネルギーがある。この化石燃料で時間を稼ぎ、その間に代替エネルギーを開発しようというのである。
シェールガスはフラッキングという画期的な技術によって採掘可能となった。そこでひとたび技術が確立し、儲けになるとわかると長年コツコツベンチャー企業として取り組んできた企業群の中に、次々と新規参入者が入ってきた。その結果、シェールガスの掘削施設を作りすぎて価格が暴落し、エネルギー企業が投資額を回収できず倒産したり、経営難に陥ったりする事態に至った。その結果、米エネルギー業界はシェールガスの掘削施設の稼働総量をなんと4分の1に激減させた。業界をあげて75%の生産カットをしたのである。こうして生産規模を縮小し、価格がようやく投資に見合うレベルにまで復活してきた事情がある。つまり、シェールガスの価格はこのように需給関係で大幅に変動する。
米製造業はシェールガスの輸出に当初は反対の姿勢を強く打ち出していた。しかし、シェールガスを採掘するエネルギー業界のロビイストたちが輸出してもさほど価格は上がらないと説得して、ようやく議会は輸出を承認することになった。というのは輸出量が増えても、先述の通り生産施設のキャパシティは大きいからだ。さらに価格が上がると、生産量も拡大するという市場の原理が働く。とはいえ、政治のレベルと民間の商行為との間には一線があり、たとえ国務省が欧州やウクライナへの輸出を決めたとしても儲からなければこの事業は進まない。それに輸出決定から実現までのタイムラグもある。ニューヨークタイムズの慎重さにはこのような配慮があったのだろう。
もう一つ上げれば今、欧州連合と米国は自由貿易協定の交渉を再開したばかりにある。基本的にシェールガスの輸出は米国と自由貿易協定を結んだ国には承認されている。欧州連合の中には天然ガスをロシアに依存しているドイツを中心に、天然ガスが欲しい多くの国々がある。そして、現在進行形の欧州連合との自由貿易協定の交渉である。経済難にある米国が欧州支援の見返りに欧州市場にもっと参入したいと思うのも無理はなかろう。しかし、欧州人たちは遺伝子組み換え作物を商品にするような米企業のやり方が基本的に好きではないのだ。だから、ニューヨークタイムズが<米国はシェールガスを外交の武器にせよ>、というのは対ロシアばかりではなかった。対欧州連合であり、あるいは明日の対日本でもあるかもしれない。天使が仮面を取ったら、アメリカ人が舌を出していた。
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