いったいイラク戦争とはなんだったのか。BBCによると、イラクでイスラム原理主義勢力が北方の町、モスル(Mosul)を制圧後、南下してサダム・フセインの郷里チクリット(Tikrit)に達した。バグダッドから北に150キロ。
この勢力はthe Islamic State of Iraq and the Levant (ISIS)だという。すでにMosulが制圧された時は50万人もの避難民が出ている。
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-27800319#TWEET1154256 米国は戦費負担の軽減をめざし、自衛隊の活動に期待している。だが、その前に小泉政権がイラク戦争を支持した事実を日本政府はどう総括するのだろうか。日本国民にまず答える必要がある。
その一方、米国が武器支援をしてきたシリアの反政府勢力との戦争で政権が弱体化したシリアにイスラム原理主義勢力が入り込み、シリアを拠点として隣国のイラクに攻め入ってきている。米国の戦略も混乱を来している。秩序回復を目指していたイラク政府の敵(イスラム武装勢力)を結果的に支援しているのだ。
米国の駐シリア大使だったロバート・フォード(Robert S.Ford)氏は今日のニューヨークタイムズへの寄稿(Arm Syria's opposition)で、2月に駐シリア大使を辞職した経緯を述べている。彼はこの寄稿の中で、米国のシリア政策が失敗したことを認めている。フォード氏によればシリアは今、アサド派、自由シリア軍、イスラム原理主義勢力の3大勢力がせめぎあっている。自由シリア軍はイスラム原理主義勢力とたもとをわかっているとしている(しかし、以前の報道では自由シリア軍に支援した武器がイスラム原理主義勢力に流れていた)。フォード氏は自由シリア軍に武器支援などのテコ入れをして、自由シリア軍がアサド派とイスラム原理主義勢力を押さえる構図にすべし、と言っている。しかし、アサド大統領のバックにはロシアとイランがついているし、そう簡単にいかないだろう。そして、フォード氏はこれ以事態が悪化すれば米軍が直接、シリアの地に足を踏み入れることになると警告している。
米国民がシリアに介入する大義はシリア人の人命や安全ではない。シリアがテロリストの温床になった場合、そこから欧米がテロ攻撃の危険にさらされることにある。つまり米国にとって自衛の戦いと位置付けられている。だから、シリアでもイラクでも米国が介入を続けている。米国など欧米諸国がテロの標的になっているのは湾岸戦争以来、中東に軍隊を駐留させているからである。
ビン・ラディンのグループが2001年9月11日に同時多発テロをしかけた理由もそうだった。湾岸戦争で多国籍軍に協力した彼の祖国サウジアラビアに、湾岸戦争集結後も米軍が駐留し続けていることがアルカイダによるテロの理由だった。異教徒の軍隊がアラビア半島にいることが神への冒涜であると考えられたのである。皮肉にも同時多発テロ事件以来、米軍はますます中東に軍隊を駐留することになる。そのことがさらにテロを活性化させ、イラクではもはや日常茶飯事の風景となってしまった。しかし、オバマ政権になって米国はイラク政府にあとのことはまかせて米軍の撤退を決めた。ところが、イラク政府軍にはイスラム武装勢力に抗する力がないことが判明する。最近、マリキ首相がオバマ大統領に何とかしてください、と泣きついたばかりだ。実際、米軍のシリアでの誤った戦略の結果、イラクは崩壊の淵に来ている。
このことは米国においては米国本土と米国人が危険にさらされるケース、つまり日本と安全保障条約で結ばれた米国の安全に関わるケースと考えられている。いずれは日本の安全のため、日本の自衛のためという名目になるだろう。実際には中東に軍事的に関与すればするほど世界中の日本人が危険にさらされるのだが・・・。自衛隊が常駐すれば今後、殺されたり誘拐されたりする日本の民間人ももっと増えるはずである。だが、日本政府にとっては日本の民間人がテロの対象になることで自衛隊を中東に派遣し続ける正当な理由になる。恐ろしいことだが、惨禍が拡大するほど集団的自衛権の意義が出てくるのだ。最初は無理目でもやっているうちに国民は戦争の始まりとなった初期のことなど忘れてしまう、というわけだ。そしてそのことでイスラム原理主義グループが活性化し、報復のスパイラルに入る。
ところで、もし日本の集団的自衛権行使が容認された場合、米軍は自衛隊に何の任務を課することになるだろうか。
・自由シリア軍の軍事テコ入れとシリア東部での戦闘 ・イラク西部・北部におけるイスラム武装勢力との戦闘 ・バグダッドの防衛
フォード氏の寄稿から推測すれば将来、最悪のケースとして、こうした任務に米軍が乗り出す可能性があると考えられる。シリアとイラクの両国にまたがる闘いは5年から10年単位の長期にわたるだろう。前回の日米間の戦争が4年で終結したことを思い出せば、中東での戦争は相手が国家ではないだけに、だらだらといつまでも終わりがない。そしてこの戦争の詳細はもちろん特定秘密保護法の対象となり、特定秘密に指定され、NHKを中心とした統制された報道に終始することになるだろう。そこで問題が生じても60年間秘密を維持できる。さらに、テロのグループが国境に縛られない以上、自衛隊もイラクやシリアだけでなく、パレスチナ、イエメン、北アフリカへと関与を拡大させていくことになるかもしれない。
自衛隊が関与する場合、その長期にわたる財政負担と医療費も検討する必要が出てくるだろう。日本の税金も上がり、年金は減らさざるをえないだろう。だが、米国の期待はそこにある。日本が米軍の負担を2割でも3割でも軽減できればオバマ大統領も米議会の予算審議で心労が軽くなるわけである。財政破綻の淵にあるオバマ政権は戦費をもはや1ドルでも増やしたくないのである。だからケネディ大使も日本の集団的自衛権行使に賛意を表明している。だが多くの日本人はこう思い始めている。日本人とはいったい何なのか、と。
■イラクで反政府勢力がテロ活動を活性化 2008年以来最大 今年8000人以上が死亡 米軍が武器支援開始 イラクは集団的自衛権の領域か?(昨年の記事から)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312270959575 イラクでは今年8000人以上がテロと内戦で亡くなっているとニューヨークタイムズで報道された。英国のガーディアンも2008年以来最大規模になっていると報告している。
http://www.theguardian.com/world/2013/dec/25/bombs-christians-baghdad-church-service
上のガーディアンの記事はクリスマスにバグダッドのキリスト教徒のコミュニティが狙われて37人が死亡した事件である。犯人は不明。記事は丁度イラク西部で反政府勢力の掃討作戦を行っていたことと関係があるのではないか、とのリードを伝えている。
イラクの西には今、政府軍と反政府軍が激しく戦闘しているシリアがある。このシリア内部にアルカイダグループが浸透し、シリアを拠点にイラク国内に攻撃をしかけているという説もある。ニューヨークタイムズによればイラクのヌリ・カマル・アルマリキ首相が11月、オバマ大統領を訪ね、軍事支援を要請したとされる。
米軍撤退後はそれまで訓練してきたイラク軍が国土の防衛をつかさどるはずだったが、これらの記事は米国とイラクの安全保障構想が失敗になりつつあることを示している。
もし米軍が軍事介入を再開した場合、集団的自衛権の範囲が東アジアを超えて広く解釈されれば、イラクも地域的には自衛隊の活動領域となりうる可能性がある。ニューヨークタイムズによれば米軍は現在、イラクのマリキ首相の請願に基づき、イラク西部に向けてミサイルや監視用無人飛行機ドローンを送っているとされる。シリア東部からイラク西部にかけて、米国が要請すれば自衛隊がイラクでアルカイダ討伐作戦に協力する可能性もあるかもしれない。だが、もしそうなった場合、日本人が世界のどの地においてもアルカイダグループから報復テロにあうリスクが生まれるだろう。
■国連の統計 UN Casualty Figures for November 2013
http://www.uniraq.org/index.php?option=com_k2&view=item&id=1394:un-casualty-figures-for-november-2013&Itemid=633&lang=en
’The entire figure of civilians killed between January and November 2013 is 7,157 in addition to 952 Iraqi Security Forces.’ 今年の11か月間(1月〜11月)の間のイラク人の民間人の死者は7157人、イラク軍は952人。これを足し合わせると8000人を超える。大義のない戦争であるイラク戦争。開始から10年経っても治安はまったくよくなっていない。米国は首相の靖国神社への参拝に苦言を呈するのはいいが、イラク戦争の責任を誰がどう取るつもりなのか。被害を受けた無実の人々への補償をどうするのか。
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