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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年07月18日12時02分掲載
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文化
【核を詠う】(158) 『朝日歌壇2013年1〜12月』から原子力詠を読む(3) 「『東京は安全です』と言われれば区別の助詞の『は』がひっかかる」 山崎芳彦
今回で『朝日歌壇2013年1〜12月』から読む原子力詠の最後になる。多くの人が原子力、特に原発事故に関わる短歌作品を詠み、朝日歌壇に投稿していて、選者によって採られて掲載されている作品の背景には相当な数の作品があることを思いながら読んでいる。筆者の感想を一つだけ記すが、いまこの国の全国各地に原発があり、その再稼働問題がかなり差し迫った状況にある中で、それぞれ原発が立地している地域(狭い範囲ではなく)に生活されている人々の中から、多くの短歌作品や、それだけでなく詩や俳句などの文学作品が生まれ続けてほしい、それが積極的に新聞媒体をはじめ、中央、地方の歌壇世界などの中で広められることがもっとこれから続けられてほしいということである。福島原発事故以前から、その危険性、事故の避けられない発生を警告する作品が、福島をはじめ原発立地周辺の歌人、詩人によって発表されていたことを、筆者は3・11後になって知ったのであった。筆者の不勉強、感性の鈍さ。
原爆については自ら取材しルポを書いたこともあったし、原発についてスリーマイルやチェルノブイリの重大事故、東海原発の事故などについて知らないわけではなかったのに、しかし何も知らないのと同じ生活をしていたことを思うと、真実を知ろうとし、あるいは身に沁みるほど知らされなければ、頭の中の何処かで知っているだけでは、本当に生きることができないのだと、痛感する。
これは、いま、「集団的自衛権の行使容認」があの安倍首相の指揮下で、追従的同伴者の同調により閣議決定されたことともつながることであろう。国会での論議を聞くとき、また安倍首相の記者会見の様子をみるとき、この国はかつて侵略戦争に突き進んだ時代の成り行きをなぞるように動いているのではないのかと恐れるし、怒りを覚える。閣議決定の文書や、安倍首相とその同調者たちの発言から詐欺的な虚飾語、美辞麗句、論理の捻じ曲げなどをはぎ取っていけば、「戦争をする国」が浮き彫りになる。その戦争は、国民の生命と安全、幸福追求権、人間としての尊厳を根こそぎ奪い、苦しみのどん底に陥れたことはあっても、それを守ったことなどこの国はもとより古今東西なかったことは、歴史の真実であろう。「仮想敵国を置いて、自衛の権利を言い、武力を増強する。そして侵略を自衛のためと正当化する。その戦争のために国民は権利を奪われ抑圧され殺し殺される。」かつてこの国はそのようにしたのだ。それを「それは日本の存立を危うくする国際情勢下というやむを得ない状況によるもので間違いではなかったのだ、自虐史観に陥るな」とさえ言うのである。現憲法を邪魔にし、変えようとするものが「憲法の解釈権は内閣総理大臣である私にある。」と、解釈による憲法破壊をしているのだ。国会での佐藤なにがしという自衛官出身の自民党議員とのやり取りを聞いていると、安倍首相の高揚感が露わになっていた。(7月14日) 本性なのであろう。
原発の問題についても同じことで、(自称)「世界一厳しい規制基準」に照らして、「規制委員会が審査し安全と認めれば」原発は再稼働するという。原発は必ず事故を起こすに違いないし、放射性廃棄物の処理は不可能であるし、現に福島の事故で人々が塗炭の苦しみを強いられ、苦悩しているけれども、原発はなくすことのできない基礎的な電源なので、脱原発はしないというのが安倍政治の論理である。もし、原発の事故があったら、核のゴミが処理しきれなくなったら・・・。「わが亡き後に洪水は来たれ―あとは野となれ山となれ」というのも同然だ。大飯原発訴訟において福井地裁が下した「生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において最高の価値を持つ」とする法理に基づく大飯原発運転差し止めを命ずる判決に対する無視。憲法すら恣意的に解釈し行政権を執行するという非道不条理な安倍政権の本質は明らかだ。
そんなことを考える中で、滋賀県知事選挙の結果は朗報であった。原発はやめるべきだ、「卒原発」を滋賀県民は支持し、集団的自衛権行使容認の閣議決定と安倍首相の政治に「ノー!」を突きつけたといえよう。正直なところ筆者は、日本共産党の候補が出たことに、東京都知事選挙の結果を思い出し、強い危惧を感じていた。もしここで、自民・公明推薦候補が勝つようなことがあったらどういうことになるのか、原発政策や集団的自衛権容認の勢力に乗った候補が勝利することがあったらと危惧する人は少なくなかったのではないか。率直に言って、日本共産党の姿勢に対する疑問は募った。しかし、滋賀県民の投票行動は素晴らしかったと思う。
まとまりのないことを書き連ねてしまったが、筆者の本心本音の断片である。なお、前回の中で、筆者の父の死について、1940年と記してしまった部分があるが、1945年の誤りである。訂正させてください。
『朝日歌壇2013年1〜12月』の原子力詠を読むのは、今回が最後となるが、今後とも多くの原子力詠が朝日歌壇に寄せられ、掲載されることを期待したい。
◇2013年9〜12月の作品◇
三度目の時をば刻むことなかれ八時十五分十一時二分 (9月2日、名古屋市・諏訪兼位 高野選)
六十八光年先に今もなほエノラ・ゲイの見し街はあるらむ (9月2日、尾道市・堀川 弘 永田選)
最終日広島でみんな口数が少なくなった修学旅行 (9月2日、東京都・上田結香 永田選)
広島市長核廃絶に触れしときカメラはアップで安倍総理写す (9月2日、京都市・若林香代子 永田選)
妻の待つ広島空港に降り立てば首相警護の眼光鋭し (9月2日、札幌市・藤林正則 永田選)
「過ちは繰り返しませぬ」と原爆の慰霊碑は刻む主語のなきまま (9月2日、西宮市・東谷節子 永田選)
「ドラゴン桜」はあり「はだしのゲン」がなき図書室で子らは自習す (9月2日、藤枝市・菊川香保里 永田選)
天網は疎にして不漏原発は人工システム密にて可謬 (9月2日、宇部市・崎田修平 佐佐木選)
当然のことを簡潔にスピーチの広島市長正座して聞く (9月2日、アメリカ・ソーラー泰子 佐佐木選)
原発がありて失業なしという老若男女村人の票 (9月8日、長岡市・佐藤 正 永田選)
地下水を汲む防護服その空に大きな日傘差したい猛暑日 (9月8日、高崎市・清水節子 佐佐木選)
内に鼠外猪のはびこれる自宅(うち)に帰還を許されてもといふ (9月8日、福島市・青木崇郎 高野選)
原発の避難先にて育てゐる茄子と胡瓜のはなに安らふ (9月16日、東京都・半杭螢子 高野選)
幸せは辛いという字によく似てる若いと苦しいもっと似ている (9月16日、福島市・武藤恒雄 永田選)
放射能塗(まみ)れの猪豚(いのぶた)我が町の県道奔(はし)る廃墟を奔る (9月23日、いわき市・馬目弘平 佐佐木選)
土足にて我が家に入るせつなさよネズミの糞に覆われし床 (9月23日、郡山市・渡辺良子 佐佐木選)
東京ゆ二百五十キロにて汚染水タンクは増えてゆくばかりです (9月30日、福島市・美原凍子 高野、永田選)
東京は安全ですと言われれば区別の助詞の「は」がひっかかる (9月30日、枚方市・小島節子 永田選)
東京は東京にはの「は」と「には」の東京遠く遠く隔たる (9月30日、山形市・小林武子 永田選)
ただ単に汚染水と呼ぶ原発の高濃度放射能汚染水なのに (9月30日、東京都・吉竹 純 佐佐木選)
フクシマの数値も呼び名も曖昧になるも原発の劫火は消えず (9月30日、東かがわ市・河野久之 佐佐木選)
プレゼンの首相の言にウソでしょ!と叫びし我はふくしま県民 (10月7日、郡山市・渡辺良子 永田選)
コントロールしておりますのその朝のフクシマのニュースは汚染水流出 (10月7日、本宮市・廣川秋男 永田選)
こころまで汚染されてくまいにちをフクシマ人は生きております (10月7日、福島市・美原凍子 佐佐木選)
彼岸後に防護服での墓参り秋は静かに夜長に向かう (10月14日、福島市・澤 正宏 馬場選)
満月は海より上り原子炉と人無き街と村とを照らす (10月14日、福島市・美原凍子 馬場選)
靴底に拾う人なき椎の実を踏み拉(しだ)き行く被曝検査日 (10月21日、福島市・澤 正宏 馬場選)
太古より一滴の水もこぼさない地球よあなたを汚してごめん (10月28日、中津市・吉瀬和代 高野選)
戦争も原発もない国がいいと天野祐吉別天地に転居す (11月10日、上尾市・星 吉継 高野選)
避難解け主人と帰宅の番犬は出勤の朝に激しく吠える (11月18日、福島市・澤 正宏 佐佐木選)
慣れなのか諦めなのかこのところ線量計にとんと御無沙汰 (11月25日、福島市・伊藤 緑 佐佐木選)
福島より避難生活二年九カ月われも夫も疲れ果てたり (12月8日、東京都・半杭螢子 佐佐木選)
黒い木に「いちじく食ふな」の札がゆれ原発近き荒れ畑が見ゆ (12月8日、浜松市・松井 惠 佐佐木選)
トイレなきマンションではなく核のゴミは着陸できない旅客機なのだ (12月8日、岸和田市・西野防人 永田選)
捨て場無きゴミ作るなと言ふ人を無責任とぞ責むる無責任 (12月8日、松山市・宇和上 正 永田選)
キャスク、プールまた新たなる語彙(ごい)ふえて廃炉が始まる三度目の冬 (12月16日、福島市・美原凍子 高野、馬場選)
真珠湾の報復という原爆を落とした国に帰化せり我は (12月23日、アメリカ・大竹幾久子 高野、永田選)
人類が言葉発して五万年それより永き核のゴミ処理 (12月23日、岸和田市・西野防人 佐佐木選)
次回からも原子力にかかわる短歌作品を読み続けたい。 (つづく)
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