日本のメディアのイラク情勢報道はもっぱら宗教的対立からの分析に集中している感がある.しかしイラクにも現マリキ政権にも欧米にも宗教のいずれかの側にも与しない主張が存在している。ブログ「No more Capitalism」が紹介するイラク労働運動からの声明を、同声明を紹介した小倉利丸さんのコメントとともに同ブログから転載する。(大野和興
以下に訳出したのはイラクの労働組合、Federation of Workers' Councils and Unions in Iraqの代表、ファラー・アルワンによる声明である。日本のメディアではイラク国内の左派の動向はほとんど伝えられていない。この声明にあるように、イラクの大衆運動のなかには、その影響力は決して大きいとはいえないのではないかとはいえ、宗教的な対立のいずれにも与せず、また、欧米にも、現政権(マリキ政権)にも与しない、世俗的な左派とでもいうべき主張が存在していることは重要である。また、最近のいわゆる宗教原理主義やナショナリズムがもたらす不毛で悲劇的な暴力の応酬をみるにつけ、「階級的な団結」という今や忘れさられがちな民衆の団結の回路が紛争を回避する上で実は有効な一つの選択肢である可能性があることにもっと注目すべきだろう。もちろん、日本のように官僚主義とナショナリズムと企業利益に従属する大労組に期待できることはないが、このことと、階級意識とは何の関係もないことを忘れてはならない。階級意識の再生が国境を越えて確立されることは、国家間の紛争と宗派間の対立を乗り越える重要な鍵を握っているかもしれない。勿論これだけが唯一ではないにしても。以下の声明はこうしたことを示唆している。(小倉利丸)
イラクにおけるモスルその他の諸都市は劇的で危険かつ破滅的な変化を経験している。 2014年6月16日
メディア、とくにイラク政府と西側諸国と同盟関係にあるメディアは、「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」とISISがいくつかのイラク諸都市を支配下におさめたことに焦点をあて、その読者たちを怒りに駆らせてきた。たしかに、ISISのテロリストグループは、イラクの武装グループの中に存在し、最近の出来事でのその影響力は明らかである。しかし、イラクの人々は一般に、中央部であれ南部であれ、あるいはもはや政府の支配下にはない地域、いわゆる「スンニ」地域あるいは「スンニ・トライアングル」――情報機関、とりわけCIAがイラクの宗派主義を操作する計画の一環として考案した概念だが――であれ、ISISを否定していることもまた事実なのである。同時に、イラクの人々は、一般に、民族-宗派的な基盤の上に成り立っているために、マリキの体制とその政策を、拒否している。これは、政府が一般民衆を政治的な敵とみなす一方で、とくに、宗派的な差別が集中している都市部でいえることである。
武装グループの手にいくつかの都市が落ちたということは、そこに暮している人々の夢をかれらが体現しているということではない。宗派主義からの自由という要求ははっきり存在しており、直接的でもある。彼らは非暴力の座りこみなどでこのことを表明してきたが、武装テロリストグループは、こうした環境を権力奪取に巧みに利用した。マリキの政策が反動的で差別的であるのに対して、差別と宗派主義に反対する民衆の要求は公正であり正しく、だからマリキの政策を拒否したのだ。同時に、ISISの諸都市と民衆への支配は、日常生活と社会への深刻な脅威となっている。
民衆的な要求は、反動的な諸勢力、つまり、アルカイダのテロリスト、バース党、部族の指導者から自由な戦争行為を提唱するシーア派の宗教指導者や軍事的政治的な利益を達成してきたクルドの民族主義諸勢力に至るまで、政治的な権力のパイをこれらの間で分け合うための道具に姿を変えてきた。民衆の意志は無視される一方で、これらのことは全て、支配的な政治的諸勢力の意志に従ってイラクが明確に分断されはじめていることを示している。
イラクの解体から利益を得る湾岸地域の諸勢力、とりわけ、イラン、サウジアラビア、トルコは政治的な利益を得る独自の方法をとりはじめている。その間ずっと、米国は――当初からこの問題の主要な元凶であったわけだが――どのような選択肢をとろうとも介入につながる準備をしてきた。オバマ大統領はこれまで、最近の事態について言及する際に、イラクの石油への彼の関心を二度にわたって表明した。彼はISISの支配下にある200万人の民衆やISISのギャングどものためにモスルで自殺を余儀なくされはじめた女性たちの運命についてはいかなる関心も示さなかった。イラクの労働者階級は、クルドの北部から最も遠い南部まで、全国に存在する共通した勢力である。まさにこの労働者階級の存在とこの階級が生き延びられるかどうかは差別の根絶とイラクの人々の団結にかかっている。労働者階級はイラクの崩壊と分断を終らせることができる唯一の勢力である。
我々は、米国の介入を拒否しオバマ大統領がその演説で、石油について関心を示し民衆への関心を示さないという不適切な演説に抗議する。我々はまた、イランの厚かましいお節介に断固として反対する。
我々は湾岸諸国、特にサウジアラビアとカタールと彼らが資金援助する武装グループに反対する。
我々はヌーリー・アル・マリキの宗派的で反動的な政策を拒否する。
我々はまた、武装テロリストのギャングや民兵のモスルその他の諸都市の支配を拒否する。我々は差別と宗派主義に反対するこれら諸都市の民衆の要求に賛同し支持する。
最後に、我々は宗教機関の介入を拒否し、彼らによる無差別な戦争行為の呼びかけを拒否する。
我々は民衆の利害を代表する者たちを支持し、危険で反動的な攻撃に直面している彼らを力づけることを目指す。我々は、悪化しているこの状況を食い止め、同時に、湾岸諸国の介入を食い止めるような明確な国際的な立場がとられるよう要請する。
ファラー・アルワン Federation of Workers' Councils and Unions in Iraq
この声明はJadaliyyaにアラビア語で掲載されアリ・イッサが英訳した。 Copyright 2014 Jadaliyya ファラー・アルワンはFederation of Workers' Councils and Unions in Iraqの代表である。
出典 Published on Monday, June 16, 2014 by Jadaliyya
http://www.jadaliyya.com/pages/index/18143/on-recent-events-in-mosul-and-other-cities-in-iraq On Recent Events in Mosul and Other Cities in Iraq by Falah Alwan
http://www.commondreams.org/author/falah-alwan
http://www.commondreams.org/view/2014/06/16-3
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