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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年03月12日14時12分掲載
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文化
【核を詠う】(145)福島の歌人グループの歌誌『翔』から原子力詠を読む(2) 「原発の火葬を思ひ原子炉の建屋の残骸箸もてつまむ」 山崎芳彦
2014年3月11日の今日、筆者はパソコンの前に座って本稿を書いている。あの日、2011年3月11日にもこの場所にいて、突然の地震の、かつて経験の無い衝撃に驚き、あわててパソコンを切り、その間にも激しくなる揺れに尋常でない事態を考え、必須と思われるものをバッグに詰め、厚手の上着を身につけ、ポケットに詰められるだけの食品を入れ、ペットボトルの水を持って、家を出た。茨城県南部の農村部のわが家は周辺が水田であり、家の近くの農道に、立っているのも難しいほどの揺れのため、座り込んで一人家を見ていた。しばらくすると、家の屋根のぐしの辺りが崩れ始め、屋根の上を瓦が転がり落ちだすのが見えた。
しばらくして揺れが小さくなってから家に入り、テレビをつけると東北各地の様子が映し出されていた。衝撃的な映像だった。 揺れが大きくなると外に出、また様子を見て家に入るを繰りかえして、食器棚の散乱や、本棚から飛び出した本の散乱などはそのままに、立ちつくしてテレビを見つづけた。(その頃、妻は仕事先で、避難すると同時に、通り抜けたばかりの出口が壊れ、重いものが落下してきたと、帰ってきてから聞いた。「誕生日が命日になるところだった」と。)
そして、やがて福島原発についての情報が、こまぎれに伝えられ始めたが、何が起こっているのか、どうなるのかについてわかるほどのものではなかった。余震が繰り返し、布団に入らず一夜を過ごしながら、テレビの情報で、地震の被害、大津波による被害、そして福島原発事故について見続けた。・・・。
その日から満3年を経て、今、福島原発事故はなお進行中であり、その被災者の多くは言い知れない苦難の現実の中にあり、言いようのない不安をいだきながら日々を過ごしている。同時にそのような状況に懸命に立ち向かっている人びとへの、言葉だけではない共同の力を寄せ合うことに努めなければならないと思う。原子力、原発の問題は決して他人事ではありえない、そのような国、社会にだれもが生きているのだから、「核と人間はともに生きられない」ことを踏まえて、脱原子力社会の、脱原発・原発ゼロを実現しなければならないと、切実に思う。政府、東電をはじめ原発推進勢力は、被害者の苦しい現状に、自らの責任を避けるだけでなく、より過酷な状況を招くような許しがたい対応ぶりである。福島の現状へのまともな対応なくして、原発再稼働を進めているところに、その本性、本質は明らかだ。
いま読ませていただいている福島の歌人の歌誌『翔』の作品を読みながら、そこで詠われていることの真実を、筆者なりのこれまでの体験や教えられてきたこと、学んだことを通して受け止めようと改めて思っている。
◇『翔』第37号(平成23年11月27日発行)抄◇ ▼橋本はつ代 セシウムに脅ゆる心に灯を入れて夜ごと真白き夕顔の花 放射能降り積りたる古里へひたひた寄する吾が思ひなり 遠目にも団扇の如き椎茸のすでに盛りを過ぎし地を訪ふ 放射能の除染を待ちてカサブランカの花移さむかわが山畑に 原発へ怒り向けゆく妹をなだめむとして余る吾なり 原発の事故ゆゑ病みて点滴につながる妹は捕はれ人ぞ
▼児玉正敏 南瓜など今年は食へぬと妻が言ふ傍にせつせと苗植うるわれ わが胸もベントする日が近づきぬ圧が上がりて破裂寸前 町内の清掃中止の回覧を作りて出づる深き溜息 孫か問ふ雲はどうして落ちないの雲はちぬが威厳地に落つ
▼波汐国芳 (・・・原発の町「大熊」を駆くる駝鳥あれば) 死の街を駆くる駝鳥よ原発の事故の収束見えてはこぬか 電力のОBなれば反原発の歌を詠みつつ罵られしか 反原発なぜ歌ふかと問ふ友の口が火を噴く事故前なりき 放射能運んでくるなと疎まれし福島牛の背翳り見ゆ 福島産野菜も果実も売れざるを農の死に息 友の死に息 福島は掛替へなきを名産の梨しやりしやりと放射能食む 原発歌 論評紛ひを詠むひとら被爆地福島に住んでみられよ 原発を容れし福島 原発を容るる石棺と気づかざりしや
▼伊藤正幸 アメリカの傘のうちなるニッポンのわが家の暮らしも原発傘下 首都圏へ向かふ原発の鉄塔の繋がりをりて囚徒にも似つ 東京の飛び地かここを人住めぬ町に変へたるトーキョウ原発 過ぎ来しを原発銀座と揶揄されし被爆の町に人影あらず 原発を逃れ来し友は原発を遠見るごとく昔を語る 原発の火葬を思ひ原子炉の建屋の残骸箸もてつまむ 放射能帯びたる雨に濡れそぼつ白あぢさゐはわが脳かも この町は放射能汚染に霞みつついつしか吾も流人となるも セシウムが身ぬちに入るを半減期三十年を生きてもみむか 原発の放射能おそれ家籠る吾を誘ふかうぐひすの声
▼三瓶弘次 欲得の坩堝と化せし原発の奥院までさらけ出さむか
▼橋田則彦 わが街の東のそらは常になく明るしされど人ら住まずも 今日は先づ草刈りをせむ炎天の下ブンブンと機を唸らせて
▼紺野 敬 わが姪よ福島産のさくらんぼ皮剥き与ふ其の幼子に 公園の隅に積まれし震災の瓦礫が放つ腐敗の臭ひ
▼古山信子 放射能総身に受けて罌粟の花炉心溶融思はせて咲く 避難地区線引き外のわが町も幼子逃げよと若葉ささやく 友作る野菜は並べて上出来と食べる 食べない 迷ふ日日なり 放射能逃れて越後に避難せし娘を想はする紫陽花の雨 日本海の潮風両手に受け止めて避難の孫と渚を歩く 駆けて来る少女は海の妖精か避難せしこと暫し忘れて
▼岡田 稔 海水を被りし田畑見よと指す男のめぐりの放射線量 想定の枠越えたりと言ふ地震に失ふ物の連鎖始まる 放射能に外の遊びもままならぬ風の子と今日県外目指す ままごとに放射線量はかる子の翳りなき顔素直なる顔 虹雲を見むと集まる六つの目暗き車の窓を泳げり
▼御代テル子 原発の試行錯誤の修復に日本の英知が試されてをり 目に見えぬ放射能にぞ脅えてか鴉の鳴くを我も危ぶむ 身籠れる孫が迎へむ明日のため原発事故の収束祈る
▼三好幸治 原発の燃料棒は不気味なり妖怪の性をいま晒さんか 原発は難問・奇問を振り翳し事故に付け込み人間を試すか 原発は希望・絶望・光・闇得体の知れぬ振り子時計か 風により神出鬼没の放射能警戒区域は他人事ならず 近視眼ならむ科学も文明も原発事故は想定外か 文明の光か闇か原発が古里人に翳りを落とす 原発にのめり込みゆく媚薬らし平和利用とやらの美名は 電力の原発依存を戒むる天の啓示か原発事故は 「火達磨の我を見よ」とぞ太陽は核の火遊び諌め居らんや
▼鈴木紀男 ユッケなら命かけても食べますか汚染されたる牛の末路を 悪しきこと何でも隠す体質の変はらねば来る次の大地震 物陰より雀をねらふこの猫も原発事故の被害なるべし
▼上妻ヒデ 八十路すぎまだ生きたしと思ひつつ放射能降るにをののく吾ぞ
▼波汐朝子 わが庭のさつきの花もセシウムを吸ふや怪しく冴ゆるくれなゐ わが庭の枇杷のたわわに実れども黄の怪しさに鳥らも寄らず 放射能帯ぶると知りて丹精の青菜食はねば菜の花ざかり 夕暮れの芙蓉の花の真白さもセシウム吸ふや怪しく光る 生業のりんごづくりの友翳るセシウムりんご売れざるものを 放射能入れてならぬと真夏日に窓締めゐるを何時迄続く 福島に子等も孫らも曾孫らも来るなと告げねばならぬ寂しさ この夏は福島の家に帰れぬと息子は招く那須へわれらを
◇『翔』第38号(平成24年1月28日発行)抄◇ ▼波汐國芳 原発を詠み次ぎ警鐘鳴らししに叶へられざりき無力なるゆゑ 冬がもう来てゐむ庭の夕まぐれ放射能が樋の辺に立つてをり 被曝地の福島逃るる人の脛ひらひら稲妻に閃きて見ゆ 下北なる会津藩士に重ねむか原発難民に吾も連なるを 大津波・放射能が削ぎし福島を奥のへつりに視てゐるわれか 「禁断の木の実」原発に重ねつつ人類の果てを思ふ夕べや 電車・飛行機いまの儘でいい 文明の加速は滅びへの径縮むるを 原発事故に原発禁止を言ふ人ら百年昔へ戻つてみんか
▼三瓶弘次 幼子を抱へし若きら放射能に慄き探す疎開地いづこ
▼橋本はつ代 放射能影をひそめよ被災地のかの里山はわたしの宝 セシウムの高き枯野に咲きいでて吾を招くか撫子の花 雪の無き楢葉離れて豪雪地会津避難のはらから如何に 被災地のわが庭の蜜柑口にして風評被害くつがへさむか 除染などほどこす術もなき沼辺新平の歌碑ひそやかに建つ
▼児玉正敏 ベクレルやシーベルトとふ妖怪に追ひ回さるる畑よ怒れ 直売所のきのこ売場は人まばら出荷停止の引き波強し わが街は原発事故から七十キロ幼子連れて西へ行く姪 放射能は姿を見せぬ占領者わが耕作の自由を奪ふ 消費者は見えぬ津波に足とられ古米求めて東へ西へ ふくしまのほんたうの空と光る川取り戻すまでわれらは生きむ
▼古山信子 放射能逃れて避難の雪の道芒野分けて又逢ひに行く 福島の地産の物が疎まれて北海道展賑はひ見せる 除染して草を削りて木を切りてそれでも帰れぬ幼き孫ら
▼薗部 晃 わが孫ら離れて住めば甘柿の食む者なしに熟れ落つる音 つくつく法師の声を聴きつつつくづくとセシウム汚染田うらめしく見る 放射能の汚染田なれど仮住をば造らむとして地ならしの音 原発に追はれし人の住まひとふ放射能の汚染田に建つ
▼岡田 稔 小声にて避難を拒む老人の庭の池には小魚泳ぐ 放射能浴びし苺を啄めば火の鳥ならむ椋鳥の嘴
▼三好幸治 盆明けに流せぬ灯籠原発の事故の被災地福島照らす 鎮魂のための花火よ精霊を放射能なき天に送れよ セシウムの迫り来るなか幼子の声はすれども姿の見えず
▼鈴木紀男 窓開くれば放射線は入りくるとふに我は構はず開けたまま寝る 駐車場に乗り捨ててある自転車の高校名の白く光れり 農の歌詠み続けたる先輩の歌口遊むこの夕べなり
▼波汐朝子 人住まぬ荒地となりしこの里にひときは赤き柿の実なりき 人居らぬ飯館村の農哀れ田んぼも畑も草に隠れて 乳癌の術後二十年放射能免疫なるぞと庭に下りたり 草抜かむと庭に下りたる吾を怒鳴る夫は鬼の顔さながらに 去年迄は窓開け放ち木犀の香りを居間にみちびきしものを 福島の観光地なべて閑古鳥鳴くといふなり何時迄続く 子らが住む東京迄も放射能あるとし聴けば心痛むも
次回も『翔』の作品を読み続ける。 (つづく)
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