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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年08月21日20時46分掲載
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内田樹著 「寝ながら学べる構造主義」
内田樹氏によるフランス構造主義の解説書「寝ながら学べる構造主義」が文春新書から出たのは2002年のことで、はや12年がたつ。この本は画期的な本だったのだが、その理由はそれまでの哲学の入門書と非常に異なっていたからだ。内田氏はタイトルにあるように「寝ながら学べる」ような平易な表現によって、奥の深い構造主義の哲学へ読者をいざなってくれたのである。その姿勢は本書のまえがきにもきちんと宣言されている。
「本書は入門者のための、平易に書かれた構造主義の解説書です。私は「専門家のための」解説書や研究書はめったに買いません。つまらないからです。しかし、「入門者のための」解説書や研究書はよく読みます。おもしろい本に出会う確率が高いからです。「専門家のために書かれた解説書」には、「例のほらあれ・・・参ったよね、あれには(笑)」というような「内輪のパーティ・ギャグ」みたいなことが延々と書いてあって、こちらはその話のどこがおかしいかさっぱり分からず、知り合いの一人もいないパーティに紛れ込んだようで、身の置きどころがありません。」
入門者のための解説書は読者が知らないことをベースに説明していくから、著者には根源的な疑問や問題提起に対して素手で答えていくラジカルな営みが求められる。ありものの説明ではなく、素手で、つまり自分の言葉で咀嚼して語らなければ読者は興味を持続できず、ついてこれない。
思い出すのは1980年代の哲学ブームである。この頃、思想・哲学が流行っていたし、ジャック・デリダはその当時最も流行していた名前だった。しかし、この頃書かれていた文章の大半は内田氏が指摘しているような、内輪のパーティに似たものがあったと思う。一般の労働者、一般の読者をはるかに離れて理屈のための理屈、知識のための知識に淫しているように思えた。一部の人には興味深くもあっただろうが、大衆にとっては哲学はすでに無縁のものになっていた。そのブームはかなりな程度、上っ面だったのではなかったか。実際、それ以後、書店から哲学書や思想書が次々と姿を消していった。だから、その後に現れた木田元氏による「わたしの哲学入門」や、内田樹氏による「寝ながら学べる構造主義」は再び一般の人々のもとに哲学を返してくれた気がする。
内田氏の特徴はこれらの哲学を、日本を覆っている時事的な大きな問題と関係させて読者に提示したことにある。しかも、80年代に言論界にいた人々に比べて、はるかに重いテーマを、刻々と状況に照らし合わせて語っている。「寝ながら学べる構造主義」はその時々刻々の思考のバックボーンとしての構造主義を、その始祖であるソシュールからフーコー、バルト、レヴィ=ストロース、ラカンまで解説したものである。よい本を1冊読めば、さらに5冊、10冊と読みたくなるもので、「寝ながら学べる構造主義」もまたそのような一冊である。だから、書店はもし本を売りたければこのような次につなげられる本をなるだけ維持した方がよいのではないかと思うのだ。
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