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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年08月01日13時26分掲載
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文化
【核を詠う】(160) 吉田信雄歌集『故郷喪失』から原子力詠を読む(2) 「原発の地に命あり竹ふたつ物置の屋根を突き抜けて伸ぶ」 山崎芳彦
福島第一原発事故で故郷を追われ、会津若松市にて避難生活を余儀なくされている福島県県大熊町の歌人吉田信雄さんの歌集『故郷喪失』の作品を抄出させていただき、今回で終わる。読みながらその望郷の思い、抽象的でも観念的でもない人間の生活の具体、実態の貴重さを、短歌作品として表出されていることに感じるものがあればあるほど、原発の持つ反人間的本質、人間と共存できない原子力エネルギー利用社会からの脱出、脱原発社会の構築を希求する思いが強まる。それに対して、理不尽な政治、経済的な思惑と「利益至上主義」で、事故が引き起こす底しれない災厄を経験しながらなお原発維持・再稼働ばかりでなく海外への輸出商材としてこの国の首相がトップセールスに走り回っている事態には、言う言葉もないほどの怒りを禁じえない。
今、歌集『故郷喪失』の作者のふるさとである大熊町はどうなっているだろうか。政府は、福島県内で出た汚染土や高い放射能濃度の焼却灰などの保管施設を大熊町と双葉町に建設する計画をしている。この候補地を政府が買い取っての全面国有化は「最終処分場にされる」ことを懸念する地域住民の反対で断念したとはいえ、一部は所有者からの借り上げにより、中間貯蔵施設にする方針は変えていない。「中間貯蔵施設」とはいっても30年(?)にも及ぶ「中間」、「最終」のない「中間」である。この間、石原環境相が「最後は金目(かねめ)でしょ」と「原発の闇の歴史の本当」を口走った一幕があったが、福島第一の壊滅した原発の実態も解明できず、廃炉の見通しも立たず、汚染水問題も泥沼化している中で、なお各地の原発の再稼働にしゃにむに走る政府・経済界とその同調勢力が進める原子力エネルギー政策が進むなかで、避難生活をしている人々の望郷の思いに真剣に応える、まっとうな対策を望むのはまことに心もとないと言わざるを得ない。 しかし、人々が生きるために、将来への希望を持ち続けるために、福島、大熊町、双葉町のこととしてではなく、再び「原発列島再稼働」、「福島原発事故以前への原状回復」を許さない、全国民的な脱原発と福島の真の復活を実現する取り組みを粘り強く、大きく展開していくこと以外に道がないことを、そしてその道はあることを思い続け、為しうることを為し、そしてつながっていく、力としていくために自らを励ましていきたい。
もう半世紀以上前に同じ大学のサークルで一緒だった友人から、8月に福島を訪れる計画を聞いた。残念ながら筆者は同行できないのだが、戻ったら詳しい話を聞かせてもらいたいと思っている。その友人は、これまでにも福島を訪れ、報告集をまとめることや、さまざまの形で福島から避難してきている人とも結んでの活動を続けている。少なくない人々それぞれが脱原発社会への転換を願い、福島の現実を思うとともに原発列島への復帰を食い止めようと動いている。つながり合い、力を集めなければならないときだと思う。どうすればそれができるのか、知恵を出し合いたいと切実に思う。
吉田さんの作品を読んでいく。
◇震災記念日◇ 三・一一の復興を期する合唱の声轟けり友らひとつに
授かりし長命なれば慈しみ生きむと父母はともに百歳
水仙の花咲き初めてふるさとのわが家の庭を思ひ出さしむ
避難地に妻のはらから訪ひ来たりかすみがうらの佃煮持ちて
◇亡き息子◇ 亡き息子の婚礼の写真置く部屋に胡蝶蘭の白き花ひとつ落つ
むらぎもの心にかかるふるさとはわれを拒みぬ核にまみれて
ふるさとの無人のままのわが家を照らすか今宵の下弦の月は
野の鳥も訝りをらむふるさとの無人に過ぎし一年(ひととせ)半を
遁れ来しふるさとを語る酔ふほどに忿り湧きくる壊ししものに
◇野球◇ 夕どきのテレビに出たり驚きの二百歳夫婦と呼ばれて父母は
戦禍経て原発禍にもたくましきともに百歳越えたる父母は
帰り得るなどゆめ思はれず原発の瓦礫化したる建屋をみるに
婆は野手爺は投手と指示を受け庭に孫らと野球してをり
いそいそとヨガに行きたり被災地に農ひとすじに生き来し妻は
原発の被災も父母には深傷にならず百歳を謳歌してをり
風邪を病み寝込みたる母百一歳「いよいよ逝くか」と問へば「まだまだ」
◇会津盆地◇ わが家の裏の竹群思はせて避難地の寺に孟宗軋めり
峠路をゆけば眼下にひらけたる会津盆地は灯のきらめけり
ふるさとを追はれしわれら何処にか住処見つけむ先行き見えず
◇ブルーシート◇ 駅頭に遊山のひとら多きなか一時帰宅のバスに乗りたり
台風の接近急を告げるなか待ち焦がれゐし一時帰宅あり
一時帰宅の中継地点に若きらの助け受けつつ防護服着る
わが丈をはるかに越ゆる雑草を分けわけて入る無人のわが家に
部屋ぬちは14戸外は30を超す数字なり線量計は
頭から足の先まで覆はれて汗は流るる防護服のなか
一時帰宅の規定時間過ぐ持ち帰る品に夢中の妻に声かく
飼犬の放置されゐし亡骸を庭先に埋む一花置きて
一時帰宅を終へて虚しさよみがへる夕日に真向ひ帰途につきたり
◇孟宗竹◇ 避難地に二年(ふたとせ)近しもろもろを記したるノートは三冊目となる
原発の地にありていま栗の花わが家に白く咲きゐるならむ
大きなる赤べこを背に妻を撮る会津にゐたる証にせむと
原発の地に命あり竹ふたつ物置の屋根を突き抜けて伸ぶ
孟宗竹は物置突き抜け伸びゐたり線量高き無人のわが家に
原発禍のふるさとの田はいちやうに泡立草の大群落をなす
若き日に教へし子らも六十五歳けふ同期会風格のあり
◇年越しの夜◇ 新雪を踏む音やさし避難地の雪国にまた冬迎へむとす
仮宿の六畳の間に孫たちと雑魚寝をしたり年越しの夜を
◇雪◇ ふるさとを逐はれて狭き仮宿に小声に豆撒く節分の夜を
白づくめのこの空間にたぢろぎぬ浜の原発逃れて住めば
◇会津は雪◇ 一時帰宅の春彼岸なり倒れたる墓石の前に香を焚きたり
われを見て逃ぐるもあれば寄るもあり線量高き庭に野良猫
(以上の作品は2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原発事故後の避難生活の中で詠まれたものだが、この後に抄出の作品にはそれ以前の作品が収録されている。作者の吉田さんは「震災以前の生活への回帰を願うのも望郷の念と言えるだろうと思う。」と「あとがき」で記している。)
◇排気塔◇ 原発の排気塔四基そびえ立つ無機質ゆゑの冷たさ見せて
排気塔の灯点滅をつづけつかの闇深く原子炉のあり
原発は今宵何する闇をつき蒸気の音の絶ゆることなし
孫とゐるこの喜びも素直には容れがたくをり原発の町に
◇新聞ふたつ◇ ひむがしに望月懸かり原発の排気塔六基白く浮き出づ
吉田信雄歌集『故郷喪失』を読むのは今回で終わるが、次回も原子力詠を読み続ける。 (つづく)
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