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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年07月08日12時04分掲載
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文化
【核を詠う】(157) 『朝日歌壇2013年1〜12月』から原子力詠を読む(2) 「原発を笑みもてセールスせし首相この国どこへ導くならむ」 山崎芳彦
前回に引き続いて『朝日歌壇2013〜12月』から原子力詠の5〜8月の作品を読ませていただく。その前に安倍内閣が7月1日に閣議決定した「集団的自衛権の行使」と称する、この国の憲法が明確に否定する戦争・武力行使を、「憲法解釈」によって正当化する暴挙を行い、これまですでに進めて来た特定秘密保護法の制定や、武器輸出三原則を「防衛装備移転三原則」に変更したこと(防衛装備の海外移転、高性能化、国際共同開発・生産の推進などを内容とする)その他様々な準備を行ってきたのに加え、さらに閣議決定を踏まえて、たとえば安倍首相のオーストラリア訪問による防衛装備の協定調印や同盟関係形成への踏み込みなどに見られる極めて危険な動きがあるなかで、7月6日付朝日新聞の「朝日歌壇」に選者によって採られたいくつかの作品を読んでおきたい。
◇佐佐木幸綱選◇ 戦没者慰霊祭には何時も来る遺児なりし君今年は見えず (富士吉田市・萱沼勝由)
静けさは戦争をする国になる前夜と思ふ戦慄走る (三郷市・岡崎正宏)
秘密保護集団的自衛権セットなんだとやっと気付いた (光市・山本幸晴)
◇永田和宏選◇ わからへんなんぼ聞いてもわからへん平和のためにいくさに行くと (枚方市・石川智子)
戦場で君は死ねるかちちははが選びたる世の集団的自衛権 (所沢市・風谷 螢)
憲法を押しつけと言う政治家が押しつけんとする憲法解釈 (川崎市・藤村 誠)
◇馬場あき子選◇ ラーゲルの黒パンの味知る友のまた一人逝く天をば仰ぐ (枚方市・鈴木七郎)
忘るるな不戦誓うは三百十万人の犠牲のすえぞ (三原市・岡田独甫)
佐佐木氏は三首を選んだが、「集団的自衛権を使えるようにする閣議決定をめぐって、かつての戦争の傷跡を思い、未来の戦争を危惧する作が多数あった。」と、集団的自衛権にかかわっての投稿歌が多くあったことを記している。 永田氏は、「石川さん、『わからへん』のは決してあなただけではない。詭弁に近い論理のすり替えを正しく衝けるのは、市民目線からの率直な言葉だけである。風谷さんは、子どもたちの世代への責任と怖い時代への予感を詠う。藤村氏は政治の言葉への不信感。」と評している。 なお、高野公彦氏は、今回、選を休んでいる。
筆者は、7月1日の首相官邸前の抗議集会・活動に参加していたが、さまざまなことを思い続けた。 筆者は1940年12月12日に生まれた。父は職業軍人であり、憲兵であった。そして父は1940年に外地で死んだ。筆者が2歳数か月の時に外地に出たので、生きている父の顔は知らない。50歳で学習塾を始めたころから、自己紹介をする時に「僕の誕生日は、イクヨオ、イチニイチニ、と読めるがちょうどこの国が戦争に向かって、国民に号令をかけながら進んでいるときだったんだよ。」と始めることにした。そして小学生のころ、学校でいわゆる「反戦映画」が上映されるたびに、その映画の中で憲兵の非道残虐な行為が出てくるたびに、父を恥じ、俯かないではいられなかったことを塾生に語ることもあった。その時、なぜ父が職業軍人の道を選び、憲兵という職務についたのか、父が貧農の次男であり、村の有力者に見込まれて軍人の道に入り、やがて憲兵への道に誘い込まれていった時代背景についても語った。戦争、原爆、戦後の時代の変遷について、そして憲法について、塾生の年齢を考えながら話したことは多い。・・・
1960年安保闘争のことを思いながら、当時の労働運動、農民運動、青年学生運動、文化・芸術運動なども、国会議事堂、首相官邸周辺を歩きながら切れ切れに思い起こしていた。その後、74歳になろうとする現在までの来し方を思いながら、「それにしても、ここまで来てしまったのだな。」と何かしら虚しさに近い感慨さえ湧いてきて、少し慌てた。
「これからだ、まだこれからだと重ねきて七十四歳のいままた独りごつ」という歌らしいものが浮かんだ。「2014年7月1日、首相官邸前にて」と括弧付きにしてなどと思った。つられて、いくつかの歌らしいものが浮かんだのでメモをした。まだ熟さないものだが、いくつか記しておきたい。
◇2014年7月1日集団的自衛権行使容認閣議決定の日、国会議事堂、首相官邸前にて 山崎芳彦七首◇
憲法を憎む首相が「解釈権」ふりかざしてなす“壊憲”の暴挙
人間の声の届かぬ異界にて戦世(いくさよ)を呼ぶ「閣議」なされぬ
永田町は主権者を拒む異土となる「この道行くな、そこに止まるな」
人を守る戦争のありたるためしなし「生命、権利」を言うなかれ安倍よ
戦犯の祖父を愛する首相なり「国民の権利、生命」とは笑止
父の戦死(し)を知りしは四歳の夏なりき七十四歳の夏に非戦を叫ぶ
これからだ、まだこれからだと重ねきて七十四歳のいままた独りごつ
なにはともあれ、詠う者の一人として、いかに拙くとも短歌表現も非戦のたたかいのひとつであると思うので、あえて記させていただいた。
『朝日歌壇2013年1〜12月』の原子力詠を、前回に引き続いて読む。
◇2013年5〜8月の作品◇
廃棄すれど消滅せぬを明かすごと汚染土の山庭に居残る (5月6日、福島市・米倉みなと 佐佐木選)
原発反対叫びて過ぎし三十年上関の里に春は来にけり (5月6日、山陽小野田市・淺上薫風 佐佐木選)
除染などありえません移染ですセシウム静かに人間を諭す (5月6日、長野県・小林正人 馬場選)
列島のま中のくぼみ原発の集中地帯仏像あまた (5月13日、小浜市・四方幸子 高野選)
福島に生まれ育ちてひたすらに風評消さんと夫と飴切る (5月13日、須賀川市・池上恭子 佐佐木選)
フクシマやチェルノブイリは走らない暴走したのは人間である (5月13日、横浜市・森 秀人 佐佐木選)
町境県境のごと除染にも境界できて外側に住む (5月20日、さくら市・大場公史 永田選)
つづまりは孤独とう名の箱でありアパート三階十五号室 (5月20日、福島市・美原凍子 永田、馬場選)
被爆国なれども核の傘に入り核不使用の署名もできず (5月20日、西海市・前田一揆 佐佐木選)
チェルノブイリネックレスとふ手術痕各誌病むなり少女ナターシャ (5月27日、浜松市・松井 惠 馬場選)
十二頭の飼いし牛の名紙に書き仮設の室に貼れる人あり (5月27日、福島市・青木崇郎 佐佐木選)
ひたひたと海辺に立てる廃墟にて原発時に熱く沸き出す (5月27日、須賀川市・小沢美代子 佐佐木選)
原発の「アンゼン」と打てばパソコンは「暗然」と出す汚染水漏れの日 (5月27日、福島市・澤 正弘 高野選)
下北の原燃原発見下ろして安全無限の風車が回る (5月27日、三沢市・遠藤知夫 高野選)
隣町に原発ありて遠近を自慢する人悲観する人 (6月3日、いわき市・馬目弘平 佐佐木選)
旅行など行けずともよい同じ日々繰り返したかった 貴方と、もっと (6月3日、相馬市・児玉由美子 永田選)
風薫るサツキ、サザンカ、ハクチョウゲ根こそぎ掘られ除染進行 (6月17日、福島市・伊藤 緑 高野選)
「神明町は除染済みました日常の挨拶になりし切ない言葉 (6月17日、郡山市・昆 キミ子 高野選)
千日手続くがごとき日常にやがて王手のかかる日が来る (6月17日、福島市・武藤恒雄 高野選)
当たり前なんてどこにもないじゃないもう信じない当たり前など (6月24日、いわき市・岸本靖子 馬場、永田選)
ツトツトと緑の刺し子田植え済み安達太良山にND祈る (NDは「放射性物質不検出」、6月24日、福島市・伊藤 緑 高野選)
原発の事故と補償で揺れている国の首相が原発を売る (6月24日、東久留米市・田村精進 永田選)
原発を笑みもてセールスせし首相この国どこへ導くならむ (7月8日、神奈川県・堀江照子 高野選)
そこかしこまっさらの土敷かれいて他人顔なる除染後の街 (7月15日、福島市・美原凍子 馬場選)
汚染土の保管に掘った穴の底蝉の子ぽつり戸惑い歩く (7月15日、福島市・伊藤 緑 馬場選)
怖るべしチェルノブイリの廃炉まつ二十七年 コンクリの棺 (7月15日、相模原市・松並善光 佐佐木選)
東日本大震災の死亡欄とうとう消えて今はもう過去 (7月15日、東久留米市・田村精進 佐佐木選)
四十年家族と生きた庭木伐る原発憎しチェーンソー哭(な)く (7月15日、福島市・伊藤 緑 佐佐木選)
わが家まで七キロと近づく検問所にて服を着替える防護服にする (7月22日、東京都・半杭螢子 佐佐木選)
四畳半の仮設に暮し足るを知る半夏生の今日米寿迎えたり (7月29日、いわき市・佐藤美二 佐佐木選)
東京で痛感加速する風化被災地のある国に思えず (7月29日、大船渡市・桃心地 佐佐木選)
原発の稼働をせかす一派来て霊峰米山(よねやま)顔を曇らす (7月29日、長岡市・佐藤 正 佐佐木選)
これがまあ民主政治か私語一つなくて除染の説明を聞く (7月29日、福島市・武藤恒雄 佐佐木選)
タンポポとハハコグサとの色のみの除染の公園土まだむきだし (7月29日、福島市・斎藤一郎 高野選)
焼け落ちし燃料棒は如何ならん朝顔の花紺深く咲く (8月5日、福島市・青木崇郎 高野選)
参議選禊となって再稼働一気に進むそんな気がする (8月5日、西海市・前田一揆 佐佐木選)
再稼働急ぐ人等に預けしは小さき命と思えてならぬ (8月5日、門真市・奥中渓水 佐佐木選)
津波だけだったならばと思う事多多ある日々に再稼働何故 (8月5日、行方市・鈴木節子 佐佐木選)
原発の無き岐阜の地でノーを言ふ坂本龍一神出鬼没 (8月5日、岐阜市・後藤 進 佐佐木選)
足跡が庭の何処かに残りしはず除染で削られる夫の歩きし土 (8月5日、郡山市・昆 キミ子 佐佐木選)
原発に土地奪われて夏三たび行くあてのない流浪の民か (8月11日、川崎市・山根繁義 佐佐木選)
公魚は釣られ集められ焼かれたり原発事故の後の日常 (8月11日、平塚市・三井せつ子 佐佐木選)
音もなく板の間に立つのみの二分が重い内部被ばく検査 (8月19日、福島市・米倉みなと 佐佐木選)
三十年チェルノブイリは手つかずにあと幾年か誰も知らざり (8月19日、別府市・河野靖朗 佐佐木選)
反原発のデモの渦からぬっくりと国会議員が二名生まれた (8月19日、日野市・植松恵樹 佐佐木選)
投下せし罪償はぬ国ありてホロコーストに斉(ひと)しき原爆 (8月19日、熊本市・高添美津雄 高野選)
高濃度の汚れちまった廃液が海に漏れ出す泥沼原発 (8月26日、名古屋市・諏訪兼位 佐佐木選)
原子炉を作る企業の求人票昨年よりも数枚多かり (8月26日、伊達市・今 奈奈 佐佐木選)
東京に近くもなくて遠くない福島にいる見えない自分 (8月26日、福島市・武藤恒雄 佐佐木選)
ヒロシマはもっともっと暑かった たまり水吸う夏蝶の群れ (8月26日、福山市・武 暁 高野選)
次回も「朝日歌壇2013年1〜12月」の原発詠を読む。 (つづく)
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