毎日新聞8月2日付けの記事は、深刻さの度合いを深める東電福島第一原発の実態を報じた。事故直後と変わらないばかりか、時間と共に改善できない分だけ深刻さが増している現場の様子は、ほとんど報道されなくなっている中、重要な記事だ。『福島第1原発:汚染水年度内浄化、困難に』との表題の記事で、東電が自ら目標設定していた今年度内の全量浄化処理は達成困難であることを8月1日に明らかにした。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140802-00000006-mai-soci
汚染水対策は国が委員会を設置して「一歩前に出る」とし、税金を470億円投入することを決めている。東京オリンピック招致のために海外から原発廃炉処理が手間取っているとの印象を持たせないために「解決に向かっている」と思わせたいのだろう。その一方で、ALPSのトラブルや汚染水(つまり放射能)漏れなどは報道されなくなっている。安倍晋三首相の「アンダー・コント ロール」を否定するわけにはいかないわけだが、これでは報道機関として失格だ。
フクイチの現場がどうなっているかをこそ報ずるのがメディアの責任だ。もっとフクイチに迫って欲しい。
◇欠陥ALPS
ALPSは昨年3月に試運転を開始したものの、様々なトラブルにより断続的に停止してきた。その結果、敷地内に保管されている汚染水約47万トンのうち、ALPSを通っているのが2割強の11万トンあまり。しかもALPSを通過してもコバルト60など、トリチウム以外の4種類の放射性物質が十分に除去しきれていないというから、公約違反である。
9月以降に今度は、ALPSの増設が始まった。10月以降は日量2000トンにまで処理能力を高める計画だが、それでフル稼働したとして年度末の来年3月末までに処理できるのは最大で約40万トン。つまり今までタービン建屋などから汲み上げてタンクに溜められている高濃度汚染水約36万トンを処理するのがやっと。これまで欠陥ALPSで取り残した4核種汚染水の処理にまで手が回らない。
◇言い訳だらけ
「目標はあくまで汚染水のリスク低減。来年3月末までにすべての汚染水をアルプスに一度通すことができれば、リスクを下げたと言える」と説明するのが東電広報部。リスクを少しでも下げていれば予定通りと言いたげだが、いかにもとってつけた言い訳だ。それに呼応する資源エネルギー庁の担当者は「4核種が残っても汚染水の貯蔵リスクを低減できればよい」と同じことを言う。
国が一歩前に出るといったときの責任者は規制委員会ではなく、資源エネルギー庁であるから、自らの責任を問われたくないわけだ。 さすがに原子力規制庁の担当者は、もっと厳しめの立場で「アルプスを増設しても、きちんと動くかどうかは分からない。そんな状態で処理量の見通しは立てられない」と話すが、規制の立場からの発言は出てこない。
◇現場の環境は依然として悪いまま
敷地境界の放射線量率が現在、年間5ミリシーベルトを超えている。年間1ミリシーベルトが法規制値だから、違法状態は解消されない。
この原因の一つが、汚染水タンクが境界付近に立っているからで、東電はこれを撤去する計画だが、考えるまでも無く高線量を発するタンクが敷地内にあれば空間線量を押し上げて、被曝線量が増えてしまう。これを解消する責任が東電にはあるのだが、それも実行していない。
いったいやる気があるのかないのかと厳しく問うべきだが、問題は国の姿勢だ。東電の最大の株主は国である以上、何かをさせるには国に要求するべきだということ。現場の環境を悪化させたまま放置しているのも、労働者の被曝を引き下げようとしないのも、ピンハネや違法派遣を放置しているのも、責任の多くは国にあるということを、もっとはっきりと指摘しよう。 再稼働準備などに巨額の資金を投入させない。フクイチの対策に使わせる。それが重要である。
|